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エルフの里 アルフ1

--リア--



二人が里に戻ってきた頃には白んでいた空には日が昇り、里全体を明るく照らし始める。


大木の密集地帯に作られたこの集落 アルフは日の光が照らしても暑くなることはない。


草の影が日の光を遮り、広大な木漏れ日の空間をつくるためだ。


そのため朝から昼にかけてこのアルフは朝のひんやりとした空気の時間が長い。


私はこのアルフのある森から外にはほとんどでたことがないが、恐らくこの森よりも空気の澄んだ場所はそうないだろう。


私の隣を歩く御仁、義一郎殿にもそう感じてもらえれば良いのだが…



「で、リア?これからどこに行くのかね」



唐突に飛んできた言葉にリアはハッとなる。


隣には義一郎が不思議そうな顔でリアを見つめていた。



ま、まずい… 私としたことが特に何か考えていなかった。えっとこの時間のアルフだったら…



リアは顎に手を当て、考え込むような仕草をする。


グウゥゥゥ…


そのとき小さな低く鈍い音が、お腹から聴こえてくる。



「あれ?今の音は…「そ、そうですね… 義一郎殿は朝食はもうお食べになりましたか!? 私がいつも行く小料理屋があるのですが」」



少し勢いのある口調になりつつも、リアがそう言うと義一郎はお腹を擦る動作の後、大きく頷いた。



「確かにここに来てから何か口に入れた記憶が… うむ、是非案内してほしい」



「お任せください!美味しくないとは決して言わせませんよ」



ホッとリアは息をつくと気を取り直したように店へと向かう。



しばらく店が並ぶ通り沿いの道を歩いて行くと、リアが足を止める。



「着きました!この店です」



「これはまた随分雰囲気のある店じゃな…」



隣から聞こえてきた言葉に背筋がピクッと反応する。


よ、よく考えたら確かにこの店は最初の人には刺激が強いかもしれない…


案内した本人のリアもいざ店の前に立ってまじまじと見るとそんな風に思えてきた。


店の大きさは町の定食屋よりも少し大きいくらいだろうか。これも他の建物と同じように大木を切り抜いたような造りになっている。


だか明らかに他とは違うのはその外装。恐らくは現地の動物なのだろうが実に一メートルはあろうその動物の頭骨が屋根の中央にぶら下がり、その頭骨の鼻の辺りからもくもくと煙が上がっている。


入り口には鳥の骨を組み上げて作ったオブジェが一対になって飾られ、扉の上にかかるのれんは明らかに動物の皮である。


中々パンチの利いたその建物に案内した本人が恥ずかしさのあまりプルプルと震えていたところ、隣からボソッとま、いいかと声が聞こえてくる。



「どうした、入らんのか?」



「い、いえ 行きましょう」



ちょっと自虐的になりつつも、リアはその扉を開ける。



「らっしゃい 骨肉亭へようこそ! おっ リアさんじゃねえか。」



「おはよう店長、二人、空いてるだろうか?」



厨房からでてきたのはかなり大柄なエルフの男、耳の特徴がなければ、正直エルフだとは思わなかっただろう。


男はリアの前まで来ると、義一郎を見て目を丸くする。



「あぁ紹介するこちら「リ、リアが男を連れてきた~!!」」



「「えっ…」」



店主の大声に店にいた人全てが一斉に振り向く。


しかし次の瞬間には店内はお祭り騒ぎになっていた。


数人のエルフは放心状態になり、それなりに年のいったエルフたちは皆微笑ましい視線を向ける。中には席をたちリアに詰め寄ってくるエルフもいた。


その中に一際勢いよく詰め寄ってくる女エルフが三人。


「姉御、私たちに相談もせずこんな男と!」


「そうですよ!こんな何処の馬の骨ともわからん男 私は…」


「いや、この人どっかで… とにかく!姉御気を確かに!」



突然のことに義一郎は唖然とし、リアは目を回す。



ちょっと待て、何で私がこんなことに… いや今はこの誤解を解かねば義一郎殿に迷惑がかかる!!



「お主らちょっとは落ち着け!この人は「ええい、お前!よくも私たちの姉御を~」」



女の一人がリアの制止を振り切り、義一郎に詰め寄ろうとする。


まずい、義一郎殿が!!


リアは咄嗟に体を反転させると女の首に向かって手刀を放つ。



「ぐはっ!」



リアの一撃を食らった女はフラッと地面に倒れ、そのまま意識を失った。


しまったつい本気で…



「あ、姉御が暴力を振るうだなんて…」



「これはよっぽどのことだな…」



残った女たちはリアから距離をとると、緊張した面立ちで義一郎を見つめる。



「だから人の話を聞けと「そうじゃな、わしの口から言おう」」



リアの言葉を制し、義一郎が前にでてくる。



「わしの名は日ノ宮 義一郎、昨日お主らエルフたちから召喚されたものじゃ」



義一郎は店全体に聞こえるようにそう言うと、店の人々は皆一様にハッとしたような表情に変わる。


そのまま義一郎は口を開くと今リアにこの集落の案内をしてもらってることを伝えた。


話が終わると店の面々は先ほどの騒ぎとはうって変わって感心の唸り声をあげていた。



「つまりリアは英雄殿の案内役に抜擢されたわけか」


「偉くなったんだねぇ」


「流石俺たちのリアだぜ!」



若干の誤解はあるものの騒ぎ事態は治まったようである。



「「申し訳ありませんでした~!!」」



そして騒ぎの中心にいた三人の女エルフは気絶した一人を床に放置し、二人は頭を床につけていた。



「お主ら、いつも言っているだろう。しっかりと状況を見極め行動しろと」



そう言ってリアは頭を抱える。


全く、この国のことを知ってほしいといって初めからこんな失態ばかり見せて… 義一郎殿にどう弁解すれば良いのだろうか。



「でもよ姉御~、姉御だって人が悪いぜ。いままで男の影なんか全然無かったのに、いきなり朝から二人で飯食いにくるんだから」



「確かに勘違いしても致し方ないかと…」



二人はひょいと顔を上げて反省の色も欠片もない口調でそう言った。


私がこうも頭を悩ませてるのにコイツらは…



気がつけば私は腰に差していた剣の柄に手を伸ばし、その鞘から抜こうとする。



「「ひぃぃ、申し訳ございませんリア様どうかご許しを~!!」」



二人はそれを見て再び床に頭をつけると、何度もペコペコと頭を上げ下げする。



「リア、そろそろ許してやったらどうじゃ、わしは別に気にしとらんし…」



「うっ、義一郎殿がそう仰るのでしたら…」



私は剣の柄から手を離すと深くため息を吐く。


二人はホッとした様子でそれを見ると二人もまたため息を吐いた。



「おぉリア終わったか。それでお二人さん、ご注文は?」



頃合いを見計らって厨房から店主が二人に声をかける。


奥のテーブル席に案内された二人は席に座ると和紙のような質感の紙に描かれたメニューに目を通す。



「義一郎殿、ここの肉はこの里の中でも随一でな。どんなものが食べたい?」



差し出されたメニューに義一郎はう~んと唸り声をあげる。



「リア、わしはこの世界にきたばかりでな。正直何がどんなものかさっぱりだ。何かおすすめはあるか?」



おすすめと言われてリアは少し考え込む。


義一郎殿にとってこの食事はこの世界にきて初めてのもの… もっとも心に残る料理といえば…



「旦那~ このワイルドワギューのやみつき骨付き肉何てどうよ?スパイスが効いてバリうまだぜ!」



「このホルスタンビーフシチューも思案して頂きたい。肉の旨味がこもったスープは格別ですぞ」



「何故お主らがそこにいるのだ」



いつの間にやら義一郎の両隣には先ほどの二人が座り、メニューの解説をしている。



「旦那、俺の名前はヤルカ=ルータス。ヤルカで覚えてくれ!」



「私はディース=リズ。以後お見知りおきを」



「あ、あぁさっき自己紹介した通り義一郎じゃ。よろしく頼む」



自己紹介が終わり、再びメニューに目を落とす三人。そこにすかさずリアが割って入る。



「ちょっと待て、今言ったと思うがお主ら何をしてるのだ!」



二人はメニューからリアに視点を向けると、全く同時といってもいいタイミングで手を前にかざす。



「止めねえでくれ姉御、俺が迷惑かけたってのは充分わかってんだ。だからよ、ここで名誉挽回の機会をくれ!」



「このディース、必ずや期待に応えましょう」



二人はそう言ういうと再びメニュー選びに精を出し始める。



「お、お主らはどこまで私を…」



リアの眉間にどんどん皺がよる。しかし二人は全くその様子には気づいてないようで、唯一義一郎だけがその変化に肝を冷やしていた。


すると先ほど気絶させられていた女エルフが回復したのか席に近づいてくる。



「あっ!お前らこんなとこに…って、さっきの男!まだこんなとこにいたのか!姉御についた虫に、いざ粛清を~!!」



しかしその女エルフは義一郎の姿を認めるといきなり拳を振り上げた。



「いい加減にしろといってる」



その瞬間、拳を振り上げていた女エルフの腹にリアの拳が炸裂した。



「がはっ!」



拳を食らった女エルフはそのまま力なく前のめりに倒れ、床に伏す。



「やべえ、ミスティがまたやられた!」



「くっ、潮時か!」



二人は席を立つと、ヤルカは倒れる女エルフを担ぎ上げ、ディースは道を確保する。


リアは完全に二人をターゲットにしており、その瞳は完全に別人のものと化していた。



「逃げるぞ、ディース!」



「戦略的撤退!」



二人はカウンターに何枚かの硬貨を投げる置くと、全力疾走で店から出ていってしまった。


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