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d.合奏

神様のいたずらっていうものは、こっちの都合なんてお構いなし。むしろ、やめてくれっていうときに限って起こるらしい。


音楽の時間に、私たちはリコーダーの課題に取り組んでいた。





実は私、楽譜が上手く読めない。母に5歳のころから強制的にピアノ教室に通わせられたものの、幼な心にもイヤだった記憶しかない。レッスン前日の夜に泣きながらピアノの前に座って練習させられた経験はトラウマで、9歳に引っ越したのを区切りに辞められた時にはホッとしたのをよく覚えている。

そんな者に上達など望めるはずもなく、結局満足に楽譜も読めないレベルのまま今に至る。


 まず、先生がお手本で吹いたメロディを聞いて覚えてから、音符を一つ一つチェックして指の置く場所を覚え、完璧に吹けるまで手に覚えさせる。といった作業を一人で黙々としていたら、先生が何気なく爆弾を放った。


 「ちなみにこの曲、合奏だから隣とペアになって練習してね。」


 私の隣はノリこと内田典子だけど、どうやら彼女は2列目なので反対隣りのコと組むことになるらしい・・・ってちょっと待て。となると私の反対隣りって・・・


 そろりと振り返ると澤井祐樹と三たび、目が合った。


 固まる私に、後ろから声がかかる。


 「隣りいないし、ここ入れてもらってもいい?」


 岸沙織の隣りの席はちょうど空きになっていてペアがいないので、私たちは3人で組むことになった。

 パートを決めるためにグッパーした結果、澤井祐樹と私が上のパート、サオリが下のパートを担当することになった。



 合わせる前に各自パートを練習しようと決め、私も黙々と運指を覚える作業に戻り、しばらくすると隣りから話しかけられた。


 「覚えた?」


 隣りを見ると、明らかに私に向かってかけられた言葉のようだ。

 ぎぎぎ、振り向く首から音がしそうなほどぎこちない動作の私。


 「ううん、まだ半分くらい。」


 すると少し、声を落として

 「実は楽譜読めなくて全然わからない。」


 ・・・なんとヤツは私と同類だった。


 「私が覚えたところまでで良かったら教えよか?」

 内心驚きと戸惑い、そして同病相憐れむ気持ちを抱きつつ、平静を装って言ってみる。


 すると、コクっと素直にうなずいた。



 一小節ずつゆっくり吹いて、指の置き方を見せながら一音ずつ確認する。あとは、一緒に通して吹いて指の運びをメロディと共に覚えてもらう。


 その作業を淡々と繰り返す私の態度は必要以上に事務的だったと思う。実際には緊張してたからなんだけど。

 澤井祐樹はそんな態度に気を悪くすることもなく、かといってふざけることもなく、真面目にパートを覚えていった。


 自分が出来ることを人に教えるのはとても気分の良いもの。

 

 自分でも自覚しないうちに、得意になってリコーダーの先生気分になっていた私は、それを見ている周りの目には気づいていなかった。


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