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第145話 「試練のダンジョン」その2

「メ、メイリンちゃん。絶対守ってみせるからね」




敵の余りの強大さに、足が竦む、全身から冷や汗と震えが止まらない。




(しっかりしろ。剣豪十傑、第5席の名が泣くぞ)




この2年でヤンは、順調に実力をつけ、「大剣流」内での序列も第10席から5席まで上がっていた。だが若手随一の実力との噂に高い、そのヤンの実力をもってしても目のまえの敵は相手が悪すぎた。




(ば、ばかな・・・雷虎ライコが群れを成すなんて聞いたこともないぞ)




ヤン同様、キムも目のまえの状況に我が目を疑う。なかつ国屈指の治癒魔術師として名を馳せた彼は、若い頃より冒険者パーティの引く手は数多であり、今まで数々の超一流冒険者と共にダンジョンを踏破してきた。踏破してきたダンジョンの中には、国内最高難易度と言われたクラスが含まれるがその数は10を下らない。そのキムでさえ、このような状況は初めてなのだ。




キムは、目の前に30頭はいる雷虎の群れの先頭にいる一頭に視線を移した。その名の通り、雷を纏ったその身の丈は5メートル程はある。通常は、高難度のダンジョンのラスボスとして登場することが多い。虎本来のひっかきや噛みつきなどの攻撃方法に加え、雷撃などの雷魔法を使用するなど、多彩な攻撃パターンを保持するが、怖いのはその高い知能を生かした戦略にあり、高い身体能力と視野をもって、常に有利なポジションで安全マージンを十分とって戦うそのスタイルは、「知性あるインテリジェンスモンスター」と言われている。




今もキム達は、切り立った岩肌を背に放射線状の陣形を取った雷虎と対峙している。周りは開けた広場で逃げ場は見当たらない。つまり、絶体絶命だ。




(私の身命を賭しても、大恩あるワン様のお嬢様だけは御守りしないとな)




だが、回復役の自分が真っ先にやられるわけにはいかない。かと言ってまだ若いヤンに時間稼ぎの捨て駒になれとは、言えないのも事実だ。さて、どうしたものか。




「キムさん、オレが突っ込んで時間を稼ぎます。後はメイリンちゃんのこと頼みますね」




意を決して捨て駒になろうとしていたキムにヤンが声を掛ける。若輩者とは言えヤンも一流の武芸者なのだ、この場で一番確率が高いのは自分が捨て駒になることを理解していた。




「キムさん、別に倒してしまっても構わんのでしょう?」

「ちょ、ヤン殿それは・・・」




言いようのない悪寒がキムを襲う。もうヤンとは二度と会えないような、そんな予感がする。改めてヤンに向き合うがその瞳には強い意志の光が宿っている。惚れた女のために命を懸ける漢の目だ。ここで水を差すのも無粋か。うむ、もはや何も言うまい。2人は目配せをすると雷虎の群れへと向き直る。




ピカーーーーーー!!!




(しまっ・・・)




次の瞬間、辺り一面を眩い光が埋め尽くす。雷虎の最大攻撃技である雷撃だ。10万ボルトの雷が文字通り光速で目標へと襲い掛かる。避ける術はない。なんという事だ、モタモタしている間に雷虎のヤツが攻撃してくるなんて。やはりさっきの不安は的中してしまったようだ。




ズガーーーーーーーン




遅れて衝撃音が響き渡り、辺り一面砂埃が舞って視界を奪う。視界は防がれたが、ヤン、キムともに無事のようだ。至近距離での雷虎の必殺の一撃であったが、運よく外れたらしい。それよりもメイリンは無事なのか?2人は神経を研ぎ澄ませメイリンの気配を探る。




「くだらない技ですわね。ただほこりを巻き上げただけだなんて・・・」




その時、前方から凛とした声が響いた。メイリンの声だ。ヤンとキムは、いつもとなんら変わりない声色に心底安堵する。




「メイリンちゃん!っておわっ!」

「お嬢様!む、なんと!」




メイリンの無事がわかり安堵したのも束の間、急に現れた竜巻に巻き込まれ2人は錐もみ状態で空中へと投げ出される。回転しながらも空中で体制を整える2人、どちらも武術の達人だ、このくらいは朝飯前である。素早く辺りの状況を把握しすぐにメイリンの姿を捕らえる2人であったが、なんという事だ。メイリンは眼下で雷虎と対峙しているではないか。




「ガウウウ・・・」




次の瞬間、メイリンに雷虎が四方八方から襲い掛かる。一糸乱れぬその連携は惚れ惚れするほどきれいな陣形を描き、その狙った獲物に一分の逃げ場も許さない。




(ダメだ。やられる!)




眼下の少女に危険が迫るが、空中に投げ出された状態では事の成り行きを見守ることしかできない。2人は己の無力さを呪う。だが、そんな2人の想いは全くの的外れであった。






ボボボボンッ




メイリンを襲った雷虎たちが一瞬のうちに首を掻っ切られ、煙とともに消え失せる。達人2人の動体視力をはるかに超えた動きで、その離れ業をやってのけた張本人は空中の2人に向けて得意気にVサインを送る。




「ヤッホー、ねえねえ2人とも今の見てくれた?凄かったでしょ?褒めてくれてもいいのよ」

「ちょ、メイリンちゃん。油断したら危ないって」

「お嬢様、警戒を解くのは些か早いかと」




絶体絶命かと思った次の瞬間、見事に危機を回避したのを見て2人は一瞬安堵するが残りの雷虎が仲間をやられて黙っているハズはない。まだ危機は去っていないのだ。




「うん?2人とも何を言ってるのかしら?」




ところが、メイリンはそんな2人の心配をよそにあごに手をやり首を傾げる「?」のポーズだ。サラサラのシルバーの髪が零れるのを見て思わずキュンとする彼らであったが、呑気な彼女の様子に気が気でない。




「メイリン、うしろー」

「お嬢様、後ろです」

「うん?」





ボボボボボボボボボボボッ




次の瞬間、その場にいた全ての雷虎が煙と共に消え失せた。




「え?え?」




状況が呑み込めず狼狽えるヤンであったが、出来る男キムは全てを把握した。




(なるほどな)




今回のダンジョン攻略は、地下5階までのボス戦は全てメイリンに任せた。もちろん、彼女の希望でそうさせたのであるが。




(つまり、今回の転移先はお嬢様のレベルに合わせてあったのだな)




今までキムでさえ、気付いていなかったメイリンの実力はなかつ国でもかなり上位に位置する2人のはるか格上であったということか。




(そして、雷虎が放った雷撃はお嬢様の風魔法エアドームによって防がれた上に足手まといの我々2人が襲われない空中へと避難させたのだな)




「お嬢様、お見事でございます」

「ふっふーん、分かればいいのよ」


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