当選
私はしがないサラリーマン
宝くじやおみくじ、コンビニの福引きまで
全く何も当たった事がない
去年妻の律子を末期ガンで亡くし
娘と二人暮らしである
私は会社ではぶられているため
昼ごはんは屋上で一人で食べる
その日会社に出勤し、いつも通り弁当の蓋をあけようとすると
人がいることに気づいた
どうやら飛び降り自殺をしようとしているようだった
そして私はなんとか説得しそれを食い止めたのだ
その日私は不思議な夢を見た
福引券を拾い目の前の白いテントのしたで行われる
福引きを引くと何と二等賞が当たったのだ
当選おめでとうございますの声と共に
私は夢の中で体感券を三枚もらった
どうせこれも現実まで持ち出せないのだと思っていると
私に券を渡した人は「夢なのですから夢を持ってください」
と不思議な事を言ったのだ
次の日会社へ行き昼の時間になると
屋上へ昨日自殺しかけた男がやってきて
ぶしつけに封筒をよこしたかと思うと昨日の礼を言ってそそくさと立ち去った
中を確認すると1万円の商品券が10枚も入っていた、正夢とはこのことか
年頃の一人娘に私のようなシングルファザーでありしがないサラリーマンがしてやれる事は少ない
私はそれを娘の部屋のドアに貼り付け”お小遣い”と付箋をした
その日もまた昨日の夢の続きを見たのだ
体感券三枚を何に使いましょうか?
福引会場の店員らしき男に声をかけられるところからだった
うーん
使い道と言われてもこれはどういったものなのか?
男の話によるとこの世の中のありとあらゆる人間や動物または物や概念など
なんでも現実的に体感することが出来る券という事だった
私はお金持ちや油田王など真っ先に頭に浮かんだが
まずは手始めに昔飼っていた犬を体感してみることにした
それを注文すると私は気づくと犬になっていたのだった
ワンワンワン
少し歩き回って匂いを嗅ぐ
腹が減るとまた吠えて歩き回る
背中をブラッシングされてその人の顔をみる
なんと、今は亡き妻の律子ではないか
私は感動と心地よさのあまりクーンと鳴いた
しかしそんな環境をしばらく過ごすと流石に退屈になり
私は元の世界に戻りたいと願った
すると私はまたテントの前に居た
どうでしたか?
と聞かれたが私は更にこう続けた
「向こうで何年も過ごしたというのにこちらでは数時間なのか
娘の事も心配だから目を覚ましたいのだが」
そういうと私はベッドで目が覚めた
これは便利なものを手に入れた
それからも何度かその夢は見たが使い道を決められぬまま
少しの間が経ったがその夢のしつこさに負け
ある日の夢で私は次の行き先を律子に決めた
娘や私の世話をしながらもそれぞれが学校や会社に行くと
犬のジョニーの世話に明け暮れ炊事洗濯を終える頃には
またそれぞれが帰ってくる忙しい生活だった
気付くと体はガンに蝕まれ見つかった頃には末期となり手遅れだった
また私は目を覚ますと夢のまた夢を思い返し
律子の写真に手をあわせシクシクと泣くのだった
それらの二枚の体験を娘に話すと半信半疑どころか
全く信用してもらえなかったがそこでの娘とのやりとり
つまり私は知らないはずの事をいうと娘はすぐに納得し話を信用したのだった
それから得られる結果に私もまたただの夢ではなかったのだと確信した
娘は最後の一枚を自分のために使うべきだと言う
私はどう使う事が自分のためになるのか、しばらく考えたあと
娘とも元いた家族とも離れずに暮らす事が出来る
過去の自分をもう一度体験しようと決め
三枚目を使いまた夢の夢を見るべく布団へ潜り込むのだった
わたしが望むものは金でも快楽でもなく
二度と戻らない過去の時間だったのである
おしまい
この話はもともと長編でしたが
色々と削り短編になりました