3,コスプレイヤー同好会?
生徒会長が仲間になりたそうに見つめています。あなたはどうする?
・仲間にする
・無視する
・逃げる
・その他
「あのさぁ玲衣」
「ん?なんだ?」
「なんでわたしがここにいなきゃいけない?」
ぐだぐだしながら木乃子は玲衣に聞いた。
机に伏せてる彼女はツインテールを机に垂らしながら、いじけていた。
東棟三階の一番端っこの教室である生徒会室の隣に位置するこの小会議室で、かの生徒会長様のご命令にて、二人は素直に待機している。(正しくは会長様が怒られているらしいので、それが終わるまで待っている、という状況。)
面倒臭い、という心の病にかかっている木乃子には、正直何も通用しないのだろうが、玲衣は木乃子をこの教室にとどめておくことができた。
「そもそも、なんでわたしが生徒会長に呼ばれなきゃいけない」
「仕方ないじゃないか。会長だって仕事があるんだし、木乃子に用事があるっていうんだ」
木乃子はまた深いため息をついた。
ガチャリ…
タイミングを狙っていたかのように、突然小会議室の扉がゆっくりと開いた。
「ねぇどう思う?あの対応、あの適当さ、あのまつ毛…!すごく腹が立たない?」
「どうもこうも、外見はちょっと気に入りませんけど、悪いのは会長では…」
「えっ、五十鈴ちゃんもそう思うの?…じゃあちょっと反省するわ」
最初から反省してください、と声が聞こえてからドアが全部開かれた。同時に玲衣の顔が晴れる。
「会長、五十鈴!」
ガラッと椅子を戻し、二人の元へ駆け寄った。
「あ、玲衣先輩。遅くなってしまい、すみませんでした」
「ごめんね、玲衣ちゃんと…後ろのキノコちゃん?…あっ、姫井さん。で、いいのよね?」
木乃子の頭はぐるぐるし始めた。とりあえず、肯定の意で頷く。
会長と呼ばれる背の高いロングヘアの三年生が、唐突に木乃子に駆け寄り、しゃがみこんだ。
「姫井さんっ!」
「は、はいっ!?」
全力の真顔に、全力の返事で答えた。
「簡潔に言います。私たちと、部活を作りませんか!!」
「………はい?」
首を傾げて、頭の上に「?」を浮かべた木乃子の反応に、会長は更に身を乗り出した。
「だからっ、部活を作りましょう!?」
「…え、いや、何の部活ですか…」
「なんのって、何でもいいじゃない!!」
木乃子の質問に全力で答えるこの女子高生が、…生徒会長とは認め難いと、木乃子は思った。
玲衣が止めにかかる。
「会長、ちゃんと説明しなきゃ駄目っすよ。」
「玲衣さんの言う通りです。説明は何事にも必要ですよ、会長」
左肩の上でぴょんと跳ねる短い髪を纏めた女の子、五十鈴は、玲衣の隣で腕を組んでじっと見ていた。
「はぁい」
大人しくなった会長に、椅子を薦めた玲衣は木乃子の後ろに立つ。
「ところで本題です」
会長の横に立った五十鈴が、話を持ちかけた。
「玲衣先輩から聞きました。木乃子先輩が、魔法少女になってしまった、と。それについて、会長から一つ提案がありまして…」
人差し指を立てて決め顔をした会長は、ズバリ、と言わんばかりに口を開く。
「いっそこのまま内緒の部活っていう括りで活動しちゃいましょうっていうことよ」
木乃子はツインテールを揺らしながら、猫目を光らせる。
「なんで部活じゃなきゃいけないんですか?そもそも、魔法少女はわたしと玲衣…」
「だけじゃないんだな。」
「え?」
正面に立っていた決め顔会長が立ち上がり、ポケットに手を突っ込んだ。そして、そのポケットから出てきたものは…
…無かった。
「あれっ?あれれっ?私どこにやったっけ…?ねえ、五十鈴ちゃん知らない?」
「…ま、まさか会長、ストラップ落としたんですか…?」
「……そうみたい。えへへ、五十鈴ちゃんごめんね〜。まあ、何とかなるわよね。…あれ、もしかして、怒って、る…?」
眉間にシワを寄せている五十鈴の顔を見て、会長の顔色が真っ青になった。
…まずいらしい。いつか、玲衣に聞いた。一年生のある女の子は怒らせちゃいけない、と。
…いやいや、こんな可愛い五十鈴ちゃんのことじゃないよね。うん、きっとそうだ。
すると、会長が突然態とらしく、制服の上着のポケットからかわいい注射器のストラップを取り出した。
「…あった!五十鈴ちゃんあった!あったよ!ほらっ、私の大切なストラップがちゃんとここに!」
クルッと会長の方を向いた五十鈴の顔は驚いた純粋な顔に戻っていた。
…危ない…。
「もう、驚かさないでくださいよ〜、会長。さて、話に戻りましょうか」
正しく座り直す。
「実は、この間抜けでドジでアホな会長も、魔法少女だったりするのです。分かりますか?」
会長は胸を張っている。とりあえず木乃子は首を縦に振った。
「んー…想像はつかないけど、なんとなく、わからなくもないような」
「それでいいです。で、今モンスターを討伐している上でですね、どう頑張っても倒せない子が出てくるんです」
例えば、超巨大サイズのスライムだったり、と、大体の絵を黒板に描いた。
「更に会長と玲衣さんは、犬さんタイプのスライムなんかにも…」
目が大きくて、首が短く、如何にも昔のアニメに出てきそうなムキムキの二足歩行の犬とは言えない何かの絵を描く。…美的センスは多分、下から二番目辺りだろう出来栄えでした。
「そこでです。共闘をしませんか?」
人差し指をピンと立てて、空いている手を腰に回した。
「共闘…?…なるほど、そういうことか」
「そう!みんなでモンスターを倒そうっていう感じね」
「分かっとるわ」
玲衣は楽しそうにくるくると回り、五十鈴の肩を組んで止まった。そして、口を開く。
「で、ボクらは部活っていう括りで楽しくモンスターを狩ろうっていう話に纏まったわけさ」
まあ、モンスターは楽しく狩るものじゃないのだけれども。
項垂れる頭を起こした木乃子は、少し考えてから、にやっと笑った。どうやらなにか企んでいるらしい。
「別にわたしはいいと思う。ちと面倒くさそうだけど。で、何で部活なの?」
「いやぁそれが、部活じゃなきゃ休日学校が使えないし、放課後も学校が使えないから」
休日に学校に行かなければいけないという制約が付いてきました。
「ああ、そうそう。名前なんだけどね、服装が誤魔化せないからコスプレ部とかってどうかしら?生徒会への申請が楽だし…」
「え、ボクはもっと気軽な…ほら、制作部的なのがいいなって思ってたんですが…」
「何も作ってない事実」
木乃子にトドメを刺された。
会長は立ち上がると、ドアの近くまで行き、残った三人に向けて笑顔で告げた。
「じゃあ、生徒会に申請してくるね〜」
更なるフラグが立った瞬間だった。
五分後
「はぁ…ただいま…」
ものすごく頭を項垂れてショックそうに教室に入ってきたのは、元気だった会長だった。
「おかえりなさい…って会長、どうしたんですか?そんなに落ち込んで」
「それがねぇー」
かくかくしかじか。
「…そりゃそうですよね」
「で、でもね、同好会ならいいって!」
「ていうかあなた、生徒会長ですよね?」
「そうですけどっ!でも生徒会長の権限でもどうにもならないこともあるんです!」
玲衣のほっぺの両端を摘み、いーっとして泣き泣き抗議する会長は、高校三年生というか、むしろ小学三年生。それでも、これはこれで微笑ましい光景だった。
「…ん?あれ?五十鈴は魔法少女じゃないのか?」
「ああ、」
「あっ、そういえばね、私工業高校に二年生の友達がいるの!で、その子がメールくれて…」
ピッピッと簡単に操作をして見せたメールは、二分前のだった。
「えーっと…『北上町メインストリートの三番目ブロックに、モンスター発生。至急応援をよこせ』…はぁ?!会長、なんで言わなかったんですかっ!」
「ごめんなさい。でも大丈夫、あの子一応生きてるでしょうし。えっとね、私は五十鈴ちゃんを魔法少女にしてから行くから、先に向かっててくれる?」
二人で頷いた。
〇北上町メインストリート
木乃子の制服の袖を掴んで走る玲衣。走りにくそうだな、と思った木乃子だが、玲衣曰く、木乃子は方向音痴すぎるから離しておけない、らしい。ツンデレなのかなんなのか、そっちの趣味は無いにしてもギャップがかわいいかった。
住宅街の現場に着くと、路上では、戦車の足に無理やり頭を設置したようなフォルムをしたロボットと、影の様な黒に染まった細身のウサギが睨み合いをしていた。木乃子と玲衣は、そのウサギから放たれる殺気のこもった視線を感じ、すぐ横にあった家と家の間の、細い路地に隠れた。
「…お、来たか、玲衣」
隠れた先に居たのが、家の壁にもたれかかり、コントローラーらしきものを持ったショートカットの少女。
「…え、どういうことだよあれ…」
「いやぁ、待ちくたびれたよ、熊ちゃん学園の二人。ちとね、防衛用に連れてきたロボ君三世が誤作動を起こして、緊急防衛体制にはいっちまって…お、玲衣、隣のは新入りか?」
「んー、まあね。木乃子だ、二日目」
少女は、ふむ、と顎に手を当てて、かけていたピンクの眼鏡をくいっと持ち上げた。
「木乃子君か、ワタシは来夢。ライムじゃない、来夢だ。で、今睨み合いしてんのが、恋人のロボ君三世」
「は、はぁ…」
「一応アイツには改造した特殊警棒を持たせているんだが、なんせメンテナンス中の事だったから、動きがなんとも鈍いんだ。だからこうやってオート操縦をオフにして手動で…」
コントローラーをちらつけ、正面に展開してあるスマホを覗く。どうやらロボ君三世には内蔵型のカメラがあり、さらにコントローラーで遠隔操作ができるらしい。
ゲーム感覚でできるのか。
玲衣は来夢の手元に置いてある、青く光るペンを見て木乃子に付け加えた。
「あ、木乃子、一つ説明いいか?」
「んー、うん?」
「あのペン、わかるだろ?あれは『見えないバリア』って言って、周囲の人間にあのウサギとか、スライムとかを見せないように隠す装置で、ライムと会長が学園OBの先輩から教わって作った…」
「くどいから、端的に」
「あれは見えないバリアです!」
名前が説明になっていますけど、玲衣さん。
来夢が手元のバリアーを見て、よっこらしょと腰を上げた。
「バリアの充電なくなってきたから、電池買ってくるわ。三分はもつだろうし、すぐそこのコンビニだから待ってろよ」
そういうと来夢は、コンビニエンスストアがあるという方向に駆け足で向かっていった。ロボ君とウサギに気も向けず。
残された木乃子と玲衣には、なんとも言えない空間が伴っていた。
「…ライム、ロボ君オート操縦にしていった…よな」
「それは知らない…けど、まあ、大丈夫なんじゃないかな」
そんな安堵の時間など束の間。空間を割くように鳴った甲高い金属音は、道路に響いた。更にロボ君の足に組み込まれていたであろう丸い部品が、コンクリートの上を転がり、木乃子たちが居る細い路地のすぐ手前で止まる。そして、クルクルと円を描いて、コンクリートと擦れる音をフェードアウトさせながら地面に伏せて止まった。
それは、ロボ君三世の限界であり、敗北を意味していた。そして、ある意味の時間切れ。
それを見た木乃子と玲衣の思考回路は、一瞬だけ止まり、次の瞬間には道路からの殺気に背筋を震わせた。
「…は?」
「…え、ちょっとまって…」
見てもいないのに、あの黒いウサギは二人を大人しく待っている様に見えた。ただ、ひたすらに出てくるのを。
「まだ、30秒しか経ってないんだけど」
誤字脱字等あるかもしれません。すみません…
教えてくださると有難いです。
是非評価していってください>_<