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第138話 最後の晩餐での出来事

その事が分かったのは、結婚して暫く経った日だった。その日もシュウは、もはや日課となっている夜の散歩に出かけていた。散歩とは言っても庭を散策するだけだが、悶々とした日々を過ごすシュウは眠れない夜はこうやって自分を落ち着かせていたのだった。




「はあ、結局今日も誘えなかったなあ、嫁さん誘えないかどんだけヘタレなんだよ・・・」




普段の会話は何とかこなせるようになったのだが、いかんせん女性経験がないシュウは女の子をどうやったら自分の部屋に誘えるのかまるで分からないのだ。そんな事を考えながらトボトボと歩いていると、前方に人影が見える。




「?!」




なんと、そこに佇んでいたのは意中の相手であるアイだった。恐らくアイも眠れないで夜の散歩をしていたのであろう、この千載一遇のチャンスをモノにしようとシュウは、少ない女性関係の知識を総動員してアイへと言葉をかける。




「あれ?奇遇だね?アイも眠れなかったの?」

「・・・・」




意を決して話しかけるが反応がない。その事に少なからず動揺するも何とか気を取り直し、再び声をかける。




「あ、あれ?アイさん?寝てるの?」

「・・・・?!あれ?シュウやん?どうしたん?」




何とか反応があった事に気を良くしながら、先ほどの質問を再度ぶつけてみる。




「アイもオレと一緒で寝付けなくて散歩していたの?」




(よし、このまま自然な流れで2人で夜の庭園を散歩していいムードになったらオレの部屋へ誘うんだ。幸い今日は月も出ていていい感じに庭がライトアップされている。まあ、夜の枯山水の庭がムード満点かと言えば違うかもしれないが、ギリいけるだろう。トキさんに紹介してもらった庭師さんが、昼間にいい仕事してくれてて良かったなあ。)




「いや、そういう訳ではないけど・・・」

「良ければ一緒に散歩しようか?一人よりも二人の方が、ってあれ?」




アドリブの効かないシュウは、予想外の返答に完全に出鼻を挫かれてしまった。




「ごめん、ちょっと一人になりたくて外におったんよ」

「そ、そうかあ。じゃあ、一緒に散歩とかは・・・」

「うん、一人にさせてくれんかなあ」

「そ、そうだよね。誰だって一人になりたいときはあるもんね。じゃあ、オヤスミ」

「うん、オヤスミ」



アイはそれだけ言うとシュウから視線を外し、また物思いに耽るように佇んだ。それを横目にしながらシュウは、足早にその場を立ち去る。




「はあー・・・やっぱりダメだったかあ」

『ご主人様、どうしたニャ?泣いてないかニャ?』

『元気出してニャア』




意気消沈して自室に戻ると、コタロウとコジロウが出迎えてくれる。モフモフに囲まれながら少し持ち直すシュウ。やっぱりネコは傷心を癒してくれる。







眠れない夜が続くシュウであったが、それからも度々夜の庭園に佇むアイを見かける。そんなアイを夜の散歩へ誘おうと、果敢にチャレンジするも華麗にスルーされるウチにすっかり心を折られてしまった。そうして、シュウはいつしかアイが佇むのを遠巻きに見守るだけにしたのだった。




「それにしても、アイはなぜ夜中に一人であんなところにいるんだろう?ひょっとしてメイド2人と仲良くないのかな?」

『それはないと思うニャ』

『にゃあ、あの3人はとっても仲が良いですニャア』

「そうか、お前たちがそう言うならそうなんだろうなあ。じゃあ一体なぜ?」



自分がネコよりも女心が分かってない事を暗に認めているのだが、それに気づかないシュウであった。







アイの夜中の一人散策について、その理由が分かったのはひょんなことからだった。




「おう、お前なんかつよくなったじゃねえか」

「ありがとうございます師匠、なんか今日は体のキレがいいんですよ。これも師匠のご指導の賜物ですかね」




いつものように道場でのムサシとの会話であったが、ここでシュウははたと思い当たることに気付き、思いを寄せてみる。そう言えば、先週も急に体のキレが良くなって師匠に褒められたことがあったなあと。



そして先週だけでなく、その前の週もその前も、突然体のキレが良くなることがこれまでにも週に一度から二度ほどあることに気付いた。そしてその時の共通点も。




「うん?そう言えば・・・」




そうだ、思い返してみるといままでも体のキレが急に良くなった日はいつも前日の夜にアイを見かけた日だった。


「これってひょっとすると」




シュウは、道場の端で稽古を見学しているアイの方を振り返った。シュウとコタロウ以外のメンツはいつも見学しているのだ。




「あれ?アイ?」




アイは道場の隅のいつものポジションで座っていたのだが居眠りをしていた。こくりこくりと首を傾けながら鼻ちょうちんをふくらませている。たとえ、どんなに間抜け面で寝顔をさらしていたとしても、たとえ、鼻ちょうちんまでふくらましていたとしても、アイの可愛らしさは少しも損なわれない。シュウはアイの寝顔を見てちょっとほっこりしてしまう。




「むにゃむにゃ、おにぎりの具はめんたいこ一択やろがい・・・」




よく分からない寝言を発しながらぐっすりと寝ているアイを起こすのが忍びなかったために、そのままチョコに乗せて家まで帰ることにした。ちなみに最初はシュウがおんぶして運ぼうとしたのだったが、『にゃあ、ご主人サマ。とても気持ち悪い顔してるニャア』とコジロウに指摘され、コジロウの魔法でチョコに乗せたのだった。アイに密着できるチャンスを振ったシュウが血の涙を流したのは言うまでもない。




「おっはよー、ってあれ?なんでウチがチョコに乗っとうと?」

「おはようアイ、昨日はオレ達のために遅くまで頑張ってくれてたんだよね?いつもありがとう」



チョコの上で目を覚まし、自分の置かれた状況を把握できていないアイにシュウは改まった顔でお礼を述べた。



「う、うん?なんのこと?ウチはほら、天才やし、そんなんすぐ出来るけん」



寝ぼけ眼のアイは急な感謝の言葉とその態度に驚き、首と両手をぶんぶんと振って、全力で否定する。ホントにウソが吐けない娘だ。



「そうだね、アイは天才だからね。でも、あんましムリはしないでね」

「む、むりとかしとらんけん、大丈夫やし」




顔を真っ赤にしながら、またまた否定するアイだった。




つまり、こういう事だ。今までインストールしていたスキルのバージョンアップや不具合の修正、他にも新しいスキルのリリースなどのメンテナンスをシュウたちが眠ったとき、つまりシャットダウン時に合わせてアイがたった一人で行っていたのだ。次の日、眠りこけるくらい遅くまでかかって、それを誰にも悟らせないように。今まで、アイは天才だからスキルなんて簡単に作っているとばっかし思っていたのだったが、実際はそうではなかったのだ。




「はあ・・・それなのに、オレときたら」




あの時の自分に会えたら、ぶんなぐってやりたい。そう思い身もだえしながらも、なんとかアイに精一杯のお礼を述べるシュウなのであった。











~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「ふう、食べた食べたー」





毎度のことながら、目の前にうずたかく積まれた大量の食器を見ながら思う。ああ、戦闘民族の食事シーンでこんなのあったなあ、と。




みんな満腹になり、それぞれ何も言わずに自分の席でゆっくりとしている。その顔は誰もが幸せそうだ。そんな中、シュウは目のまえのメロン二個に視線を奪われていた。メロンと言ってもデザートではない。それはモノの例えである。つまり、自分の正面に座ったワカメちゃんがその豊かなバストをテーブルの上に置いているのだ。前述のとおり、ワカメちゃんはかなり豊かなバストの持ち主であるが、満腹になり、シュウの目のまえで楽な姿勢を取っていたのである。








(うわあ、アレが巨乳女子あるあるかあ)






噂には聞いていたが、まさか目のまえで現物を見ることができるなんて。シュウは、思わず目が釘付けになってしまう。




「ほらワカメー、あんたのムダに大きいおっぱいが狙わてるぞー♪」




声と同時に、背中から2本の手が伸びてワカメちゃんのおっぱいが鷲掴みにされる。シュウの視線に目敏く気付いたサザエちゃんだ。




「ああん、もうやめてよー」




サザエちゃんの細くてしなやかな指がワカメちゃんの胸部へと深く食い込んでいく。




(うわあ、あんなにやわらかいんだ)




シュウは目のまえで行われている光景に更に目が離せなくなってしまう。思わず身を乗り出してもっと見ようとしたその瞬間、




「ドスッ」




(あれ?急に目のまえが真っ暗に・・・)




横に座っていたアイがシュウのあご先へと正確にパンチを繰り出し、脳みそを揺さぶられた結果、軽い脳震盪を起こしたのである。











~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「おい、おいったらおい」




そうして目を覚ましたら、見覚えのあるパルテノン神殿風の建物の中、見覚えのある西洋風イケメンから声をかけられていたのである。



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