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Restart of youth  作者: PeDaLu
1/6

Restart

なぜこんなところに彼女がいるのか。呆然と考える暇もなく、一度止まった青春が再び動き出す

その時、僕の青春は止まった。それに彼女とはもう二度と会うことはないと思っていた。そして、来年の正月にあんな選択をすることになるなんて思いもよらなかった。


===1===


高三年の十二月。通学時間の気分を変えようと音楽プレーヤーを秋葉原のヨドバシに見来ていた。僕は秋葉原には定期的に来ていた。小物は買っていたが、その他はなにをするでもなくお店をぶらぶらしたりして秋葉原という地の雰囲気を楽しんでいる。たまに使えそうで実は役に立たなそうな微妙なものを見つけて買うか買わぬべきか迷うのも好きなのだ。

そんな時に彼女を偶然見つけたんだ。僕の初恋の人。一度告白したことがあるが見事に玉砕したのを今でも覚えてる。後悔はしていない。言わないほうがよっぽど後悔すると思ったからだ。

彼女は奈月茜。僕とは中学校の同級生で高校に上がると同時に東京の学校に進学して僕とは離れ離れになった。いつまでも顔を見てると流石に辛いのでこれで良かったんだと思っていた。なのに、こんなところで再開するなんて。


「おす。久しぶり」


彼女はイヤホンを選んでいた。自分のスマホを展示品に接続して試し聴きをしていたようだ。僕の声が聞こえていない。さてどうしたものか。このまま聞き終わるのを待つか。でも視聴を終えて目を開いたときに横に立ってたら驚くよな……。なんて考えてるうちに彼女はイヤホンを外してしまった。慌てた僕は下手くそなナンパをするような話しかけ方になってしまった。


「ええと。あの~、奈月さん、ですよね?僕です。覚えてませんか?あれ?よく似た人だなぁ。人違いかな?」


彼女が怪訝な顔でこちらを見ている。誰だコイツ、なのか誰だっけな?と考えているような。どちらかと言うと誰だコイツ、かな。


「このイヤホン、待ってたんですか?すみません。もう試し終わったのでどうぞ。有坂くん」


「あ。どうも」


彼女は何もなかったかのように歩き去ろうとしていた。えー……覚えていてくれたのに、そんな感じなんだ……。正直寂しかった。中学時代は告白した後もそこそこ仲の良い友達で居てくれたのに。


「じゃなくて、奈月、ちょっと待ってよ」


「だから何なのよ。私は気になって試しに来たイヤホンががっかりな感じで気分が悪いの。折角秋葉原まで来たのに……。それともなに?私が満足するイヤホンを見つけてくれるのかしら?」


相変わらずだ。奈月はいつもこんな感じだ。なにとなく喧嘩を売るような口ぶりをしてくる。実際はそんな気はさらさら無いのに、いつもこんな風だから自分が告白した時は周りから「有坂はドMなの?」なんて言われたものだ。でもおまえら、奈月の良いところとか知らないからそんなことを言うんだ。「うん、よろしい」満足させた時の笑顔なんて最高だぞ。少々理不尽な要望でもその笑顔のためならやってあげたいって思うんだぞ。


「で?どうなのかしら?」


「満足するものがあるか分からないけども、ここよりも選びがいのあるお店なら知ってる」


「へぇ。自信あるみたいじゃない?いいわ。付き合ってあげる」


もっと素直に「ほんと!?ありがとう!」って感じで言ってくれるのが普通の女の子なのかな。でも僕はそんな奈月が好きなんだ。正直、今でも好きだ。だから、返事してくれてよかった。無視されてどこかに行かれてしまったら流石に凹んだだろうな。


「ここ。専門店だからかなりの種類があるよ。試し聴きも出来るし、店員にこんな感じのはないか?って聞くと展示品以外の商品も持ってきてくれるんだ」


「ふぅん……」


奈月は早速見た目が自分好みなんだろうなぁっていうモデルの試し聴きを初めた。と思ったらイヤホンを耳に装着するのに四苦八苦している。


「ねぇ。これ、どうやって耳につけるの。変な針金が入ってて上手くつかない」


「それはシュア掛けってやつをするんだ。こうやって。これ、外れにくくなるし、ケーブルタッチノイズがなくなるからオススメだよ」


「有坂くん、相変わらずマニアックね。分かった。アレでしょ?意識高い感じの付け方。分かったわ」


奈月の選んだイヤホンの隣の試聴機でシュア掛けをやって見せてから商品を戻そうとした時に、その会話を聞いていたお客さんが「意識高い……」って呟いて店を出てしまった。悪いことをしたようなメンタルが弱いような……。自分が良ければそれでいいじゃないか。


「ダメ。しゃかしゃかする。もっと重低音の効いてて、それでもって高温域も伸びやかなもの無いかしら」


このわがまま娘め……。ここで専門用語を口にしたら「なにわからないこと言ってるのよ」と怒る人種と「なにそれ、教えて」と言ってくる人種に大別されると思うが、奈月はどちらでもない。わからないことがアレばすぐにスマホで調べる女の子だ。だから遠慮なく答える。


「低音重視ならダイナミック。伸びやかな高音とか繊細な音が好みならバランスド・アーマチュア。両方共組み合わせたハイブリッド式ってのもある。ボーカルが押し出した感じならそのままでも良いけども全体バランスを良くしたいのならバランス出力が可能な再生機を使うしかないかな」


相変わらず、嫌な顔をせずに即座に知らない単語を調べ始めた。こういうところも好きなんだよな。自分は知らず知らずのうちにマニアックなことを口に出してしまう。ほとんどの友人が呆れ顔で聞くか、なにそれ?と話の盛り上がりを切ってしまったり。まぁ、空気が読めないってやつだ。きっと。


「ねぇ、最後のバランスなんとかってのがよく分からいから教えて」


「ああ。まず、条件が三つあって、イヤホンがケーブル脱着可能であること。バランスケーブルを別途用意する必要があること。最期はそもそものバランス出力が可能な再生機であること、がある。だから最初は再生機がどうなのか、が重要になるかな。それと、今後バランスケーブルを使いたいのならケーブル脱着式のイヤホンを選んでおくのが良いよ。音楽再生機はどれ?」


「これ。よくわからないけど、そこそこの値段ならいい音すると思って買ってみたやつなんだけれども」


Astell&Kern AK70 MKII。まじかよ。普通の女の子はウォークマンとかその類を選ぶだろ。マニアックすぎるだろ。


「ああ、それなら2.5mmバランス出力が可能だからバランスケーブルを選ぶのもありだよ。でも最初はノーマルのアンバランスケーブルで聞いてみて満足行かなければバランスケーブルを買えば良いと思う」


「それじゃ今までと変わらないじゃない。さっき有坂の言ってたみたいなイヤホンはどれ?」


「自分もそんな感じなのが好きだからこれを使ってる。SONYのXBA-N1ってモデル」


「これね。値段の高いN3ってもあるけど何が違うのかしらね。聴き比べてみましょう。それにこれは意識低い型なのね……。……♪……。わからないわ。なにが違うの」


「1万円違う。あとは僕もよく分からなかったからN1を買ったんだ」


「じゃあ。私もコレにする。あと、バランスケーブルってのも聴いてみたいわ」


本当に貪欲だ。ここまでの会話についてこれるのはオーディオ沼に片足を突っ込んだ人種な気がする。結局バランスケーブルはUNCOMMON 3D-OFC Hybrid-25BALというモデルをお買い上げ。お金持ってますね……。


そんな二人の様子を私はチラチラと見ていた。私の名前は瀬名原夕貴。有坂先輩と同じ高校に通う同じ部活の後輩だ。いや、ただの後輩ではない。はず。


「あ・り・さ・かせんぱ~い!私というものがいるのに!誰なんですか!その女の人は!仲良くショッピングなんてしちゃって!しかもなにか呪文のような会話もしてるし!私にわからないようにわざとやってるのかしらね!」


そんなことを口に出しそうになりながらふたりを眺めていた

次回、後輩

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