“待合 rendezvous„
2015/4/25(土)改稿。
目覚まし時計のアラーム音が遠くのほうから自分の耳元まで響いて聞こえてくる。それに気づいた俺はハッと体を起こしてみると、実際には近くに目覚まし時計があったので片手で時計のアラームをとめた。
「ふぁあああ……、ねみぃな……」
昨日とは違い、自分の力でいつもより早く起きたの理由がある。それは単純に錦織さんと遊園地に行くという約束があるからだ。少しベットの上でボーッとしていた俺は、こうしちゃいられないと早々と身支度を始める。
まず、立ち上がってクローゼットを開けた。中には一つ一つハンガーにかけられ綺麗に整頓されている洋服たちの姿が見える。これは全て俺がやった訳なんだが……、改めてまじまじと見てみると俺は洋服をあまり持っておらず、色も寒色系統に偏っている。
いきなり洒落た服を探そうにも見当たりそうにはなかった。
その為、俺はいつもの洋服でも良いやと開き直り、少し年季の入った黒いジーンズに白いTシャツ。そこに藍色のパーカーを合わせて、どこで買ったのかも忘れてしまった骸骨を主としたデザインのネックレスを首にかけた。これが今できる最大限だろう。
他には時代遅れのガラケーに下してきたお金が入っている使い古しの財布、昨日購入した清涼菓子のフリースクをポケットへと突っ込み、待ち合わせより一時間早く家を出た。
そうして待ち合わせのファーズランドの最寄りの駅に着いたのは家を出て三十分程度経ってのことだった。まだ時間があることもあり、時代遅れの遅い読み込みを我慢しながら脱出不可能についての情報を舐めるように見て、時間を潰す。
暇を持て余し、やっと待ち合わせの時間となる。
だが俺が待つ、彼女の姿は未だに見えない。待ち続けているともう時間は二十分過ぎていた。普通の人ならば十五分程度で家へと引き返してしまう頃合いだろうが……。俺はもう今日は来ないのかなと思い始めたその時、彼女の姿が目に見えた。
「……ごめんっ!!」
走ってきたのだろう。錦織さんは汗をかいて、
息を切らしながら謝ってくる。
「……ごめんなさいっ。折角の日だっていうのに……、
家を出るのに手間取っちゃって……。本当にごめんっ!」
それに対し俺は錦織さんを慰めるような口調で
「大丈夫だよ、錦織さん。俺、全然待ってないからさ。お家柄で家を出て来るのも大変だったろうに……、来てくれただけでも嬉しいよ? あと、折角お洒落してきたのにもう汗だくじゃ、台無しだよ?」
と言い、錦織さんの肩をそっと叩いた。錦織さんはいつもの和風なイメージとは違い、グレーの生地に黒いラインの入ったホットパンツの上に白い無地のニットを着て、頭にはベレー帽を。スラッとした足には黒タイツを着ていて、荷物は綺麗に手に持つポーチに収まっていた。
俺が少し見ていると、それを怒っているのかと勘違いして彼女が怒ってないかと聞いてきた。それに俺は迷わずに怒ってないよ、と優しく返すと彼女は少し照れながら
「ありがとう、……ありがとう」とうつむきながら呪文のように唱えていた。そんな様子を放っておくわけにもいかず、俺は黙って錦織さんの手を取り、ファーズランドの入場口へと足を踏み入れた。