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第143話 試合後

「あなた、メイリンが勝ちましたわよ」




エリーは横で両手を握りしめ、下を向いたまま座っている夫のワンへと声を掛けた。妻の声に飛び上がるように顔を上げ武舞台を見ると、勝ち名乗りを受けた最愛の娘が大はしゃぎで飛び跳ねているのが見える。あ、声援をくれた観客に向け投げキッスをしているじゃないか!それはダメだ、サービス過剰だろ。と、今度はやきもちしている。カワイイ娘を持つ父親は大変だ。




「良かったですね旦那様、私の出番はなかったようですのでこれで」




隣に座っていた紳士がにこやかに席を立った。万が一のためにワンが雇っていた、なかつ国屈指の治癒魔法の使い手だ。




「ああ、ありがとう。また次があったらよろしく頼む」

「はい、いつでもお声がけください」




試合の一部始終を見ていた治癒魔術師のキムは、今後も自分の治癒魔法の出番がないことを悟りながらも口にはせず、その場を後にした。








ヤンが目を覚ますと、ニューヒロインの誕生に会場中が大盛り上がりだった。自分を負かしたメイリンは、観客の声援に手を振ったり、投げキッスをしたりと愛嬌を振りまいている。その可愛い仕草に観客、特に男性は大喜びだ。




「あ、気が付いた?」




よろよろと起き上がったのに目敏く気付くと駆け寄ってくる。心配そうに見つめてくるが、もう分かっている。最後の攻撃が手加減されたものであることを。空気の層を纏った刃で必要最小限の打撃で正確に急所を打ち抜かれたのだ、その圧倒的な技量の差はイヤでも分かってしまう。





「完敗だ、尊敬するよ」




素直に賞賛する、ヤンは右手を差し出すと握手を求めた。




「ごめんねえ、男の人と手なんて握ったらお父様に怒られちゃうから」




顔の前で両手を合わせて上目遣いでゴメンナサイのポーズ、



ズキューン・・・




ヤンが恋に落ちた瞬間であった。(もちろん、その恋が成就する事は決してない)








「みなのものご苦労であった」




そのとき、従者を引き連れた男が奥から現れる。御前試合を観覧していた皇帝のチャンだ。その厳かな雰囲気に、今まで騒いでいた観客は静まり返る。御前試合の出場者も、間近で見る皇帝の迫力に気圧されて背筋をピーンと伸ばした。




「よいよい、試合をした後で疲れておるだろうから楽にせよ。存分に楽しませて貰ったぞ」




チャンは慈愛に満ちた眼差しで、出場者一人一人を見つめる。と、その視線がメイリンへと注がれた。




「きゃあー、チャンのオジサマー。メイリン頑張ったよ」




するとメイリンが飛び跳ねながら手をブンブンとチャンへと振った。





「メイリンちゃーん、頑張ったねー。オジチャン見てたよー」




途端に、チャンは相好を崩す。厳かな雰囲気は一変し、同じくメイリンへと手をブンブンと振り、満面の笑顔を浮かべる。





シーーン・・・





周りの人々は、チャンのそのあまりの変貌ぶりに唖然とする。





「―――はっ」




我に返るチャン、ゴホンと一つ咳払いをする。





「メイリンちゃん、ごめんね。みんなの前だから今はちょっと大人しくしてくれるかな?」




するとメイリンは、両手で口を押さえハっとした顔をする。その後、ペロッと舌を出して右手で自分の頭をコツンと叩く。





「いっけなーい、私ったら調子に乗っちゃった。オジサマごめんなさーい」




普通の人がやったら、殺意が沸くような仕草だが、メイリンがやると、ただただ可愛らしい。チャンを含め、周りの従者や他の御前試合出場者、その関係者、観客たちひとりひとりに至るまでその場にいた人たち全員の胸をキュンとさせる。






チャンとメイリンは別に血がつながっている訳ではない。彼女の父親であるワンが経済的にチャンの後ろ盾となっている関係でメイリンが幼い時から家族同然の付き合いをしていたのである。そして、チャンもワン同様メイリンにメロメロなのだった。






そうして「御前試合」ジュニアの部は、メイリンの優勝という結果で幕を閉じたのであったが、その後少しだけ波乱があった。メイリンに敗れたヤンであるが、実はなかつ国剣豪十傑に名を連ねていたのである。彼は若輩者とは言え、その実力は高く評価されており、相応の実績もあったため、その10席の地位を与えられたのであるが、そのヤンを破ったメイリンにこそ、その地位がふさわしいのではないかという声が挙がったのだ。



この「剣豪十傑」であるが、文字通りなかつ国の中で一番強い剣士10人という意味で、有事の際には皇帝であるチャンの親衛隊を務める。もちろん、なかつ国はヒノモト国同様、治安が良いので滅多な事はないが。



ちなみに、この十傑であるがそのほとんどが「大剣流」で占められており「双剣流」は7席の1名のみである。そして、この7席は名誉職のようなもので代々「双剣流」の総師範が自動的に任命されるだけの言わばお飾りの地位であり、実力自体は10席よりも下と言われている。つまり、メイリンは「双剣流」の総師範よりも強い事になるのだ。




このメイリンの十傑入りであるが、父親のワンはモチロンの事、皇帝のチャンも大反対したのでお流れとなった。








そうしてまた少しだけ時が流れたある日の事、メイリンとなかつ国の聖獣である「朱雀」は出会ったのだった。



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