ワレワレさん
「あ、ワレワレさんだ」
「ワレワレさん?」
転校してきて三日目、世話焼きのクラスメイトの友田英子がそう言った。英子の視線の先を追うと一人の少女がいた。
「大村さんと同じ日に隣のクラスに転校してきたコ。一人称が我々なのよ。中二病ってやつ。自分は宇宙人だって設定なんじゃない?」
「へえ、それはなかなか興味深い」
「ちょっと大村さんやめなよ」
私は友田英子の制止を振り切り、彼女に近づく。彼女はウチのクラスの椎名美園と話をしていたようだが、困惑したような顔をした椎名美園が逃げるように離れて行くと、追うでもなく辺りを見回す。そして近くにいた私と目が合った。先手必勝、こちらから声をかける。
「ねえ貴方、名前なんて言うの?」
すると彼女はこちらに正対し、深々とお辞儀をしてから、口を開いた。
「初めまして。我々はこの個体を相田睦月と呼んでいます」
「わお。本当に我々なのね。あたしは大村美奈。よろしく。ね、なんで我々なの?」
「この個体は皆の総意を伝えています。個人の意識と区別されていることを相手に伝える為に我々と称しています」
これはどうやら本物かもしれない。それでも私は努めて気軽に会話を続ける。
「会う人みんなに貴方達の総意を伝えているの?」
「我々は対象を識別する能力を有しておりませんので、この様な対話で対象を選別していかなくてはならないのです」
それにしたって、もう少し方法があるように思う。すぐに具体策は思いつかないけれど、少なくとも、もっと普通に話しかければ椎名美園も逃げなかっただろうに。
「喋り方が堅いなあ。もっと砕けた話し方で良いのに」
「ファーストコンタクトで相手に失礼があってはいけませんので」
私の指摘に表情も口調も崩さず相田睦月は言った。なるほど、確かにそうだ。初対面にはそういう配慮も必要か。
「わかりました。嘘と非礼を詫びます。申し訳ありません。我々はミーナ星から来ました。この個体はオーソンと呼ばれる個体で、我々の総意をあなた方に伝えるため派遣されました。我々はあなた方地球人と友好な関係を希望します」
地球の時間で百年ほど観察を続けて来た上で、初の地表任務だったが、どうやら観察をしていたのはあちらも同様だったのだろう。我々の擬態を見抜く程の技術レベルは有してないが、外交マナーの点で言えば、我々よりも誠実なようだ。
「我々は新しい友人を歓迎します。まずはお互い、この個体間で交友をはかろうと思います。改めてよろしくお願いしますオーソンさん」
相田睦月は右手を差し出して言った。
私はその手を握って応える。
「美奈と呼んで。まだ暫くは一般人には我々の事を知られない方が良いと思うの。私も睦月って呼んでも良いかしら」
「もちろんです」
握った手から相手の体温が伝わってくる。ずっとこうしたかった。
「ありがとう。私あなたに会えて嬉しいわ」
私がそう言うと睦月は笑ってこう言った。
「私もよ!ようこそ地球へ!」