第116話 更なる覚醒
シュウウウウウウウウ・・・
三匹を覆った眩い光であるが次第に弱まってきた。それにしてもなんて事だ、まさかネコでもないこいつらがネコネコスティックで覚醒するなんて・・・そう、この現象はコタロウやコジロウが覚醒した時と全く一緒だ。随分久しぶりのことだが間違いはないだろう。それは光が収まった後のこいつらの様子を見ても一目瞭然だ。今まで真っ赤だったウロコだが更に深みを帯びた深紅になり、纏っている炎も何というか普通の炎でなく、真っ黒なのだ。それもただ黒いだけでない、とてつもなく深い闇のような黒だ。漆黒の炎とでも表現すればいいのだろうか。
「おお、お前たち火の精霊から獄炎の精霊になっているぞ!!」
鑑定結果は、なんとドラゴンになっていた・・・
まあ、なんにしろ味方が強くなるのはいい事だ。オレ達は、4年後の聖獣代表戦で勝たなければならないのだからな。それにしても色々あったが、ダンジョンも攻略したし、ひとまずやれやれだな。
「ようし、明日はEDOに帰るぞー。朝早く出発するしもう寝ようか?」
「はーい」
「にゃ」
「にゃあ」
今回は最後の洞窟に比べて割りと早く片が付いたので良かったが、やっぱり早く帰りたい、もはやEDOはオレの故郷みたいなものだからな。
アイとオレの間にコタロウとコジロウが寝る、ガル達は空中に浮遊したまま寝る、そう言うわけでオレ達はログハウスの中で川の字になって眠りについたのであった。(正確には川の字ではないが)
次の日
朝早く目が覚めたオレは、ログハウスから出てみる。洞窟内のはずなのに、天候や朝昼晩があるのは疑問だがお蔭で時間感覚が狂わないのは助かるな。ちなみに今日もよく晴れている。外は、荒野が広がっていてかなり暑い。だがオレは常に魔法で自らの周りに空気の層を作り、内部を快適な温度と湿度に保っている。前回、最後の洞窟で使った“ヒール・ミスト”と言う魔法だ。更に直射日光がきつい時には、光の屈折率をうまく変えて直接日が当たらないように調節できる。つまり、どこに行ってもいつでもオレの周りは快適空間なのだ。
「へえ・・・」
辺り一面見渡す限りの荒野だ。相当遠くに山が見えるが、ずーーーーっと荒れ地が広がってて時折、カサカサカサーって草の塊が転がっているだけだ。よく西部劇でみるアレだが、昔はただの枯れ草だと思っていた。ガーデニングが流行った時に、オレもホームセンターにちょくちょく足を運ぶようになってアレがエアープラントという植物って知ったんだよなあ。
あ、話がそれたな。何が「へえ」なのかと言うと、昨日あれだけの戦闘があったのにその痕跡が跡形もなく消えていたからだ。底が見えないくらい深かった穴もきれいさっぱりと元通りになっている。ファイアードラゴンが放った火の玉で焼けただれていた地面も焦げ跡一つない。仕組みは全く分からないが、コレがファンタジーの世界だということで納得しよう。
「さてと」
朝の散歩も終わったしご飯にしよう。と言ってもほとんど、アイテムボックスから出すだけなんだよね。
まずはアジの干物、マスオさんが捕ってきてくれた刺身でも食べられるくらい新鮮なアジを天日干しで乾燥させているから、身がしっとりしていて瑞々しいのだ。コレをまたまた自家製の炭で焼く、やっぱり炭火で焼くと味が全然違うんだよねー。
次に、納豆。やはり日本人の朝は納豆を食べたいよね。これも上等な大豆を煮て本当のわらを巻いて作った本格的な納豆だ。スーパーで売ってるようなパックのヤツとは一味も二味も違う。何と言うか味に深みがあるのだ。
そしてだし巻き卵。コウノスケさんが、最高のコンブとかつおぶしの特製の出汁で作ったこの卵焼きは絶妙の味付けがなされている。薄味ではあるが、しっかりと旨味があって飽きの来ない味なのだ。それを炭火で焼いているから、ふんわりと仕上がっていて噛めばジューシーな出汁がジュワーッとあふれ出てくる。
それから、やっぱり味噌汁。コレも最高のコンブで出汁を取り、良いみそを使って作っている。具は豆腐と油揚げとシンプルだが、それだからこそ素材の良さが引き立つ。これまた良質な大豆をぜいたくに使った豆乳に天然のにがりを入れて丁寧に作った豆腐とその豆腐を使った揚げたての油揚げ、これがうまくないわけがない。
最後にぴかぴかに光ってる炊き立ての白米。これまた、米の目利きであるコウノスケさんが最高の米を丁寧に研いで、かまどで炊き上げた最高の銀シャリだ。オレが前世で食べていた、電子ジャーで炊いた普通のご飯とは味の次元が全く違う。もはやおかずなど要らないくらいのうまさで噛みしめる度に、甘い米の旨味があふれ出てくるとんでもない旨さのご飯だ。
オレは前世では、とりたてて趣味もなく会社と住まいのマンションを往復するだけの寂しい人生を送っていた。まあ、サラリーマンやってるほとんどの人がそうだろうが・・・ギャンブルもやらないオレの唯一の楽しみが食べ歩きで、週末にはガイドブックやインターネットで調べたお店へと出かけていた。もちろん、オレの給料では超高級料亭とかはムリなのだが割と高級な懐石料理のランチくらいは食える。その時は高級懐石のランチも旨いと思っていたが、今食べている料理はまったく次元の違う旨さだ。でも、それだけじゃない。昔は一人で食事することが当たり前だったが、今では家族と一緒だ。やはりみんなで食べる食事は格別の味だ。
「おいしい?」
「うん、めっちゃおいしかよ」
アイが、口の周りに米粒をつけながらもぐもぐと答える。お前美人が台無しだぞ、って思うがそこがアイのいいところだ。これで、性格まで美人だったら女性経験のないオレには荷が重い相手だよなあ・・・
オレは味噌汁をすすり、干物をかじり、卵焼きをほお張り、納豆と一緒にご飯をかきこんだ。横でコタロウとコジロウもいつものように干物を美味しそうにむしゃむしゃと食べている。こいつら、こうして見ると本当に普通のネコにしか見えないんだけどなあ・・・
『おい、ご主人様』
「ん?どうしたガル?」
ガル達も、一緒にご飯を食べている。口の周りにご飯粒をつけたガルが神妙な顔でオレに話しかけてきた。
『何者かが、ここに近づいてくるぞ。かなり攻撃力が高いやつだ』
「え?」
するとコタロウも耳をピンと立てて、何かを探る様子を見せる。
『ガルの言う通りだニャ、なにか近づいてきてるニャ』
「え?なんだって!」
茶碗を持ったままあわてて外に出る、すると向こうから見覚えのあるトラが現れた。
『よう、久しぶりだな』




