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第137話 他の面々の成長

食堂の大きなテーブルには、所せましと料理の数々が並んでいる。トンカツにかつ丼にカツカレーだ。



トンカツは、ヨシタケ牧場直送の大三元豚を特製のラードでからりと揚げてある。そのきつね色の見た目通り衣はさっくさくで、噛みしめると上質な豚の脂が口の中一杯に広がる。


その最高のトンカツをクロヤナギと一緒に煮込んだのちに卵でとじて、どんぶりによそったあったかご飯にぶっかけたかつ丼。一口ほお張ると、ふわトロの卵の食感にカツに程よくしみ込んだ最高のツユ。もちろんコウノスケさん特製の出汁と合わせたヤツだ。


そしてカツカレー。カレーはもったりとしたいわゆる家庭のカレーで専門店のようなスパイシーさには欠けるが万人受けするホッとする味だ。


この世界にはカレーという料理の概念はなかったのだが、ダルシム国には各種スパイスを組み合わせた料理があり、それらのスパイスは越後屋で手に入るので、それらを使って試作を繰り返しとうとう現世のカレーにある程度近いものの再現に成功したのだった。もちろんリンゴちゃんとハチミツも入っている。




「これ食べて明日はみんな頑張ってね。『テキにカツ』って言うんでしょ?」



サザエちゃんから今日のメニューについて説明がある。明日のために気を利かせてくれたのか。確かにトンカツを教えた時、「コレはゲン担ぎの料理で勝負の前に食べるんだよ」って教えた気がする。それを覚えてくれてたのか。もちろん、明日の戦いは政府関係者のみのトップシークレットなので詳細は教えていないのだが。



まあせっかく用意して貰った御馳走だしありがたく頂くとしよう、どれも凄く旨そうだしな。なにしろ一流の料理人が一流の食材を使って手間暇かけて料理しているから、素晴らしいクオリティのものが出来上がるものだ。




ちなみに一流の料理人とはサザエちゃんの事である。元々メイド2人は見た目に寄らず家事全般をソツなくこなせるスペックの持ち主であったが、この4年でさらに磨きがかかった。特にサザエちゃんの料理人スキルが劇的に飛躍した。元々料理好きだったのだが、料理を極めたいと言ってコウノスケさんの元で修行をするためその門戸を叩いたサザエちゃんはたったの一か月でそのスキルのほぼ全てを身に着け、コウノスケさんをして「ウチ系列の高級料亭で調理主任をしてもらいたいくらいです」と言わしめたのだった。



以来、我が家の台所はサザエちゃんが預かることとなり、シュウの願いで現世の料理の数々を再現してもらったのである。ギャル系の見た目のサザエちゃんがエプロンを付けて台所に立っていると若妻のような初々しさがあって可愛らしいのだが、ひとたび愛用の柳刃を持つとがらっと雰囲気が替わる。刃渡りが1メートル近くもある最早日本刀のようなその柳刃を両手に食材を見る目は冷徹そのもので見るものの背中をゾクリとさせるものがある。


実際、その様子を間近で見たシュウはその殺気に充てられ、アイテムボックスの中から取り出した「紅蓮丸」をいつのまにか握りしめていたほどだった。




対するワカメちゃんの方は、掃除特化のスキルを磨いた。掃除と言っても片づけスキルだけじゃない。庭掃除から簡単なDIYまで屋敷の維持・管理に必要なスキル全般を習得している。


トキさんから譲り受けたこの屋敷は、かなり広い。平屋作りではあるが、部屋は10以上ある上にそれぞれの広さもかなりなものだ。例えるならばちょっと大きめのお寺や城のようなイメージだ。屋敷に入ると大理石で作られた広くて豪華な玄関があり、その奥へと続く長い廊下と襖で区切られた広い部屋が延々と広がる感じだ。


それを掃除して回るだけでも大変な作業なのだが、加えて広々とした枯山水の日本庭園まであるのだ。とてもじゃないがメイド2人では手が回らないので、当初はトキさんにお願いしてハウスクリーニング業者さんを手配してもらっていた。



ところが、みるみるうちにワカメちゃんの掃除スキルが上達し掃除に洗濯、はては庭木の剪定に至るまで全て一人で出来るようになったのである。



もちろん現世ではいくら掃除の達人でもこの広さの物件を一人で掃除とか物理的に無理だが、魔法が使えるこのファンタジーな世界では話は別なのだ。たまに掃除スキルを極めたワカメちゃんが雑巾がけをしている姿を見かけるのだが、全身に風のようなものを身にまとい、凄まじい速さで廊下を往復している。そしてワカメちゃんが雑巾がけをした後には、チリ一つない、ピカピカに輝く光の道が出来ると言ういわゆる漫画的なアレである。




このようにかわいいメイドさんだった2人は、この4年でメイドとしての道を極めたのであった。





「いっただっきまーす」





挨拶と共に、全員が食事に取り掛かる。この世界の常識は分からないが、この家ではメイドの2人も一緒のタイミングで食べる。忖度はなしだ。別に食卓の後ろに直立不動で控えている訳でもなく、美味しくなるビームを発射する訳でもない。全員が平等に同じものを同じタイミングで頂くのだ。




『うみゃあ』

『美味しいですニャア』




コタロウはかつ丼派でコジロウはトンカツ派だ。コタロウはネコらしくどんぶりに顔を突っ込んでむしゃむしゃと食べるのだが、コジロウは目のまえのトンカツを魔法で空中浮遊させ、一口大の大きさに切断した後、口に運ぶ。さすがコジロウ、与えられた魔法使いポジションの役割をきっちりと演じ切っている。コジロウは空気が読めるネコなのだ。ちなみに2匹ともネコ舌を克服しているのは言うまでもない。




『美味しいね』

『美味いぜ』

『美味しゅうございます』




ガル、ギル、ゴルは上背がないためそれぞれ専用の椅子を用意している。モチロン、ワカメちゃんのDIYスキルにより作成されたオーダーメイドだ。それに器用に座り、器用にナイフとフォーク、スプーンを使いこなして食事する。こいつらは体は小さいが、口は大きい。なので一口が普通の人間の倍以上あり、目の前の食事が次から次へと消えていく。こんなに食べるのにこの4年間、見た目は全然変わらない。





見た目が変わらないのは、コタロウとコジロウもだ。だが、コタロウはオレと一緒にムサシ師匠に鍛えて貰い、この4年間で格段に強くなった。対して、コジロウ、ガル、ギル、ゴルはオレ達の特訓を傍で見ているだけで特に何もしていなかった。だが、シュウは全く心配していない。アイが「ヨカッちゃなかかな~」と言っているからだ。そう、アイがいいというなら良いのである。アイが「カラスは白い」と言えばシュウは白いペンキを持って町中のカラスを白く塗らなければならない。



そのアイは隣で一心不乱にかつ丼をかき込んでいる。きれいな桃色の髪のツインテールがアイの咀嚼のタイミングに合わせて揺れている。シュウは、暫くその様子に見惚れていた。と、アイがその視線に気付く。




「どうしたと?」

「あ、アイがカワイイから見惚れてました」



臆面もなくそんなセリフが出てくるようになったシュウ、成長したものである。

だが、アイは顔を耳まで真っ赤にして丼で顔を隠す。




「バ、バッカじゃなか?ウチがカワイイとかそんなん、あ、当たり前やし」

「はいはいごちそう様、毎度のことながらお熱い事で」



サザエちゃんが両手を大げさに叩いて、「ひゅーー♪」と口笛を吹く。すると


「え?サザエちゃん『ごちそう様』ってもう食べないの?食べないなら、私が食べたげようか?私まだまだぜんぜんイケるよ」とワカメちゃんが話に加わる。



「はあ、あんた相変わらず天然だよねー。ワカメあんたちっさい頃いっつもスカートからパンツはみ出てたもんね、注意してものほほーんとしてさ」

「えー、それいう?それ私の黒歴史だよー」




たとえビジュアルが大きく違ったとしても、どこの世界でもワカメちゃんの基本スペックはどうやら変わらないらしい。




この2人のキャラクターとその関係性も大分掴めてきた。いつも若い女の子が近くにいるという環境は女の子と全く縁がなかった昔とはえらい違いだが、その環境にも慣れ今では2人との会話も普通に出来るようになった。





もちろん当たり前の話だが一番距離が縮まったのはアイだ。アイという女の子は、その見た目の可憐さと天才的な頭脳からは想像も出来ないくらい不器用な子だった。そして同じくらい努力家だった。



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