第一話 I計画始動
三ヶ月かけて完成……いい感じに仕上がったかも。
楽しんで読んで頂ければ幸いです。
2035年の第三次大戦を日本は乗越え、一時的な平和を取り戻したが世界はいまだ緊張に包まれていた。
また第三次大戦の様な戦争が起こらないとも限らない。
その対策として各国は、能力を持つものを造り出し育成に力を注いでおり、日本も例外ではなかった。
戦争終結から2年後――――
2037/3/31 国家保全研究所内、会議室内にて……
「今回発見された特異点は、前回発現した猪口氏よりも、更に特殊な物と想定されます。」
スクリーンの前に立ち一人の科学者が今回発見された能力者を説明していた。
会議室のテーブルには研究所内の重要人物以外にも、国防軍の重役、
そして、天号部隊隊長・猪口がいた。
「その能力者の検査は済んでいるのかね?」
一番奥の席に座る軍服姿の男が口を開き、手に持っていた書類を机に投げる。
無造作に散らばった書類の中に一人の少女の写真が貼られていた。
そこに写る少女はいまだ知らない、自身の運命が、全てを司る事になるなど。
「書類に記載されている少女が、特異点……γ型であり、検査は既にしてあります」
スクリーンの前の科学者は淡々とした口調で、説明する。
異能者には通常二種類あり、能力適合率90%以上のα型、能力適合50%以下のβ型……
これが今まで通常の割り振りだったが……
「今回の少女の遺伝子配列が極めて特殊であり能力は覚醒するかしないかは、不明なのです」
科学者は書類に目を落としながら少々困り顔で補足した。
その一言により全員が沈黙する中……、
「とりあえず投薬して成功したらオッケーで失敗したりゃしたで、廃棄すりゃいいじゃん、
今までみたいにさ、こんな無駄な話し合いする必要なくね」
猪口の後ろに佇んでいた少年が口を開いた。
おどけた様な口調に席に座る全員がそちらを向く。
殆どの人が険しい表情を浮かべていた。
「今回のように成功するかしないか判らないのに、投薬するのは人道的に不味いだろう!」
科学者のいる前の席に座るスーツ姿の男が多少怒り気味に反論する。
その意見は正しく、ほぼ全員が頷いた。
「申し訳ありません、うちの部下は少々場の雰囲気をよまず想った事を言ってしまう性格でして…」
猪口はその場を取り繕うために口を開く。
「いや、そこの彼の言う意見こそもっともだ、話し合いも必要だが、事実投薬してみるしかあるまい」
然し軍服姿の男がその意見に賛同した。
その意見に誰しもが口を閉ざした。
科学者は周りを見回し、
「それでは、今回の会議は‘彼女への投薬を決定する’で、よろしいですね? 」
その言葉に全員が賛同の意味をこめて沈黙した。
「それでは、今回の会議を終了といたします。」
科学者がそう宣告し、全員が異議なしとし、席を後にする。
静かになった会議室、その中で一人猪口が吐き捨てる様に、呟く……。
「また、一人増えるな……」
そして、頭を掻きながら部屋を出た。
――――――――――それから、7日が過ぎた。
……あれ、おかしい。
人生の中でそう思うことは何回あるのだろうか。
ついさっきまで、新しく入る高校に胸を躍らせながら通学路を歩いていた筈なのに……。
「あの~……、私何処に連れて行かれるのでしょうか?」
なぜか急に、政府関係者を名乗る人達に、車に連れ込まれてしまった。
「矢矧さん……、だったわよね。
心配しないで、何も取って喰おうって訳じゃないわ」
矢矧と呼ばれる少女の両脇には、彼女よりちょっとばかり年上の男女が座っていた。
右隣にいる女性が、彼女を気にして、優しい口調で語りかける。
凛々しい顔から出たその声は、まるで天使の様に柔らかく落ち着ける様な声だったが……、
(心配しないでって言われても、この状況下で言われても逆に怖えーぞ……)
左隣に座る男性が女性を見つめながら、冷や汗を掻きながら、考える。
女性の横脇には、女性とはまるで縁が無い物を置いているからだ。
その視線に気付いた女性が口を開く。
「何だ黛、その不安そうな目は?」
黛と呼ばれた男性は、溜息をつきながら、頭を抱えた。
「山下さぁ、心配しないでって冗談で言ってる?」
「私は、冗談を言っているつもりは無いが?」
しれっと山下が言うのを聞いて、黛は更に頭を抱えた。
何故なら山下の横脇には軍刀を携えているからだ。
黛の視線の先を追いかけ軍刀に向いている事に気付いた。
その視線の意味と、矢矧の不安そうな顔で自身の状況にやっと気付き、
「軍人たるもの、如何なる時でも有事に備えるべきだからな。」
そう言い誇らしげに、笑った。
その笑顔をスルーし、黛は矢矧に事の次第を告げた。
「矢矧君には軍に入隊してもらう義務がある、
それは君が他の人とは違う力を持っているからなんだ」
矢矧はその言葉を聴いて驚いていた。
それも、その筈である。
昨日まで普通の人としてし生きていて、普通の人生を送っていたのだから……。
黛は、矢矧の驚いた顔を見て無理もないと想っていた。
どんな人間でも急に、力があるから軍に入れ、なんて言われて納得できるものではない。
しかし、ここに矢矧の感情は関係ない。
これは国家で決めた義務なのだから……。
「黛、そろそろ着くぞ」
助手席からパーカーを着た目が切れ長の青年が声をかける。
パーカーの青年は素っ気無く言った後、矢矧のほうを見て、
鋭い目を更に細めると一言だけ吐き捨てる様に呟いた。
「精々、ぶっ壊れねぇ様にな」
その一言に、山下が少々顔を顰めている。
何とも言えない空気が車の中に漂う……。
「山下も、狗威もそんな空気出すなよ、矢矧君が怯えちゃうじゃないか」
その沈黙に耐えかねた黛が口を開く。
然し黛の言う通り、矢矧はその空気に呑まれて固まってしまっていた。
パーカーを被った青年……、狗威も山下もその様子に気付きバツの悪そうな顔をして、
二人とも顔を合わせずに前を向いた。
そうこうしている間に、車がとある建物の前で止まる……。
――――国家保全研究所内 1F――――
矢矧は、山下が前、狗威と黛が斜め後ろに立ち囲まる形で、廊下の奥へと進んでいる。
その廊下を大部進んだ後、三人が足を止めた。
矢矧も止まって山下の後ろから隠れる様に前を見ると、
其処には軍服を着崩し、煙草を燻らせながら壁に寄りかかってる男性がいた。
「猪口隊長に敬礼っ!!」
山下がそう言うと狗威と黛も敬礼の形をとる。
それを見た猪口は軽く笑いながら、
「別にいいって、敬礼しなくてもよ」
その言葉に山下が言葉を返す。
「然し、貴方は我々の上官ですし、我々は部下なのですから当然の行動です」
山下は敬礼を崩さず猪口に言う。
その言葉を聞いた猪口はゆっくりと山下の方に歩み寄り、
頭に手を置いた。
「お前らは、部下とか言う前に……、俺の仲間であり、子供みたいなもんだ、だからそんな畏まるなよ」
山下は驚いた顔をして固まってしまっている。
山下を横目にし猪口は矢矧の方を見て、
「急で悪かったね、ええと……、矢矧さんだよね、取りあえず今回はちょっと事情が特殊でね。
君にはちょっと話があるから、後について来てくれ、それと三人はここで待機していてくれ」
そう言うと猪口は、矢矧に手招きしながら突き当たりの部屋に入っていく。
それに惹きつけられる様に、矢矧が後に続いていく……。
その扉をくぐると其処には、机の前の椅子に猪口が、腰掛けていた。
猪口は矢矧にも席を勧め、矢矧が席に座ると、口を開いた。
「さっき軽く言ったように、今回は事情が特殊でね……、先ず君に訊きたいが、君は第三次世界大戦を知ってるね」
そう言うと、矢矧は黙って頷いた。
それを見た猪口は、顔を崩して矢矧にリラックスするように促した。
そして猪口はまた口を開く。
「その第三次大戦下、日本は一度朝鮮軍と漢共国軍により九州と四国を取られてしまった……、
その奪還作戦の為に、とある兵器の投入を決定したんだよ」
矢矧は固唾を呑んで猪口の話を聞いていた。
矢矧もその当時の話を軽く知っていて、その際に特殊部隊の活躍で奪還が成功したのも知っていた。
「その際に投入された兵器が生物兵器……、と言うよりか、俺達みたいに特異な能力を持った奴らで編成された部隊、
天号部隊が奪還作戦に出たんだわ」
猪口は頭を掻きながら説明をしているが、矢矧には何がなんだか解らずにいた。
天号部隊のことも知ってはいたが、その事が自身に何の関係があるのかを見出せずにいたのだ。
その様子に気付いた猪口が、
「ちょいと休憩するか?」
と言うと、矢矧は両手を前に出し激しく振りながら、
「だ…だ、大丈夫ですよ、まだ平気ですから続けてください」
軽く冷や汗を掻きながら慌てて答える。
はっきり言って、猪口の話に理解が追いついていない。
その様子を見た猪口がため息を吐き、
「と言うか、俺も説明が面倒なんだ。
簡潔に言えば、俺らみたいな能力適合者を集めて学校に入れて訓練して戦いに備える、
それが、今の日本の義務みたいなもんで、君にはその義務を果たして貰いたいんだ」
真剣な顔で言う猪口の言葉は有無を言わさない重みがあった。
「ただし、能力者になるには、1つリスクがある。
能力を得るにはある薬を投薬するんだが、不適合の場合……、打たれた本人が死ぬ事がある」
暗い顔をしながら猪口が言う。
まだ、15歳の矢矧には重い選択であった。
その選択を迫る猪口にも、辛いものがあった。
暫しの沈黙の後、矢矧は決意した。
過去の第三次大戦の際、矢矧は身内を失っていたから……、
二度とそんな事がないようにと、決意した。
「わかりました……、私、軍に入ります、能力者として」
静かに放ったその言葉には、確固たる意思が含まれていた。
その言葉を聞いた猪口は矢矧の決意を理解し、
「それなら、この先の部屋に入ってくれ、其処で投薬を行ってるから」
顔を背けながら、猪口は部屋の奥の扉をさした。
その扉は鉄の扉にパネルの様な物が付いていた。
そのパネルに後ろから猪口が手を置くと扉が開いた。
中はエレベーターになっており、そこに矢矧は乗り込んだ。
「頑張れよ」
エレベーターが閉じ始めるとき、猪口の応援が聞こえた。
その言葉に答えるように矢矧は笑顔で敬礼をし、
「はい、いってきます」
と、答えエレベーターは閉まった――。
――――地下 投薬室――――
長い間エレベーターは下に降りていった。
そして唐突に扉が開いた。
その扉の先には手術室に使う様な扉が一つあり、その上に投薬室と、書かれていたのだ。
矢矧は覚悟を決めその扉をくぐった。
その先には、歯医者で使われるような椅子と様々な器具、それに医師の格好をした人が六人ほど居た。
その人達に促され、矢矧は椅子に座った。
研究医達が機器の準備をし、一人の研究医が小瓶に入った液体を持ってきた。
「少しの間、意識が無くなるけど、目が覚めたら安静にして貰います」
横に立っていた医師が一言言うと、注射器にその液体をいれ、肘の辺りの静脈に刺し……、
「じゃあ、頑張ってくださいね」
その一言の後、液体が体の中に入っていく感覚があった。
その後すぐに段々と意識が混濁していく矢矧。
意識が落ちる寸前、彼女はある光景の中に居た。
地平線まで見渡せるような雪原の中、目の前に猪口がおり、微笑んでいた。
後ろにも気配があり振り向くと其処には、
山下、狗威、黛が居て、その横にも数人の男女が並んでいた。
金髪の女性が二人……、2人は姉妹のようであった。
その横には鋭い目付きの青年……、どことなく悲しい顔をしている。
同い年位の男女……、女の方は大人しそうな子で、男の方は可愛らしい顔をした子であった。
一番右端に居る人は軍帽を深く被っており顔は確認できなかった。
それぞれ全員が矢矧を見ていた。
そして、段々と景色が全て光で包まれていき、矢矧の事を光が包む。
「また後で、会おうね」
2人の姉妹が言う。
「……さっさと戻ってきなさい。」
鋭い目付きの青年が続くようにいい、
それに続き、
「また後でね」「じゃあ、またなー!」
大人しそうな女子と軽い感じののりで男子が言う。
「期待してっからな」「キミならやり遂げられるだろう」
狗威と山下も続けて言う。
「頑張ってね、期待してるよ」
黛も、励ましの声をかける。
深く軍帽を被った人は無言で手を振っていた。
「矢矧……、頑張れよ」
後ろから猪口の声で振り返ろうとした矢矧だったが、
その寸前で意識が全て闇に沈んだ――。
如何でしたか?
読み辛い、話長い、等意見があればいっぱいください。
今後の参考とさせて頂きたいと想います。
第二話は学校スタートみたいな感じです。