暗黒騎士とレイピア
ネズミさんが戻って来るまでの間に、アカシアから預かった武器を全てインベントリから取り出しておく。
「と、そういえば」
「ん?どうしたの?」
「相場について聞き忘れてた…」
「あ…」
兄妹そろって、肝心なところで抜けて居ました。はい。
「大体、どれ位になると思う?」
妹に振ってみると、
「さっきのレイピアだと、NPC販売だと、大体5千位で、プラス5で3万ぐらいだった様な気がするから…」
記憶を探る様に、こめかみを両方の親指でぐりぐり揉みながら、
「多分、6万5千くらいかな?」
「なぁ、何でそんなに直ぐに答えられるのに、詐欺露店なんかに引っかかったんだ?」
もっともな質問だと思ったのか、目を泳がせながら
「仕方ないじゃん。プラス5の銘入り武器って謳い文句だったんだから」
「いやいや、確かに銘は入ってたけど、精錬回数は0回だったじゃないか?」
「うぐ…。それに気付いたのは、壊れてからだったんだよ…」
「購入前に手にとって見なかったのか?」
「無理。お金払うまで、触らせてくれなかったし、どうしようか迷ってたら、横から来た人が買おうとしちゃうし…」
「典型的なサクラに引っかかってるんじゃねぇよ‼︎」
思わず声を荒げてしまう。
「うう…。仕方ないじゃん…。強化武器欲しかったんだもん」
涙目でラ・ビットが見上げてくるので、俺も言葉に詰まる。将来的に悪徳商法に引っかからないか心配だ。
「悪かったよ。でかい声だして」
ボリボリ後頭部をかきながら、妹に謝る。
「でもな。マルチとかサクラとかにはもう引っかかるなよ。今回のことは勉強になったと思って反省しろよ?」
「うん。分かった」
現実ではなく、ゲームの中の出来事なので、不幸中の幸いと思うことにしよう。妹に不快な思いをさせた奴は絶対に許さんがな‼︎
「お詫び…って事でもないけど、先に見とくか?」
「いいの⁈」
現金なやつだ。目をキラキラさせて笑顔を浮かべている。
「ああ。好きなの選べよ。値段は要相談だけどな」
やはり、泣いてる顔より笑っている方がよく似合う。微笑ましく思い、武器を漁るラ・ビットの背中を見守る。
ラ・ビットは、全身を濃い紫の鎧に包み、右手は素手…戦闘時なら、レイピアを装備し、左手は肩の辺りまでガントレットに覆われている。
ガントレットは、ただの籠手ではなく、手の甲の部分に髑髏型の水晶が埋め込まれており、魔法使用時に威力を増幅してくれる。水晶が埋め込まらている分、ナックルの代わりに拳打を放つ事も出来る。
イメージは暗黒騎士だそうで、闇属性の魔法とレイピアによる刺突、たまに拳打というのが戦闘スタイルだ。
ただ、差し色で緑が使われているため、どこかの汎用人型決戦兵器に見えてしまうのは、俺の気のせいだろうか?
髪は本人と同じくショートで、ラベンダー色といえば良いのだろうか?薄い紫になっている。
鎧を着込んではいるが、動きやすさを重視したデザインで、頭には鎧と同じ色のティアラを乗せている。
「うわ!スゴイ‼︎」
驚きの声をあげる妹の手元を見ると、一振りのレイピアが握られている。武器の事は門外漢な俺でも分かる程に、それは異彩を放っていた。
「そんなのが混ざってたのか」
「お兄、ちゃんと確認しないで適当に預かって来ちゃったんでしょ?」
俺の反応から、ラ・ビットの冷ややかなツッコミが入る。
「いやまぁ、預かった本数も30本位?あるし、一つ一つ確認する暇が無かったんだよ」
彼女はため息をひとつ付き、そんなことより、と興奮気味に続ける。
「見て‼︎この輝き‼︎三本杉の刃紋‼︎この細身のレイピアで表現しつつ、柄のハンドガードに施された蝙蝠の装飾がとってもおしゃれ‼︎」
親父が日本刀マニアなので、兄妹は知っているのだが、三本杉とは、尖り互の目ともいい、日本刀に置ける刃紋の種類の一つである。
素人目でも相当な物だと簡単に分かる代物だ。
しかも、+18の精錬が施されていて…
「なぁ、ラ・ビットよ」
「なぁに?」
興奮の余り染めた頬に、口調もどこか幼児退行していらっしゃる。
「精錬って、上限は幾つなんだ?」
「えーっと」
思考能力は鈍っていないのか、真剣に考え、
「実は、あたしも分からないんだよね。噂だと、25回前後じゃ無いかと言われてるけど」
「へぇ。じゃあ、見た目以上に能力も結構えげつない訳か」
「そうだね。+18とか初めて見たよ」
ラ・ビットはそれを大層気に入ったらしく、他の武器には脇目も振らずにジッと熱い視線を送っている。
因みに、そのレイピアというのが、
名前:千秋の細剣【トゥマ・リ=カ】
種別:武器(片手剣)
ATK+280 AGI+110 VIT−60
耐久度:86
精錬:18回
銘:アカシア
状態:稼動
マイナス補正があるものの、正面から殴り合いをするVITタイプではなく、AGIで敵を翻弄するスピードタイプのプレイヤーにはうってつけの武器だろう。
まさに目の前の彼女のような。
「いいなぁ〜。さすがに伝説の武器職人の本物は違う‼︎」
恍惚の表情で、今にも頬ずりしそうな程顔を近付けて凝視している。
「伝説の…って、現役のプレイヤー製なんだけど?」
「分かってるよ。でもね。中々市場に出回らないから、半ば都市伝説化してるんだよ」
「なるほどな」
納得は出来たが、別の疑問を覚える。
「何で、アカシアは販売をしなかったんだろうな?そうすりゃ、今回みたいな事も起きなかったんじゃないか?」
「そうだね。と、言いたいところだけど、有名プレイヤーの偽物アイテムって、そこそこの頻度で出回ってるよ」
「そうなのか?」
「うん。薬師のアニスさん、裁縫師のタツミさん、木工師のつやけしさん辺りのニセブランドが多いかな?」
「え?アニスも?」
聞き覚えのある名前に反応してしまう。
「そうだけど…知り合いなの?」
「取引先の一つだよ。ポーション類を下ろして貰ってる」
「そうなんだ。お兄って、結構スゴイ人と知り合いになるよね」
「そんなつもりは無いんだけどなぁ」
後日知ることになるが、アニスもアカシアと同じく、薬師のトップと言われている有名プレイヤーだそうだ。こちらも市場に余り出回らないアイテムだったらしい。
だった、と過去形なのは、俺が行商で売りさばいているため、今では余り珍しい物ではなくなったからだ。
「因みに、ニセブランドって、どんな感じなんだ?」
「アニスさんの偽物がアース、タツミさんがタシミ、つやけしさんがフヤケレって感じ」
「そりゃひどいな…」
明らかに狙ってやってるとしか思えん。後、偽物に対しては敬称略なんだな。気持ちは分かるが。
「でしょ⁈特にアニスさんのニセなんて、効力が低いとかだけじゃなくて、ポーションなのに毒のバッドステータス受けたり、たまに爆発したりするんだよ‼︎」
「大問題だな…」
「やあ、待たせたね」
俺たちが会話をしていると、ネズミさんが軽やかに入室してくる。
その後ろには、4人のプレイヤーがおり、その内の一人とは面識があるが、残りの面子は初対面だ。
「よう。タシミ」
面識がある人物に気軽に声をかけると、
「誰がタシミだ‼︎」
「すまんすまん。さっき、妹から面白い話を聞いたんでな。ついちゃっかり」
「ちゃっかりと言うとる時点で確信犯やないか‼︎」
タツミは、俺の高校の同級生で、同じクラスになってから付き合いのある友達だ。
「そう目くじらたてるなよ。相変わらずからかいがいのあるやつだなぁ」
「お前なぁ…」
「仲が良さそうで何よりだね。これからも是非仲良くしてやって欲しい」
俺たちのやり取りを見ていたネズミさんが柔和な表情で割って入る。
「それはそうと、ネズミさん。確か、2名連れてくると言ってませんでしたっけ?」
「ごめんごめん。先ずはそれについて説明するよ」
穏やかなままで続ける。
「タツミ君以外とは初対面のようだから、先ずは紹介するね」
右手で隣の人物を指し、
「彼はうちのサブマスの1人、《双剣》使いの風見小太郎君」
「宜しく。妹ちゃんと巽から、ちょくちょく話は聞いてるよ。気軽に風見か小太郎と呼んでくれればいいよ」
白と赤を基調とした軽鎧を身につけた、トサカの様に逆立った赤髪が特徴的な男性が、紹介と同じくして握手を求めて手を差し出してくる。
「始めまして。こちらこそ、宜しくお願いします。風見さんと呼ばせて貰いますね」
挨拶を返しながら、固い握手を交わす。モヒカン…というか、髪を逆立たせる人=ヒャッハーみたいなイメージがあったので、少し意外だ。
「そして、こちらが」
今度は反対を指して
「同じくサブマスの《騎士》瑪瑙さん」
紹介をうけた、優しそうな垂れ目の女性が、手を振りながら
「ヨロシク〜」
「こちらこそ」
さっぱりした性格なのか、少なめの挨拶で終わった。
今は通常時なので、ヘルメットは小脇に抱えているが、フルプレートの鎧を来ており、騎士というイメージにぴったりの装いをしている。
「次が最後だね。タツミ君と同じサブマス補佐の乾棗さん」
「おひけぇなすって‼︎ただいま紹介に預かりやした性は乾。名は棗と申します‼︎以後、お見知り置きを‼︎」
着流しスタイルの棗さんは、左手を腰の後ろに回し、右手を前に、手の平を上にむけて、時代がかったインパクトのある挨拶を返してくれる。
「お初にお目もじ仕りまして、光栄の至りと存じ上げます」
あえて女房詞で三つ指付いて挨拶を返す。
それが気に入ったのか、満面の笑みを向けてくれ、是非「棗と呼んで欲しい」と懇願された。
着流しに楊枝を咥え、左手は懐手で、手首だけ合わせ目から出ている時代劇のヤクザ物スタイルだ。
ただ、さっきからチラチラと晒しに巻かれた魅惑の谷間が見え隠れしているのが気になってしまっているのだが…
「それで、サブマスの2人以外のタツミ君と棗さんを連れてきた理由なんだけどね」
意識を切り替え、ネズミさんに目を戻す。
「これからの話し合いでは商談も含まれるからね。より信頼の置けるタツミ君が居た方が双方共に安心出来るかと思ってね。棗さんは、鍛治師として、一度直に目にしたいということなんだけど…いいかな?」
ようは棗さんは興味本位という事なのだろう。別に断る理由も無いので、
「ええ。構いませんよ。むしろ、ご配慮して頂き、感謝の念が絶えません」
彼の気遣いを嬉しく思う。
「商談の前に先ずは各々で好きな武器を見てもいいかい?」
頷きで返すと、三者三様に武器の山に取り掛かるのだった。




