[Introduction:人間は利己的?――菜食系女子]
開いてくださりありがとうございます。
少しでも菜食主義について知っていただけたらと思います。
「先輩はどうして肉を食べないんですか?」
「そうね、理由はいろいろあるわよ」
「菜食系女子ってやつですね!」
「何それ、初めて聞いたんだけど」
「まあまあ、それで理由はなんですか? 動物がかわいそうだから、ですか?」
「まあ、それもあるわね」
「僕にはよくわからないんですけど、他の動物だって肉を食べるわけじゃないですか。例えばライオンとか、ネコとかクマとか。なら、人間も食べていいんじゃないですか」
「その意見はよくあるけどね。幼稚な論理だと思うわ。他の動物がやっているのなら自分もやっていいの? 誰かが犯罪を犯しているのなら自分だってやっていいとはならないでしょう?」
「う、確かにそうですね」
「でも、案外それが本質なのかもしれないわね」
「えっと、どういうことですか」
「人間は利己的な生き物だってこと。最も道徳的だとさえいえる人たちの中にだって菜食主義者はそう多くはないと思うわ。まあ、私はそれも当然だと思うけど」
「どうしてですか? 先輩は性悪説派の人ですか」
「ええ。そもそも、もし人間が利己的じゃなかったら、今この世界に存在していないと思うわ」
「すみません。僕馬鹿なので、よくわからないんですが。どうして人間の存在と利己的ってことが関係してくるんですか」
「そう深く考えなくてもいいわよ。単純に考えてみて。もし人間が他の動物のことを自分よりも大切だと思ったらどうなると思う? ほかの動物に襲われても反撃もせず、他の動物を食べることもせず、草食動物のために植物も食べずに残しておいたりすれば、どうなる?」
「まず間違いなく絶滅しますね」
「その通り。今人間が生きているという事実が、私たちが自分たちのことを優先して考えている証拠なのよ。さっきは、自分が性悪説かもしれないとは言ったけど、正しくは違うかな。生まれながらに善性を持っている人間がいたとしても、そういう人は生存競争に負けてしまってすぐにいなくなってしまうというのが私の考えなのよ。だから、何かの拍子にそういう人が生まれるかもしれないし、後天的に利他的な思考に至る人もいるかもしれない。だけど、そういった人は生存競争に負けてしまうから長くは残らない。結果として、今いる人間の大半が利己的になるというのは不思議なことではないわ」
「なるほど、いわゆる自然選択って奴ですね」
「そうだね、よく知っているわね」
「僕、一応生物屋ですからね!
「そうだったわね……まあ、そういうことで、人間を含めこの世界にある存在は基本的に利己的だと考えられるわけ。だから、他の生物のことを深く考えないのは自然なことで、特に責められることではないと私は思うわ」
「えっと、でも先輩は肉を食べないんですよね?」
「うん。そうよ。その理由について一つずつ説明していきたいと思うけど、『人間は利己的な生物だから肉を食べても仕方がない』で納得できる人にとってはここから先の話は意味がないんじゃないかと思うわ。菜食主義の人がどういった考えから肉を食べないことを決めたのかを知りたい人にとっては有意義な内容じゃないかとは思うけどね」
「それなら、僕は聞いてみたいです」
「わかった。そういってくれると私も嬉しいわ。菜食主義と一言で言っても、いろいろな人たちがいるの。途中で眠くなってしまうかもしれないけど、堪えて聞いてくれると助かるわ。そして、もし気になったことや、それは違うんじゃないかと思うことがあったら遠慮しないで言って頂戴」
「わかりました!」
「それじゃあ、始めるわね」