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6.フットサル

秋も中盤を過ぎたというのに、次の日は異常なほど暑かった。




ぼんやりした頭を目覚めさせるべく、コップ一杯の水をごくごく飲む。昨晩あまり眠れなかったのは、そう、暑さのせいにしよう。決してドキドキしていたからではない。

高校生の時、一度だけ澤井祐樹がいたサッカー部の試合を見たことがある。

その時のことが思い出されて眠れなかった・・・わけでは決してない。はず。




フットサルの観戦に誘われた理由はよく分からない。でも、一応承諾したのだし、スポーツを観るのも好きなので、楽しもうと気持ちを切り替える。


差し入れは何にしよう?


今日のフットサルは9時開始で、昼前には終わり、皆でご飯を食べに行く予定なのだそう。ゆえに、ごはん類は不要。

迷った末、高校生時代にもよく作った、特製のはちみつ凍らせ梅干しに決め、昨日の内に準備しておいたのだ。

シンプルな空色のワンピースに、日焼け対策につばの広い帽子をかぶり、家を後にした。






会場に着くと、うちの会社と取引先の社員合わせて10人くらいが集まっていた。知らない人もいたけれど、プロジェクトチームのメンバーも多い。


私の姿を見つけた八木に、

「小野っち来たの!?めずらしー。」

とニヤニヤしながら声をかけられたけど、言い方が嫌だったのでスルーして先輩方に挨拶した。


アップしていた澤井祐樹もこっちに気が付いたので、「よっ」と手を上げてみる。

向こうも同じように手を上げるが、その表情は平常運転の真顔。満面の笑みで手を振ってほしいとまでは言わないから、もう少し感情を読み取れる顔をしてほしいです。


フィールド脇のベンチに腰を下ろし、おとなしく試合開始を待った。






序盤は互いに様子を見ているようだった試合も、あっという間に遠慮のないものへと変わっていく。

そして、ここでも澤井祐樹の実力は群を抜いているようだった。


シューズとボールが磁石でくっついているんじゃないだろうかってくらい、繊細かつ確実なボールさばき。

ここってチャンスには、マークしている敵を置いてけぼりにしてパスがくる場所まで駆けつける脚力とセンスの良さ。

フットサル歴2年の八木とだと、大人が子供の相手をしているみたいだ。



それに対して、フィールドを駆け回るヤツの顔は目をキラキラ輝かせていて少年のよう。

コレが好きで好きでしょうがないっていうのが伝わってきて・・・なぜだか胸がギュっと締め付けられた。




休憩時間で差し入れた梅干しで和んだのもつかの間、後半戦は向こうチーム6-うちの会社チーム1で始まった。

これだけ点差があると、もはや逆転の余地なしといった感じ。八木を見れば、暑さと疲れのせいか、足取りがフラフラしている。


大丈夫かな?

声をかけようとしたその時。



走り出した八木が、勢いもそのままに澤井祐樹を巻き込んで転倒した。

  


体格の大きい八木の下敷きになった澤井祐樹は、すぐさま元気に起き上がって平謝りする八木に、気にするなというふうに手を振り、立ち上がろうとする。


しかし、右足に体重をかけた瞬間に顔をしかめた。足をくじいたようだ。

他のメンバーに両脇を支えられて、ヤツはベンチへ戻ってきた。

ベンチに座ってもらって、腫れてきた足首に急いで保冷剤を当てる。梅干しを冷やすために沢山持って来ておいて良かった・・・。



大丈夫、続けて下さいと言うヤツに気遣いつつ、試合は再開されたものの、澤井祐樹不在の試合は盛り上がることもなく、そのままの点差で終わったのだった。






「澤井くん、ほんっとーにごめん!」

「いいよいいよ、明日も休みだし。今日明日家でゴロゴロしてたら治る。」

何度も謝る八木に、ヤツは安心させるように言う。


「でも問題はここからの帰りだな。その足で運転はやめといた方がいい。」

取引先の先輩、山地サンが言う。


「でも、澤井は送っていくとして、澤井の車は置いて帰るわけにもいかないでしょう。」

みんなそれぞれが自分の車で来ているのだ。


自分が怪我させてしまったのだから、澤井くんを送ってその後に自分の車をとりに来ます、と八木が言うのを、ヤツが遠慮して・・・というやり取りがしばらくの間続いた。



「あの・・・よかったら私、澤井くんの車運転して送っていきますよ?」

口をはさんでいいものか迷いながらそっと提案する私に、一斉に視線が集まる。


「えっ小野ちゃん運転出来るの!?」

牧サンがさもびっくりした顔で言う。なんでだ。


「出来ますよ。今日は電車で来ましたけど、週末はいつも運転してますし。特殊な外車とかでなければ大丈夫です。」

あっでも、

 「澤井くんが良ければ、ですけど。」


 皆が今度は澤井祐樹を見る。

 「じゃあ・・・お願いします。車は国産車のセダンだから大丈夫。」


 申し訳なさそうな様子で、ヤツは了承した。


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