4,ダークラビット
※お読みいただく際の注意※
この作品は、魔法少女へと変身する場面がございます。そのため、登場人物たちの容姿を想像しやすい様に、通常の状態は漢字または平仮名表記、魔法少女の状態はカタカナ表記となっておりますので、ご注意ください。
〈例〉
通常 → 魔法少女
木乃子→キノコ
〜前回のお話〜
どう考えても無理な状況にいます。
ダークラビットVSロボ君3世
Winner、ダークラビット
Next turn
>>>>ダークラビットVS魔法少女研究会(キノコ&レイ)
〇1
「いや、え、まじかよ…」
まじだよ。
ダークラビットに引きちぎられた…と思われた頭が路上で金属音をたてて転がる。向けられたのは、真っ黒い目から放たれる殺気のこもった視線だった。
「…次の獲物はボクらってことかな」
頬に冷や汗が伝う。
じっと、出てくるのを待っているようだった。
玲衣が右手に、あのバッチを握りしめた。それを見た木乃子がスッと手を伸ばしてバッチを握る手に添えた。
「…や、やめよう…」
「え?なんで今更…」
「だ、だってほら、あのロボットも壊されるほどだし…どうなるかわからないんだよ…」
「…いやいや、ほら、あのロボットはほとんど試作品だろうから、大丈夫だよ。」
「そ、そういう問題じゃ」
止めようと思ったのか、静止するように促した。
「…ほら、ね、ボクは行くから。」
木乃子の言葉を払い除けて、玲衣は細い路地裏に立ち上がる。
「あとさ、ほらボクひとりじゃ勝てるかわかんないから、木乃子もついてきてくれないと。」
べしっと玲衣が頭に手を載せて、ぐしゃぐしゃにした。視線が上からだったのか、太陽光の入射角のせいなのか、玲衣の表情がいつもの何倍も明るく見えた気がした。
「…玲衣は恐くないの?」
んー…と言葉を濁してから、玲衣はため息をついた。
「恐くない…わけじゃないさ、危ないし。でも、ボクらが殺らなかったら世界は終わるんじゃないかなって思ってる。」
玲衣は路地裏からの出口に立って、木乃子を振り返った。
「さっさと倒して帰ろーぜ。」
機械の部品が転がっている道路に、なんとか足を伸ばして地面を踏みしめた。二人の体はちゃんと勇気が包んでいた。
大きく深呼吸。
こころを取り巻いていたモヤモヤした悪い空気が、新鮮なものに取り替えられる。
「…キノキノキキキノノキキノキノノキノコ…っ」
キノコの魔法の言葉。自信をつけてくれるし、何より強くなれる。彼女は魔法少女の姿へと変身した。
キノたんが出してくれた槍を、毎度のようにしっかりと握りしめる。体の前に構えてみると、持ち手部分に文字が刻まれているのに気がついた。
『Forest's spear』(森林の槍)
勇気が込められていた。
「レイ、大丈夫。さっさと倒して五十鈴と会長さんのとこ行こ」
「…そうだな、ほら、このまま見えないバリアーの電池が切れたらコスプレしてるただのイタイ女子高生だからさ、早く片付けようぜ。」
言われればそうだ。キノコはまあ、ちょっとPOPすぎる幼い女の子に見えるのだろうが、玲衣の場合、黒と紫基調の衣装(?)で、パーカーの猫耳付きフードを被り、ショートパンツです。萌える…。ベルトの部分からは銀のチェーンがゆるーく引っかかっていて、いかにもロック!って感じと想像してください。
「んー、キノコらしい。」
「レイも人のこと言えんよ。」
「…まあ、よしとして、行くか。」
フォレストスピアを薙刀の様に構えたキノコは、その刃をじっとダークラビットへ突きつけた。
一方のレイは、愛用しているらしい背中のホルダーから、磨かれた大鎌に手をかけ、取り出した。
「どうする?」
真面目な表情のキノコに、レイはにやにやしている。
「んー、じゃあボクが正面から斬る。キノコは援護な。」
「な…っわ、私が援護…?」
「だってまだなんも慣れてないだろー?」
反論する間もなく、レイに前を立たれた。
「出陣だ」
〇2
路上に佇む『ダークラビット』なるソレは、もはや原型など保っていなかった。
壊した動くロボットの頭を丸呑みにし、形を失ったそれは、ただの丸い物体…いや、それ以上に歪な物となっていた。
そこにあるだけで不思議で異質で、呪われそうな何かを、今、眺めている。
…彼の理性は保たれている。だが、今目を離したら殺されてしまいそうな何かを受け取り、辛うじて立てているだけだ。
彼は必死に思考回路を動かし、目の前のそれを観察した。
多分ソレは、まだ彼の存在に気がついていないのだろう。もしそれが、形を取り戻したら、必ずと言っていいほど殺される。栄養素の高い人間を餌に選ぶなんて、なんて頭の良い生物なんだ。跡形もなく消化してくれるだろうか。
そんな想像ばかりが彼の頭を漂った。
味はともかく、食感なんかは悪くは無いのだろう。
意識をソレに戻す。
うにゃうにゃと、くねくねと動くソレは、少しだけ耳の形を整え始めた。まだ耳が立つ、とまでにはいかないが、耳の細長い形が浮き出ている。
もうすぐ殺されてしまう。
そう思った。
目の形までもが浮き出ている。
…ふと、風を切る音が聞こえた。耳元を、一瞬で通る様な感覚がした。
それと同時に、2人のコスプレをした少女が、それがいない方向から飛び出し、それぞれの武器のようなものを構えた。
先ほどの風を切った何かは、矢だったらしく、黒いソレは矢をぬこうと必死に動き回っていた。
…どういう状況だよ…
すると、コスプレイヤーのうち少し目がつっている、黒い服の方が、右手の鎌を振りかざしながら、黒い歪なソレに向かって走り始めた。
「うらぁァァッ!!」
少女は、鎌の刃が届くくらいの近距離にまで接近し、振りかぶられた鎌を一気に振り回した。
鎌の刃に触れた黒いソレの耳の跡から上は、スパッと切り落とされた。丸い円盤のような黒いソレの頭らしき部分の一部は地面に落ちると、突然中央から発火し、煙を上げ始めた。
…発火性なのか…?…いや、ちがう。油…ガソリンの匂いが鼻を突いた。
「おいキノコ!水出せないのかっ!?」
「わたしは魔法が使えてないんだよ!!」
キノコ、と呼ばれたツインテールの少女は、槍をまだ動かない黒いソレに突き刺そうとして、大きく振りかぶった。
…その瞬間、彼は思わず大声で叫んでしまった。
「そいつを刺すなあああっ!!!」
2人のコスプレイヤーは、「えっ?」という顔をしてこちらを振り返った。
同時に、キノコと呼ばれた少女の槍が、黒いソレに突き刺さった。
…刺さってしまった。
〇3
「…会長。私を辱めたいんですか?」
「そんなことないわよ〜。大体みんなこんな感じなんだから。」
「会長のがまだ大人っぽくてましですけど。」
まだ青空が見える空き教室に、巫女服&垂れるうさぎ耳カチューシャ姿の天野五十鈴と、ナース服フレアワンピースもどき&通常の20倍もの大きさの巨大な注射器を持った生徒会長がいた。
2人は先程まで、ちょっとした悪い方法を使ってテディベアことDMOを捕まえ、目的である五十鈴の魔法少女化を行っていた。そして、今に至る。
少なくとも、あと5分は時間を稼いでくれるだろうと予測していた。のんびりと夕方の風が吹きいる窓を閉め、空き教室を出ようとした。
その直後、2人の鼓膜を大きく振動させた出来事が起きた。
窓から見える、東側の道路から、煙と赤い何かがちらちらと覗く。先程、つい先程の出来事。
爆発だろう。
その音と状態に驚いた会長と五十鈴は、一瞬怯んでから窓の外を見た。どうやら現場は噂のダークラビットがいる場所らしい。幸いにも、校内にいる生徒が叫び声を上げるようなことが無かったからだ。=見えないバリアの中で起きている出来事だからである。
煙に弾かれるように、会長は五十鈴の手首を掴み、空き教室を飛び出した。
「…な、何が起きたんですか…?」
困ったような表情で会長の様子をうかがう五十鈴。そんな弱々しい表情に会長は、廊下を走る足を速めて呟いた。
「大丈夫。間に合うから。」
そんな小声の呟きを聞き取った五十鈴も、スピードを上げた。
〇4
真っ黒な煙に視界が覆われる。
『見えないバリア』のせいで、バリアが張られた20×20m四方のこの空間が、煙で満たされている。もちろんこの煙は外部に漏れることはないし、外部から見えることもない。ただ一部条件を除いて。
目標物は排除した。排除したが、『ダークラビット』の煙は消すことができない。そして、バリアそのものに燃え移ったり、地面に燃え残った火も。
「…キノコ…。」
先ほどの爆発の直前、細道に潜んでいた少年を自らのパーカーで救出したレイが、その細道からふらふらと道路に出てきた。
キノコは…
キノコは、道路の真ん中にいた。
いつもよりも垂れ下がったツインテールと、小刻みに震える肩。魔法少女の衣装も肌にも、煤や灰がついて黒くなっていた。頭の上のキノたんは微動だにしない。
「おい、キノコ…っ」
「…レイ…?」
キノコは脱力感に襲われ、地面にへなへなと座り込んだ。
「怖かったのか?目の前の爆発が。」
ゆっくりと左右に首を振る。
「…どうしたんだよ?」
「…めっちゃびっくりしたぁぁ…!!!」
〇5
「へぇー。そうだったのね。大変だわー。対策を考えなくちゃー。」
大体のことを会長に話した木乃子と玲衣。それに対しての会長の感想がほぼ棒読みだったことは目を瞑ろう。
実はあの後、五十鈴に火を消してもらった、というエピソードがある。初の魔法少女イスズちゃんのお仕事は、魔法が未だ使えない先輩方の代わりに試しに水を出してみて、出てきたら消火する、というものだった。
それはともかく。
あの細道で隠れていたネガティブ少年は、保健室でぐっすり寝ているのである。
〇5+α 保健室
蛍光灯の光に照らされて目が覚めた。
眩しい。
熟睡していたらしく、少しばかり眠る直前の記憶がない。
と、保健室の学校医らしいショートカット男勝りな先生が、事務椅子で少年のいるベッドの側までやって来た。
「お、起きたか。おはよう。」
「あ…先生。」
学校医の彼女は、意地悪げに微笑んだ。
「一酸化炭素中毒で気絶だなんて、高校でそれは初めて聞いたよ。ここまでは2年B組の姫井と佐井が運んできたんだ。…お前もまた面倒なことに巻き込まれたな。」
「はぁ、面倒なこと…。」
「あ、ついでに、生徒会長が、目ぇ覚めたら生徒会室に来て欲しいとのことだそうだ。珍しいよなぁあいつにしちゃ。気をつけろよ。」
学校医の言葉は全く意味がわからなかった。
ただ、受け取ったものは、楽しげな言葉だけだった。
誤字脱字失礼しますm(*_ _)m
のんびりのペースですが、楽しんでいただけると光栄です。