Mokha
珈琲に纏わる切ない物語を語りましょう。
珈琲は様々なドラマを演出する小道具として使われます。
それは、香り、酸味、苦みといった感覚が、ある感情を呼び起こすからかもしれません。
ある時代のアメリカはカリフォルニア州マリン郡にあるドライブインレストラン。
ひとりは、ハリウッド映画出演を夢見る俳優を目指す男性
彼は、いつも珈琲だけをオーダーしていました。
ひとりは、そのドライブインで働く女性。
イエメン生まれの彼女は、夢をつかむ為にアメリカに渡ってきました。
彼らはドライブインレストランで出会い、1杯の珈琲を通じて関係を深め、
笑い、泣き、お互いの夢を語り合いました。
彼の夢は、俳優として大成し、彼女に素敵な誕生日をプレゼントすること。
彼女の夢は、街のシアターで彼の出演作品が上映されること。
その夢は、片方だけ叶うこととなります。
Good Morning, Vietnam、Dead Poets Society、Awakenings
シアターに、街に貼られたポスターには、彼の姿があり、
その名もアメリカ全土に広がりました。
大成した彼は、あのとき語った自分の夢を叶えるために、
かつてのドライブインレストランに向かいました。
あのころと同じマスター、風景、何一つ変わってないように思いました。
ただ、彼女の姿だけ見えません。
残されたのは、マスターが彼女から預かった手紙のみ。
その手紙の内容は伝えられていませんが、そのドライブインで出されていた珈琲は、
彼女の生まれ故郷イエメンから彼女へ送られていた豆を挽いていたものでした。
彼らのドラマを言葉少なに観ていたマスターは、
その後もイエメンから送られる豆を挽いて珈琲を淹れています。
そのイエメンにある港の名が、彼女の名前でもありました。
彼が受け取った封筒に書かれていた名前は、
“Mokha”