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第132話 晩餐

ヨシタケさんの奥さんは、とても料理が上手だった。そしてその料理は洋風の料理だった。




「ステイツ国風の料理ですけど、お口に合いますか?」






大きなテーブルに席が用意されていて、それぞれが席に着く。オレは上座とか苦手なのだがどうしてもという事でオレが一番奥に座り、その横にアイが、そしてタクヤ、ヤス、ヒデと続く。そしてオレの正面には、ヨシタケさんが座った。

目のまえの皿に切り分けられたローストビーフが乗せられる、外はしっかりと焼き色がついていてその断面はもちろんピンクの絶妙の焼き加減のやつだ。噛みしめるとたっぷりの肉汁が溢れてくる。う、うまい。ピザもある、トロットロのチーズにトマトソースらしきものが塗ってあり、バジルっぽいハーブが乗っているいわゆるマルガリータっぽいピザだ。生地はオレの好きなもちもちしたタイプだな。それとビーフシチューだ、それもよく煮込まれた牛タンが入っている牛タンシチューだ。口の中でほろほろと崩れていく。




どれもこれも、前世で食べた味と変わらない。イヤ、これだけの味は結構いいレストランでもなかなかお目にかかれないくらいの出来だ。しかも食器も洋食器まで用意されている。もうこの世界では食べる事は出来ないと思っていただけに、感動もひとしおだ。オレはナイフとフォークで肉を切り分け、スプーンでシチューをすすった。夢中で食べていると、目の前のワイングラスにワインが注がれる。赤ワインだ。




「お気に召したようで何よりです。これは山フドウで作った、フドウ酒です」




一瞬、子供を何人も肩に乗せている大男の映像が浮かんだが気のせいだろう。オレはワインには全然詳しくないのだが、とてもフルーティで飲みやすい。それにしても今回は来てよかったな。これからもこれらの料理が食べたくなったら、ここに来よう。それにしても、ヨシタケさんの奥さんはどうやってこれらの料理が作れるようになったんだろうか?





「いやあ、この前連れて行って貰った上町の店とおんなじくらいうまいっすねえタクヤさん」




すると、ヤスがそんな事を言い出す。うん?上町の店?なにそれ?




「おお、ユウザン先生のお店に行った事があるのですか?さすがですな」

「いや、この前一回だけなんですけどね。オレ達がシルバーランクに昇格したお祝いにスケさんというギルドの先輩に連れて行って貰ったんすよ」

「あのう・・・その話詳しく教えて貰ってもいいでしょうか?」




ヤスとヨシタケさんが、話しているのを遮ってしまったがそのお店の情報は是非聞きたい。酔いも手伝って気が大きくなったオレは思わず身を乗り出していた。




「あ、はい。お安い御用です」




そんなオレにヨシタケさんが快く応じてくれる。話によると、そのお店とは料理評論家のユウザン先生プロデュースの会員制の飲食店だそうだ。以前、ステイツ国を訪れたユウザン先生はそこで食べたステイツ国料理にすっかりハマってしまったそうだ。どうしてもヒノモト国で同じものが食べたかった先生はもともと料理研究家だったということもあって努力の結果、ほぼ同じ料理を再現できるようになった。そうしてユウザン先生は「美味しいものクラブ」という料理屋を立ち上げた。結構な良いお値段がするのであるが、物珍しさから客が押し寄せたために会員制にして入場を制限し、尚且つ会員になるための試験まで設けたところ、それがステータスとなって更に人気が出て現在、会員になるには数年待ちというから恐れ入る。




「な、なるほど」




どこかで聞いたことがある話だなあ、と思いながら頷くとヨシタケさんの話は続く。




「実は、家内は元々美味しいものクラブで働いていたんですよ」

「へえ、そうなんですか?」




もともと料理の才能があったヨシタケさんの奥さんは、美味しいものクラブで修行をすることによりその才能をいかんなく発揮しメキメキと頭角を現した結果、調理主任にまで上り詰めた。




更に料理に没頭した奥さんは、食材のことにまで気を配るようになりその仕入先にまで足を運ぶ。そしてヨシタケさんと出会った。そう、ヨシタケ牧場は美味しいものクラブに食材を卸していたのだ。




そうして出会った2人は意気投合し、奥さんは美味しいものクラブを辞めてヨシタケ牧場で自分の料理を広めていくことを決めたのだった。





「食後のデザートをどうぞ」




ふんふんと話しを聞いていると奥さんがアップルパイを持ってきた。なんとアップルパイまであるのか!フォークを突きさすと、サックリとしたパイ生地の中にほどよく酸味の効いたリンゴの砂糖煮がたっぷりと入っている。(まあ、リンゴではなくこの世界ではりんごちゃんという名称なのだが)甘酸っぱいだけでなく、なんとシナモンのようなスッキリとした香りも漂ってくる。




「これもとても美味しいです」




あまりのうまさに感動すら覚えながら一緒に出していただいた紅茶を飲む。コレもトキさんに淹れて貰った高級な紅茶並みに美味い。それにしても、つくづくここにきて良かった。今のオレなら、料理人スキルがあるために大抵の料理は再現できるのだがいかんせん食材がなくては作ることができない。だが、ここには牛肉を始め、様々な乳製品や果物、各種スパイスまで手に入るのだ。コレでまたこの世界での食が充実するぜ。




「でも、今回のグリズリー騒ぎでお客様の足が遠のいてしまって・・・」




オレがひとりほくそ笑んでいると、ヨシタケ夫妻は暗い顔でため息を漏らす。




「え?でも、悪いグリズリーは退治したじゃないですか」

「それはそうなんですが、一度遠のいた客足がまた戻ってくるか心配で・・・」

「何か新しい名物料理でも考えれば別なのですけど、そんなものおいそれとは考え付かないものですから」




2人は顔を合わせてまたまた大きなため息をつく。




「「なにか、新しい名物があればいいんですけどねえ」」




え?なにこの展開?なにかのフリとしか思えないんだけど。




「今のお二人にお教えしたいお菓子があるのですが」

「「え?」」




そうして、ヨシタケ牧場の新名物となった生キャラメルのおかげで牧場には連日客が詰めかけることになったのは、それから一か月後の話である。もともと商売上手だったヨシタケさんは生キャラメルで得た収益を元に食材ルートをまとめあげ、更に牧場を大きくしていくのだがそれは更に先の話である。







――――――――――――――そして4年が経った。



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