入学式
満開の桜の花が優しく揺れる春。暖かな風が穏やかな空と新たな時を運んでくる。
「一年生の皆さん、ようこそ新稲手小学校へ――」
マイクを通しておっとりした初老の男性の声が広い床張りの空間に響き渡る。
男性が居るのは広い空間の一番奥、飾り着けられた小高いステージ上に立っている。男性はゆっくりと広い空間、体育館全体を見渡した。
そこには新稲手小学校の全生徒と一年生の父母が集まっている。その人数は教師を含めるとおよそ五百人程だろうか。
男性から一番近い位置、ステージのすぐ目の前には一年生が澄んだ瞳で男性を見上げている。
何人かはそわそわとしながらあちらこちらを見ているが、男性にとってはそんな様子は微笑ましい物であった。
「校長先生、ありがとうございました――」
校長先生の話が終わり、教頭を名乗っていた男性が式の進行を行う。新稲手小学校の入学式は滞りなく予定を消化していく。
しかし、やんちゃ盛りの一年生の集中力は
「次に、生徒代表の挨拶です。六年一組、桜川和明君」
「はい」
教頭先生に名前を呼ばれた生徒が元気な返事と共に立ち上がった。生徒はステージ脇へと移動して来賓へと挨拶を終えると、ゆっくりとステージ上へと移動する。それからまもなく演説台の前に立つと、一礼をしてから軽く一歩を踏み出した。
「一年生の皆さん、ご入学おめでとうございます――」
生徒は元気に、丁寧に、堂々と歓迎の言葉を紡いでいった。