第125話 キャンプ
ワイルドウルフを片付け先へと進む、山道はどんどんと険しくなり道幅は次第に狭くなりとうとう獣道くらいの細さになってきた。周りの景色も草が生い茂り、木々が密集して生えている。まるで、オレ達がこの世界に来て最初に暮らしていた森と同じような景色だ。よく見ると至るところに森ネズミがうろついているし、いつも食べてたバナナナの木も生えている。なんか懐かしいなあ。あの頃は生きることに必死だったし、オレの仲間はコタロウしかいなかったけど今は違う。あ、でもコタロウがいてコジロウがいてアイがいてみんながいることが大事なんだ。そんな事を考えていたらコタロウに会いたくなったな。
『おい、コタロウ』
コタロウに念話で話しかけてみる。が、返答がない。あれ?どうしたんだ?
『コタロウ、大丈夫か?おいコタロウ!』
なぜだ?コタロウはEDOのオレの家で留守番しているハズだ。何かあったのか?なぜ返事がないんだ。
『コタロウ!こたろおおおおお!!!』
『ウニャ、もう食べられないニャ』
『うん?コタロウ?』
『ニャ?』
状況がよく掴めないな、よしコジロウに聞いてみるか
『コジロウ?』
『にゃあ、ご主人様、なんだニャア?』
ほ、コジロウはちゃんと返事してくれた。
『なんかコタロウがヘンな事言ってるんだけど、そっちは何かあったの?』
『ニャ、ニャニャ?ニャにもないニャア。コタロウ兄ちゃんが、冷蔵庫のマジロを取ってきて2人で全部食べたりとかしてないニャア』
うん、マジロを一匹丸ごと食べちゃったんだね。まあ、別にいいんだけどね。あいつらオレがいないからちょっとはねを伸ばしてるみたいだ。前世でもそうだったよなあ。
『おい、ガル。何があったのか説明してくれるか?』
『御意』
ガルの話によると、みんなで晩に食べようとしていたマジロをコタロウが冷蔵庫から引っ張り出していたそうだ。マジロをくわえたコタロウを見つけたサザエちゃんがそれを見て裸足で追っかけたそうで、皿が何枚か割れたり床の間に飾ってた高そうな掛け軸が破れたりとか丹精込めた庭木の枝が折れたりとか屋敷の中がちょっと散らかったそうだ。あ、そうなんだ。みんな楽しそうならそれでいいか。
気を取り直して山道を進んでいく。時折山ウルフやグリズリーなど獣にちょこちょこ出くわす。がその度に、タクヤ達があっと言う間に片づけてしまうのだ。こいつら思ってたよりもずっと強かったんだな。意外だったのは、それだけじゃない。タクヤの戦い方だった。最初は、回復役のタクヤは戦いは高見の見物で前線の危険な役割はヒデ達に任せっきりに見えたがタクヤもばりばり前線で体を張っていたのである。例えばヒデが背後の攻撃に気付かなかった時など身を挺してヒデをかばっていた。
「アニキ、大丈夫か?」
「っく・・・オレの事はいい、早くそいつに止めを刺すんだ」
見ているこっちが少し感動してしまうくらいの物語が目の前で繰り広げられる。あいつ、威張ってばかりだと思ってたけどやっぱりいいヤツだったんだな。まあ、最初の出会いはああだったけど、オレに因縁ふっかけたのもオレを心配してただけだったし。と改めてタクヤの事を見直したのだった。
そんなこんなで山の中腹くらいに達したところですっかり日が暮れてしまったので、今日はここでキャンプを張ることになった。もうおなじみとなったログハウスをアイテムボックスから出すと、「え?家を持ち歩いてるんですか?」とタクヤにびっくりされた。なんでも冒険者は野宿は当たり前でテントさえ持ってないとの事だった。温暖な気候のEDOならそれでもいいのか。これが北東エリアだったら違うんだろうけどな。
「ようし、晩御飯の準備するよ。君たちは待っててくれていいからね」
みんなで薪を拾って火をおこし、その上に鉄板を乗せる。それから料理に取り掛かるのだ。手伝いますという彼らをむりやり説得し支度にかかる。一人の方がやりやすいからな。献立だがいつもは、ラーメンや牛丼を食べるのだが今日は一度やってみたかったアレにしよう。まずは、ワイルドウルフのドロップアイテムである骨付き肉にトキさんから仕入れた胡椒をふりかける。十分になじませてから熱くなった鉄板の上で焼く。味付けは岩塩だけだ。この岩塩はEDO湾に行った時に海水から作ったお手製だ。ジュウウウっと肉の焼けるいい匂いが辺りに立ち込める。うう、たまらん。頃合いを見てひっくり返すと脂がいい色合いに焦げて最高の焼き加減だ。ひっくり返してある程度火が通ったら出来上がりだ。人数分を焼き上げてそれぞれに渡す。
「はい、どうぞ」
「「「うわあ、ありがとうございます」」」
このワイルドウルフの肉だが、ほどよく引き締まった赤身の肉に骨がくっついている。その様はまるで
「なんかオノみたいな形だね」
「うん、これはね。トマホークステーキって言うんだよ」
「トマホーク・・・」
骨の部分を持って豪快にかぶりつく。これぞまさに男のキャンプ飯だ。あ、アイは女の子だった。
オレの心配をヨソにアイもオレの隣で豪快にかぶりついている。良かった、気に入ってくれたようだな。もちろん、タクヤにヤスにヒデも同様、夢中になってかぶりつく。ヨシ、せっかくだから次の料理に取り掛かるか。コレも一度やってみたかったんだよなあ。
アイテムボックスから、人数分のラーメンの麺を出し茹でる。茹で上がったらよく湯切りして各種野菜と余ったワイルドウルフの肉の切れ端を炒めたものと混ぜ合わせる。そして味付けにラーメンスープを投入。鉄板でスープの焦げたいい匂いが立ち込める。
そう。これは、昔博多に出張した際屋台で食べた焼きラーメンだ。やっぱりキャンプと言えば焼肉と焼きそばだからな。
コレも大好評でみんな夢中でパクついている。
「シュウの兄貴、コレをどうぞ」
すると、タクヤがアイテムボックスから瓶をとりだしオレのコップに中身を注ぐ。
「お、コレは?」
「南の方の酒でブラック霧島ってヤツですよ」
「うーん、飲みやすくてどんどん進むなあ」
「おいしかねえ。おかわりー」
「え?アイさんそれくらいにしといたら?」
「なんでえ?いいじゃない」
そんなこんなで小一時間でみんなすっかり酔っぱらってしまった。
「シュウの兄貴、こんなきれいな人どうやって見つけたんですか?」
すっかり酔っぱらったタクヤが切り出した。他の2人もウンウンと頷いている。
「オレはEDOの美人は大体、知ってるんですが姉さんみたいにきれいな人は見たことも聞いたこともなかったですよ」
他の2人は更に大きくウンウンと頷く。そうだろうそうだろう、こんな美少女はどこにもいないだろう。オレは得意満面だ。
「ウチはねえ、電脳界から来たんよ」
「「「デンノーカイ??」」」
あ、前もこんな事があった気がするな。オレは慌てて補足する。
「いやだからね、伝海灘って南の島があるんだよ」
「デンカイナダってあの美味しい魚が沢山獲れるところですね」
「このブラック霧島もそこで作られてるって聞きました」
よし、またうまく誤魔化せたようだ。
「じゃあ、オレ達もデンカイナダに行けばきれいな嫁さん見つけられますか?」
いや誤魔化せてなかったー。それどころかタクヤ達はすっかり有頂天になっている。どうやらデンカイナダには美女が沢山いると勘違いしているようだ。まあ、博多美人って言葉もあるし全くのウソではないかもしれないがアイくらいの美少女がそんなにいる訳ないだろう。
「うーん、そうだねえ・・・」
「え?大丈夫ですか?」
「オレもきれいな嫁さんが欲しいっす」
キラキラした目で3人がオレに問いかけてくる。こんなに期待されたら、ヘタな事言えないよね。
うーん、こいつらいいヤツだし何とかしてあげたいのはやまやまなんだけど・・・
オレはどうしたらいいか分からずアイの方に助けを求めるが、アカンすっかり出来上がっている。目がトローンとしていて真っ白な肌はピンク色に染まっている。焼酎が入ったコップを両手で抱えるように飲んでいる様は、旦那のオレが言うのもなんだが誰が見ても絵になる美少女だ。
オレに釣られて他の3人もアイの方へと視線を移す。あ、3人とも目がハートになってるぞ。
「せからしか・・・」
その時、アイが口を開く。うん?今なんて言ったの?
「なんかきさん達は、女々しかねえ。まだまだ嫁とか早かろうがこのバカチンが~」
およそその見た目とは似つかわしくない言葉が目の前の美少女の口から発せられる。
ふん、どうだ見たか。コレがアイさんなんだぞ。見た目とは裏腹にへんな方言を使いゲーム大好きオタクな腐女子なんだ。普通の男には理解できないだろ?
オレは、唖然としている3人を尻目にふふんと鼻で笑う。これでもう、嫁だなんだって言い出さないだろうと。あ、でもちょっとかわいそうな事したかな?女の人の本性を垣間見たんだもんね。
「す、すげえ」
うん?
「なんて素晴らしい女性なんだ」
「見た目が美しいだけでなく頭脳も明晰であられるぞ」
「もはや、聖女様とお呼びすべきでは?」
あれ?なんか3人のリアクションがオレの予想よりもかなり斜め上なんだけど・・・
3人は更に目をきらきらとさせてアイを見つめている、というか平伏してもはや拝んでいるぞ。
「姉さん、オレ達がバカでした。また頑張ります」
「こんなバカなオレ達を導いて頂いて本当にありがとうございます」
「シュウの兄貴のように、ゴールドランクになるまで待っててくださいね」
思い思いのセリフを口にする。あ、そうですか?コレで良かったんですね。
そのまま夜は更けていくのであった。




