1,魔法少女
木乃子ちゃんの魔法少女デビューです。
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一年前から懐で温めていた作品です。このシリーズは今はもう書き上げていますが、編集をして順次上げていきたいと思います!宜しくお願いします!!
ある日の昼休み。キノコちゃんこと姫井木乃子は、熊ちゃん学園の屋上を訪れていた。
春の日差しと爽やかな風が吹くそこは、教室とは全く違う空間が制していた。
木乃子の右手にはお弁当バッグ、左手には謎のバッグが握られている。
木乃子は、とある女子生徒を見つけると、その子の隣にどかりと座った。
佐井玲衣だ。
玲衣は木乃子の姿を確認すると、にこりと笑った。
「木乃子ぉ~。今日のランチは何?お腹がすいたんだよ」
玲衣は胡坐をかきながら、大きな欠伸を繰り出した。
ツインテールを揺らす木乃子は、デリカシーのない玲衣を見て笑った。
「心配すんなって。今日も持ってきたよ」
右手のバッグから木乃子が取り出したのは、コンビニのおにぎり4個だ。それを手に取り、満足そうにかぶりつく玲衣をみて、木乃子の頬は緩んでいた。
放課後。
木乃子は一人、帰路についていた。放課後活動はなにもなく、基本的な帰宅部であるため、この時間以降はフリーなのだ。彼女は熊ちゃん学園から、家に至るまでの住宅街をとぼとぼと歩く。
と、そこに1つの「何か」が現れた。
黒くて、ジェル状なのに一応山の形を保った、あれが。
そう。スライムが。
大きさは人一人分くらいの大きさ。どちらかというと、成人男性くらい。SIZ判定は約18くらい。高さは190cmと見れる。木乃子の身長よりも、大きい。
そしてそれは、木乃子の帰路を塞ぐように佇んでいる。顔がないため、どちらが正面か分からない。
木乃子は驚き、足を引いた。
「お、おかしい…ここはゲームの中じゃない…しかも、このサイズ、大きすぎる…」
「それは、具現化された人間の魂だよ」
不意に木乃子の後ろから、高くて愛らしい声がした。その声に反応して、振り返る。
「誰だ?!」
後ろにいたのは、クレーンゲームなどで商品になりそうな、かわいい熊のぬいぐるみ、テディベアだった。毛並がきれいで、素材もさぞかしいいものを使っているのだろうと思えるほど。
「て、テディベアが直立してる…。じ、自立…?それより、声はどこから…」
「…いやいや僕だよ!!」
テディベアは大きくそのもふもふの右腕を振ってアピールする。正直、この絵はホラーでしかない。
「…何?」
「僕は今、魔法少女を探してるんだよ。人材とか、どうでもいいからとりあえず魔法少女になる子を。性質なんて全く変わらないはずだし、その子の武器とか身体能力にもよって・・・・・・」
「他をあたってくれ」
「な、なんで断るのさ!」
「興味ない。それになってなにが起こるのさ。なにも代償がなくてそんなものが成り立つわけないだろう?とりあえずわたしはさっさと帰りたいんだが」
木乃子は追い払うように、テディベアを蹴ろうとする。
「い、いいよ!じゃあ、なってくれたら君の運動神経を飛びぬけて抜群にするように手配する!そうすれば、体育の授業なんてへの河童だろ???」
「う、ん・・・まあ、悪くはない…って、ああ?!お前の後ろ!!」
木乃子が気が付いたのは、後ろにも同じように大きなスライムが現れていた。色は両方とも黒。道を塞がれた。
「おい、何してくれてるんだよ!ったく、これじゃ帰宅時間が遅くなるじゃないか!」
「これは僕のせいじゃないよ!さっさと頷いてくれればよかったのに、これじゃあ戦闘するしかないじゃないか」
「お前がやれ」
「残念ながら、僕は理性を埋め込んだだけの可愛い可愛いぬいぐるみなのだ(キリッ)」
「この無能な不細工ヌイグルミめえええぇぇぇぇ!!!」
木乃子がそう声を上げた途端、前後で壁になっていた黒い二体のスライムが、挟み込むようにゆっくりと木乃子との間を縮め始めた。その様子をみて、木乃子は疑う。
「ちょ、ちょっと待てよ、こいつら、コンクリを・・・」
スライムが体を引きずるごとに、約15cm進んでいる。その巨体の脇から見えるスライムが通った跡は、アスファルトが表面から数センチ程剥ぎ取られていた。それをはっきりと見た木乃子は、テディベアに質問をする。
「なあ、熊。これって、わたしがもしその魔法少女になったとして、これから当分活動しなかったら死ぬーとかいうデメリットってあるのか?」
テディベアは、首を傾げて言う。
「んー、死ぬ、はないね。だってもともと魔法少女って18歳までだし、卒業あるし、メリットなければデメリットもないだろう?まあ、戦闘は楽しいけど怪我するかもだし、最悪は事故死だから、ちょっと刺激的なレジャースポーツって感じかな」
全然レジャースポーツの意味をわかってない熊。怪我っていうか、もうそれって本気で殺しにかかってくるってことなのではないのか。
木乃子は、ダークファンタジーな一面がないことを浅く確認すると、引き気味で頷いた。
「う、うん、なんとなくわかった、レジャースポーツな。とりあえず、試しにやってみるくらいならいいが・・・」
「まあ、こいつら倒さなきゃ進めないんだけどね。よしじゃあ、これをあげよう!」
テディベアが取り出したものは、キノコのシルエットをしたオレンジのピンバッチ。それを木乃子はふんだくるように受け取り、頭より高めに掲げ上げた。
「おい、熊」
「なんだい?」
「その…変身用の呪文とか、無いのか?」
「そんなものがあるの?」
「…何も訊かなかったことにしてくれ」
テディベアに背を向けた木乃子は、そのピンバッチを掲げたまま、心のなかに溜め始めた羞恥を爆発させるかのように叫んだ。
「…キノキノキキキノノキノキノキキノキノノキノコ!!!!」
「な、なんだそれは!?」
木乃子がそう叫ぶと、何かが解放されたように木野子のピンバッチの先から光が飛び出す。太くて透き通った光は、3m程上昇してから木乃子の体に制服の上から包み込むようにして張り付いた。そして、何かの形を作り出す。
「もしや、これが変身…」
瞬く間にその光は輝くことをやめ、確かな色と触感を持った、服を具現化させた。縞模様のニーハイ、カボチャパンツ、シンプルなYシャツに、空色のロングネクタイ。それに、オレンジと黄色と黄緑色の水玉模様が入った上衣、紫色の靴に、キノコの髪飾り。一見してみると、ただのPOPな服装にしか見えない。
これがいわゆる『変身』ってやつだ。
完全にモードチェンジを行った木乃子(変身時は紛らわしいので、以下カタカナ表記)戦闘アクションに必要不可欠なアイテム、『武器』を探し始めた。
「おい熊。武器はどこにあるんだよ。わたしの武器は」
「武器ならその髪飾りの中…」
「はぁ?」
半信半疑…というか、全疑、なのだが、とりあえず従ってみることにする。キノコは自分の頭の上の髪飾りに手を伸ばし、そこにあったきのこ型の髪飾りを何度か触る。すると、その髪飾りのきのこから突然声がした。
「キノコたん、キノコたん、チョットマッテ」
キノコの耳に届く、デジタル音。それは、よくキノコが聞いている、ゲームでのサウンドを思い出した。
「お、まさかのチュートリアル??」
ぬふふ、と笑いながら、キノコは顎を人差し指の第二関節と、親指の腹で挟むポーズをした。
「キノコたん、ブキアゲルネ」
そういうと頭の髪飾りのきのこは、機械仕掛けのカサをはずして、そこから自分よりも明らかに大きい槍をゆっくりと取り出した。
外から見ると、コスプレの女の子が頭からおもちゃの槍を自動で取り出しているという異様な光景だろう。
「まさか、本当に」
後方でキノコを見る地球外生命物体とも思われるテディベアは、驚きを隠せない様子だった。なにか、信じられないようなものを見るような驚きの仕方を無表情のぬいぐるみのまま、必死に表現している。
「行くぞキノたんっ!!」
髪飾りの喋るきのこに「キノたん」と名付けたキノコは、頭から槍を受け取り、その槍を体の右側に両手でもち、キノコは帰路を遮っているほうの黒いスライムに向かって走り始めた。
まるで、棒高跳びの選手のように。
数メートルの助走をつけて、足首をくねらせて、低い高さで跳躍をした。
「消えろおっスライムゥゥゥゥっ!!!」
キノコは叫び声をあげながら格好よく大きなスライムの頭へと槍の先端を突き刺した。
直後、そのスライムは声にならない音をだして、一つの野球ボールほどの大きさのボールへと縮小されて、消えていった。
意外とあっさり消えてしまったそのスライムを突き刺した感覚に快感を覚えたキノコは、餌を求める狼のような視線を、後方にいたもう一体のスライムへと向けた。
「さて、もう一体…」
キノコはあっさりと二体目も同じように片づけ、満足したように腕を組んでテディベアを上から見下ろした。
「さて、最後に、あたしの運動神経を抜群にしてくれるんだろう?さっさとやってくれ」
重々しくキノコが放つ威圧感を受けたテディベアは、おどおどしながら片足づつ後ずさりをした。とても小さい物に見えた。そしておどおどしく彼女の目を見上げた。
「あ、そのことなんだけど…」
「ん?なんだ?」
「…全部、嘘です……」
一瞬、間をおいてからテディベアは全てを白状し、この世の終わりを悟ったような表情…は作れないので、震え上がるような声で話した。
「嘘なんです…っ!運動神経なんて向上しないです…ただちょっと激しい運動すれば人間ってすぐ運動できるようになると思ったんです…がせなんだ、うん。ごめんなさい…」
「…は?」
「だ、騙すつもりなんてなかったんだっ!!でも、ほら、何言っても君は多分やってくれないだろうと思ったからしかたなく…」
「…言い訳かぁただのテディベアめぇぇっ!!」
「ああああごめんっ、ごめんってばぁ!」
騙されて魔法少女になってしまったキノコは、心のどこかで、こんな戦闘の日々が楽しいものだと誤解していた。
平和だったはずのこれからの毎日が、こんな形で壊されていくとは、木乃子も思ってはいなかった。
いつかの普通の女子高生が、一瞬で別ものになってしまったのだ。
お気づきの方も多いと思いますが、私の使っているユーザー名、「姫井七海」の「姫井」は、「姫井木乃子」ちゃんから拝借したものですw
今では正直気に入ってますw
誤字脱字等多いと思います。ごめんなさい…