第122話 「EDOカード」とEDO銀行の運用開始
「というわけで、頭取となって銀行経営お願いしますよ」
「あ、はい」
コウノスケさんは銀行というものが何かも知らずに二つ返事だった。まあ、そうだろう。何しろ今までのオレとの付き合いで完全にオレのことを信頼しきっているからな。それに勘定系システムについては、全て自動計算になっているので経営とは言っても今までの飲食店と仕事内容はさほど変わらないのだ。だが、そうは言ってもコウノスケさんくらいは銀行の仕組みというものを多少知らないとな。ということで「金融リテラシー」を施してみる。
「コウノスケさん、金利というものは経済に与える影響がですね」
「ふむふむ、なるほど~」
そして程なくして、おおよその内容を理解した優秀なコウノスケさんに、後は店舗探しから求人までを依頼してオレはその場を後にしたのであった。
数日後、下町のど真ん中に「EDO銀行」が開店したので見に行ってみる。実は、コウノスケさんに丸投げで何もしていない。開店することをコウノスケさんから報告を受けて初めて思い出したくらいなのだ。
「うわあ、凄い大行列だなあ」
「そうやね、ウチこんなに人が並んでるの初めて見た」
このところ、EDOの町に出歩く時はアイと2人のことが多い。コタロウとコジロウは日中は昼寝をしていることが多いのだ。まあ、元々ネコだからな。ガル達もEDOの町内なら危険もないだろうと護衛を断っている。ゴルだけは、心配そうだったが・・・
それにしても、今回の行列は今までの牛丼やラーメン屋とは全然違う。もの凄い人の数だ。何千人いや、もっと人が並んでいる。何しろ瓦版で大々的に宣伝したからな、物珍しモノ好きのEDOの住民は興味津々のようでみんな文句も言わずに大行列に並んでいる。オレとアイが最後尾に並んだが、すぐに後ろにも人が並んでいきあっという間に後ろにも長蛇の列ができる。
こりゃあ、大分待つだろうなあ。と思ってみたが行列は意外とサクサク進んでいく。10分も並んだだろうか。行列整理の女性から声をかけられた。
「お客様、本日はEDO銀行へお越しいただきまして誠にありがとうございます。ご用件をお伺いいたします。本日はカード作成だけなさいますか?それとも、預金もなさいますか?」
実はギルドカードがある人間は、特に銀行には用がないのである。そもそも「EDOカード」の機能はほぼギルドカードと一緒だからな。今日は様子を見に来ただけなのだ。
「あ、もしかしてシュウ様ですか?」
オレが返答に詰まっていると、近くにいた別の女性から声を掛けられる。他にも10人ほどで行列整理を行っていたが、どうやらこの女性が行列整理のリーダー格のようだ。
「あ、はい」
「失礼しました、それではご案内しますのでいらしてください」
女性はにっこりとオレ達に笑いかけると、オレ達を先へと誘導してくれる。オレ達は大行列を尻目に女性の後についていく。VIP扱いは慣れていないから、かなり後ろめたいな。だがよく見てると、オレ達の他にも行列から抜け出して女性から案内されている人たちが何組かいた。いずれの人たちも見るからに良い身なりをしている、いわゆる富裕層なんだろう。
前へ進んでいくと銀行の建物が見えてくる。結構大きいな、普通の体育館くらいの大きさか?まあこんなもんか?前世での銀行も大きな支店ではこれくらいの大きさはあったもんな。
建物の中へ入っていくと中でも沢山の人が待っていた。千人くらいはいるだろうか?だが、10人ほどの窓口係の女性がテキパキと対応しているお蔭であっという間に、行列がさばけていく。魔力を読み取る「魔力リーダー」にタッチさせるだけなので、処理自体簡単ではあるのだがそれにしても熟練の職人のように流れるように客を誘導し次々と処理している。店中にシャリーン、シャリーンと音が響くのはちょっと笑ってしまったけど。そして魔力を読まれた客は、カードを手渡されて出口から出ていく。なんとも無駄のない、完璧なオペレーションだった。それらの客の横を通りながら、オレ達は奥の部屋へと連れていかれる。
「どうぞ、お入りください」
案内してくれた女性が部屋をノックすると中から男性の声がする、この声はコウノスケさんだな。中へはいると8畳ほどの広さの部屋の真ん中に、一目で上等と分かるソファーセットが置いてありコウノスケさんの対面へ座るように促される。オレとアイは、そのソファーに腰を下ろした。うん、なかなかの座り心地だ。部屋の隅には棚があつらえてありよく分からないが、いい感じの調度品が飾られている。壁にも高そうな絵がかかっているが、芸術的なセンスのないオレにはさっぱりだ。
「よくお越しいただきました、お蔭様で大盛況ですよ」
コウノスケさんは、今の状況にホクホク顔だ。オレは銀行経営に関して基本的な金融知識と必要な機材だけを渡して丸投げしただけだから、この成功は全てコウノスケさんの手柄だ。やっぱりこの人は凄いなあ。
「失礼します」
そんな事を考えていると、一人の女性が部屋に入ってきてコウノスケさんの隣に座った。きれいな顔立ちにスタイル抜群の若い女性だ。丈の短い着物からは、スラっとしたきれいな脚が露になっている。そして開いた胸元からは豊満で形の良いバストが顔を覗かせていた。
「えっと、その女性は?」
オレはドギマギしながら、コウノスケさんに聞いてみる。するとその女性はオレに微笑みかけながらぺこっとお辞儀する。
「はい、お客様のお世話係をしています。ねねともうします」
おっと前かがみになったら益々、胸元からはみ出してくるじゃないか~
「実はですね、1000万イェン以上お預けされるお客様はこの特別室へとお通ししているんですよ。そして。ほら、ねねちゃん」
コウノスケさんに目配せされるとねねちゃんは、なんと胸元からカードを取り出した。あれ?そのカードは?
「5000万以上お預け頂いた殿方には、このゴールドカードをお渡ししてまーす」
ねねちゃんの手元にあるカードは普通のカードと違い、金色に輝いていた。まあ、別の意味でも余計に輝いて見えるのは気のせいではないだろう。
「あ痛っ」
いきなりももに激痛が走る。アイが思いっきりつねったのだ。涙目でアイの方を向くと、そっぽを向いている。ひょっとして嫉妬したのか?女性経験がないから、こんな時どうすればいいのか全く分からない。あれ?コウノスケさん今ちょっと笑わなかったか?
「うぷ、あ、それでですね。私の以前から懇意にして頂いているお客様方をご招待したのですよ」
あ、絶対今笑っただろ。心の中で(コウノスケー、アウトー)と言いながら続きを聞く。コウノスケさんが一流料亭時代の上顧客全員に招待状を送ったそうだ、あとはこの特別室に通しねねちゃんのゴールドカードを見せたら、全員加入したとのことだった。
(オレなんか悪い事したのかなあ)なんか腑に落ちないところもあったのだが、気にしたら負けだ。オレは資金がある程度集まったところで融資業務を開始するよう指示して(どうせ、システム管理されているけど)できるだけねねちゃんの方を見ないようにしながら打ち合わせを終えたのだった。
帰り道、アイは一言もしゃべってくれなかった・・・




