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10.澤井祐樹

週末の金曜日夜、仕事が終わってクタクタに疲れているのにも関わらず眠れない。

ソファの上で寝っ転がって、一人悶々と悩む男が一人。



俺はイライラしていた。

しずくともう2週間も会っていない。

電話には出てくれないし、会いたいとメールを送っても、「ごめんなさい今は会えません。本当にごめんなさい。」なんて拒絶されたらこっちも無理強い出来ない。


あの忌まわしい同窓会、ステージの脇でサオリを捕まえて問い詰めたら、「ごめん、私の友達が別れたことを知らずに投票しちゃったみたいで・・・」と言われた。

既に会場にしずくの姿は無く、しずくと仲の良い渡辺佐保に聞くと、「帰ったよ。」と冷ややかな目で教えてくれた。


しずくは二股をかけられていると誤解してるのだろうか。

確かにサオリとは付き合っていた。半ば懇願するような告白に押し切られ、お試しでいいならと付き合い始めたものの、社会人一年目の自分には、時間にも精神的にも余裕がなくて、結局すぐ駄目になった。

気持ちが通じ合って付き合い始めたしずくとは、比べるべくもない。




高校生の時クラスメイトだった小野雫は、部活仲間とつるんでいることが多く、初めは話す機会もほどんどなかった。むしろ、男嫌いなのかなと思うくらい、男子と関わることに消極的だった。

ひょんなきっかけで、そんな彼女の面白い一面を見たことで、興味が湧いた。よくよく注意して見ると、小野雫は見れば見るほど面白かった。


授業中に、顔が明らかににやけている。手元を見ると、立てられた教科書の内側に文庫本を開けていて、それを読んでいることが分かる。でも、傍から見ると完全に怪しい。

渡り廊下に飾られている創立者の肖像画の前を行ったり来たりしているので、何をしているのかと思えば、肖像画はどこから見ても目が合うようになっているらしい・・・というのを興奮気味に友達に報告していた。


そして、彼女がかなりのお人好しであることは、音楽の授業を通して分かった。自分の練習そっちのけで、丁寧に教えてくれたのだ・・・ある日突然話してくれなくなるまでは。

何か気に障ることでもしてしまったのだろうか?

リコーダーの合奏で迷惑をかけすぎて嫌気がさしたのだろうか。

最近では、笑いながらしゃべってくれるようになったのに。

・・・柄にも無く落ち込んだ。

でも、嫌われたと思いながらもこっちから話しかけてみた時、困りながらも本当に申し訳ないという表情をしていて、嫌いなヤツにも気使っている点でもやっぱりお人好しなのかなと思った。


そしてそのまま、小野雫のことは、高校時代の小さなしこりとして心の隅に置かれ、忘れた。

と、思っていた。



再会した時、初めは彼女の外見の変化に驚いた。高校生のころは、化粧っ気もなく、ジャージで授業を受けるような女の子だったが、社会人になった彼女はナチュラルではあるがしっかりと化粧をし、髪は黒いままで長さも変わらないがゆるくパーマがかけられていて、服装もベーシックでありながら気をつかっているのが分かる。とても上品な大人の女性になっていた。


そして、大人になった小野雫は、高校の頃よりも堂々としていて、快活になっていた。

でも、本質はやっぱり彼女のままで。一つまた一つとパーツがはまっていくように、記憶にある高校生の彼女と現在がつながっていった。

そして時が止まったまま置きっぱなしにしていた気持ちが、突然血が通ったかのように動きだして、もっと知りたいもっと近づきたいと彼女に対する気持ちがどんどん溢れ出してきた。


お人好しで、責任感が強くて、自分のことより優先して人に気をつかう。そのくせ、ときどき突拍子もないことをやらかす。

気持ちがそのまま顔に出る彼女は、楽しいときやリラックスしているときなんか、見ているこっちまで気分が良くなるくらいイイ顔をする。

家でうたた寝から起きたときの彼女は、まどろんでる猫のようで、可愛くて思わずキスしてしまった。それがきっかけで自分の気持ちを伝えられて、彼女の気持ちも聞けたので結果オーライではあるのだけど・・・。


俺といるときはぎこちない顔をすることも多いので、嫌われているのかと思ったこともあったが、どうやら逆で、緊張しているらしい。

それはそれでうれしいが、出来ることなら、彼女にとって居心地の良い場所でありたいと思う。彼女を楽しませ、その笑顔を一番近くで見ていたい。



しかし、しずくという存在は、掴もうとするといつも指の間からすり抜けていく


高校の時は、これから仲良くなろうという矢先に避けられ、そのことに打撃をうけ、そのまま交流が途絶えてしまった。

今は、気持ちが通じたと思った矢先にまた避けられている。


でも、今回はこのまま終わらせる気はない。

俺はまだしずくの口から何も聞いていないんだ。

逃げるなら追いかける、待てというならいくらでも待ってやる。

6年越しの恋は、簡単に諦められるものではないのだから。


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