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3.連絡先

澤井祐樹の前でさらした高校生のときの恥。

大人になって、自ら恥の上塗りをするような行為をしてしまった。

人様のネクタイを引っ掴みカラオケで歌う取引先の女子社員・・・間違いなくヘンなヤツだと思われる。


ショックから立ち直るべく、中座してお手洗いへ行ったあと、隣の空き部屋でしばらく休憩していた。

カラオケ店のお客さんが入っていいない部屋は、照明が落とされて真っ暗闇の中、テレビ画面で流行りの曲のプロモがエンドレスに流れていて、妙に落ち着く。


何も考えられずにぼんやりとソファ席で座ってうちに、動揺が収まり、徐々に感情が凪いでいくのが感じられる。酔いもさめてきた。

反動とは恐ろしいもので、緊張に次ぐ驚き、高揚、恥ずかしさ、とジェットコースター並みのアップダウンを駆け抜けた私は、終いには人生を諦観するような心の境地にたどり着いた。



ぐったりとした疲労感に身を任せていると、

不意にドアが開いた。


廊下の電気が眩しくて、顔もよく見えないのに、すぐに誰だか分かった。




澤井祐樹は、ドアを開けて私の姿を認めると、部屋に入り、少し迷うようなそぶりを見せた後私の隣に腰かけた。


「休憩?」


「うん・・・」

親睦会で思いがけなく再会してから、初めて一対一で会話するんだと思うと、どういう態度で話せばいいのかもわからなくなる。敬語・・・じゃなくてタメ口でいいよね。


「・・・驚いた。」


さっきカラオケで歌った曲のことかと思った私は、妙に冷えた頭の中で納得していた。

そりゃ高校生の時の同級生がいきなりヘンな曲を歌い踊ったら驚くだろう。

高校生の時の私は、親しい友達以外の前ではシャイな性格から態度も控えめだったし、間違っても大勢の人の前であんなことするようなタイプじゃなかったので、そのギャップは大きいはず。

社会人になってから、そういった羞恥心は行動の妨げになると思うシチュエーションが多くなって捨てた・・・簡単に言うと、体育会系男性先輩社員の前では「NO」が許されなかったのだ。

なのに予期せず高校時代の甘酸っぱさの象徴ともいえる澤井祐樹に再会したために、恥じらう高校生の心が戻ってきて混乱してしまったのだ。

考えるほどに、偶然という名のたちの悪いいたずらに自分だけがあわあわと翻弄されているようで、面白くない気分になってきた。




「忘れて記憶から消してアナタハナニモミナカッタ」

ブツブツと呪いを呟くように口が勝手に動いていた。


すると、ヤツは目を瞠ったかと思うと・・・

「ぷっ」と吹きだして大笑いしていた。


「あははははは」なんて口を開けて笑っている澤井祐樹を見たことがなくて、ふてくされた気持ちも吹き飛んで呆然とする私に、


「いや、さっきの歌も驚いたけど。言いたかったのは、仕事先で会って驚いたってこと。」

未だ続く笑いを収めながら、教えてくれる。

「でも、さっきの歌は忘れられないと思う・・・それにしても6年経って全く同じ言葉を聞くとは思わなかったな・・・」

後半は独り言のようにボソボソ言ってたので、私には聞き取れなかった。


「・・・」

「・・・」


何を話したらいいのか分からなくて、しばらくの間沈黙が続く。

でも、そっと横を伺うと、ヤツは足を伸ばしリラックスした表情でテレビ画面の方に目を向けていた。


懐かしさが胸にこみ上げる。

そうだ、この感じ。

澤井祐樹といると、会話が途切れても居心地が悪くない。

知らず知らずのうちに、頬が緩む。



「そろそろ部屋戻る?」


「うん。」


「そうだ、連絡先おしえてくれる?」


「う、うんわかった。」


高校生の時には知ることのなかった電話番号にメアド。

社会人になったら、再会した当日に、いとも簡単に交換することとなった。


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