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第118話 リュウガとの再戦

リュウガへと続く、幾千もの光の線。前後左右どころか、上からも下からも全ての方向からリュウガへと伸びて一ミリの隙もない。




『オレにこの手の攻撃は効かないぜ』




ところが、コジロウの放ったレーザーはリュウガを避けてグルっと取り囲むように湾曲しているのだ。光輝く球体の中で余裕の笑みを見せるリュウガ。なぜだ?なぜコジロウの魔法が利かないんだ?




「なるほどね、リュウガは風の賜物保持者ギフトホルダー、つまり空気を自在に操れるってことやね」

「え?どういうこと?オレにもわかるように説明してよ」





アイの説明によると、リュウガは空気を操って屈折率を変えているそうだ。コジロウの魔法は威力は強いがいかんせん光属性なので、どうしても影響を受けやすいんだな。まあ、仕組みを説明してもらってもイマイチぴんと来てないのだが、物理とか化学は苦手なので曖昧に頷く。




「つまり、コジロウの攻撃は不発だった。ってことかあ・・・っておいコジロウ」




ところが、コジロウは攻撃の手を緩めない。更にリュウガに向けてレーザーを連射する。




ビビビビビビビビ・・・




レーザーの出力がどんどん上がり、リュウガの周りは更にピカピカと輝きだす。そこで、オレは初めてコジロウの狙いを理解できた。なるほど、レーザーを直撃させなくても周りの温度を上げることによって間接的にリュウガにダメージを与えるってことか。




さきほどのファイアードラゴンのブレスには、熱を逃がす隙間が十分にあった。オレは空気を循環させることによりその攻撃を防いでみせたのだが、コジロウの攻撃には全く隙がない。完全に密閉されているので、熱が逃げることができない。実際、レーザーに囲まれたリュウガの周りの温度は急上昇しているのがはた目にもわかるのだ。




「どうだ、リュウガ。手詰まりだろ?降参するか?」




ところが、リュウガは涼しい顔で余裕を見せたままだ。なぜだ?さすがに、いくら闘気で多少は防いだとしても限界があるだろ?内部は数千度に達しているんだぞ。





『コジロウさん、危ない』




その時、ガルが叫んだ。なんとコジロウの光学魔法に閉じ込められていたハズのリュウガがコジロウの目のまえに現れたのだ。リュウガは、前足をコジロウに向かって振り下ろす。圧倒的に体格で劣るコジロウは、あんな攻撃喰らったら一発で戦闘不能だ。




ブウン・・・




リュウガが攻撃を繰り出すも、コジロウはその場から消え失せる。そして次の瞬間オレの横に姿を現した。攻撃を躱されたリュウガであるが、慌てることなくすぐにコジロウの姿を捕捉しこちらに視線を投げかける。




『ふうん、空間転移テレポーテーションか、やるな』




くう、戦況が目まぐるしく動いてなにがなにやら・・・




「あのねえ」




アイの解析によると、リュウガは大気操作により自分の幻影を作り出していたそうだ。オレ達はまんまと騙されてその幻影に攻撃を仕掛けて、勝った気になっていたという訳だ。と、原理を聞いたらなるほどと思うが、超感知の能力スキルがあるコタロウを騙した訳だからそんなに簡単な話ではない。つまり、リュウガのその実力がそれだけ凄いということだな。




空間転移テレポーテーションは、すっげえ魔力を使う。お前のレベルでは多用はまだ厳しいだろ』





再度、リュウガがコジロウに襲い掛かる。いかん、コジロウを守らないと。





「コタロウ、コジロウを援護するぞ」

『にゃ、にゃにゃにゃ?!』

「どうした、コタロウ?」





コタロウがもがいている、なにやらその場から動けないようだ。




『なにか、目に見えない壁のようなものがあって動けないニャ』




くっそ、リュウガのやついつの間にかコタロウの周りに結界を張っていたようだ。本当に抜け目がないヤツだな。そう言っている間にも、リュウガはコジロウに攻撃を加えている。その度に、空間転移テレポーテーションで躱しているが確かにアレは魔力消費が半端ない、リュウガの言う通り多用はできないのだ。




「いかん、援護するぞコジロウ」




オレは、リュウガの前に立ちはだかる。



「いかんよ!!!正面に立ったら危ないシュウ!!!」




アイが叫んだ、その瞬間





ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンン





オレは腹に掌底を喰らい、数十メートルも吹っ飛ばされる。そしてそのまま気を失ってしまった。



















「大丈夫?シュウ?」




気が付くと、寝転んでいるオレをアイが心配そうに覗き込んでいた。オレはぼんやりとアイの大きな瞳と長いまつ毛を見ながら、やっとのことで「うん」と頷く。





「良かったー」




その大きな瞳から大粒の涙をボロボロとこぼし、アイはオレに抱きついてきた。まだ頭が働いていないオレは、自分の状況がよく呑み込めていない。アイの肌の感触と体の重みを感じると、ドキドキもするがそれと同時に落ち着いてきた。頭の中を整理してみると次第にスッキリしてくる。




『よお、ようやく気が付いたな』

「あ、リュウガ」




するとリュウガがひょっこりと顔を出した。その向こうには、コタロウとコジロウの姿も見える。2匹とも、すっかり疲れ切った顔で肩でぜえぜえと息をしている。特にコタロウは、傷だらけで死闘の後が伺える。





『お前たち多少は強くなったようだが、まだまだ戦い方がなっちゃいないな』




にやにや笑っているが、リュウガの言う通りだ。ゴブリンキングやファイアードラゴンを倒していい気になっていたが、リュウガには全然敵わなかった。それどころか3人がかりで手も足も出なかったのだ。まさに完敗である。





「リュウガの言う通りだ、悔しいけどいや、力の差がありすぎて悔しくもならないな。オレ達の完敗だよ」





素直に白旗を挙げると、リュウガはにっこりと笑う。




『なかなか殊勝な態度じゃないか、お前たち随分強くなったからもっと悔しがると思ったけど意外だったぞ』

「いや、そう思ってたけど上には上がいるってのがようく分かったよ」




オレがそう言うと、リュウガは更ににこにこ笑いながら話を続ける。




『お前たち、どうしてオレに負けたと思う?』




うん?なぜってソレはリュウガに比べてオレ達が弱いからだろ?



「そこはウチが説明するよ」




オレに抱き着いていたアイは、その手を離すと立ち上がる。あ、滅多にないスキンシップだったのにもう終わりか、なんか寂しい。




「ウチたちがリュウガに比べて最も劣っているのは、戦術やね。せっかくの戦力を十分に生かすことができなかったのが一番の敗因」




アイの言葉にリュウガは大きく頷く。




『その通りだ、よく分かっているな。さっきはまだまだだな、なんて言ったけどお前たち個々の戦力はなかなかのものだぞ。だが、圧倒的に経験が足りないんだよ。だからちょっとおせっかいを焼きにきたんだけど、それが分かれば来た甲斐があったな』





それだけ言うとリュウガは「じゃあな」と立ち去ろうとする。




「おい、ちょっと待ってくれ」

『うん?』

「お前ひょっとして、コタロウとコジロウの兄貴なのか?」




だからこんなにおせっかい焼いてくれるんだろ?オレには分かってるんだぞ。




するとリュウガは、ふっと笑った後に首を横に振る。




『いーや、オレはそいつらの兄貴じゃねーよ』

「え?だって、さっきコジロウが『リュウガにいちゃん』って」

『まあ、その事についてはそのうち教えてやるよ。だが、こいつらの本当の兄弟は2人だけだ。それだけは確かだ』

「え?そんな言われ方されるとすっごく気になるんだけど・・・」




なおも食い下がろうとするが、その時リュウガの姿がふっと消え失せる。




「リュウガ・・・」



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