“約束 appointment„
2015/4/11(水)改稿。
錦織さんと本屋で長々と立ち話をするのは一般的によろしくないと、迷惑だなと思った俺は「ちょっとあそこで話そう?」と声を掛け、本屋から少し歩くとある、あまり高さのない滑り台が両端にありその滑り台を雲梯で繋いだ遊具がポツンとあるだけのシンプルイズベストな公園で錦織さんの話の続きを聞いた。
「でさ、さっきの話だけど……。あれでしょ? 睦月くん、実は心の中で一人で遊園地に行くというのもどうかなと思ってるんじゃないのかな……?」
その問いが図星である俺はただ頷いた。それを見た錦織さんは一瞬嬉しそうな笑みを浮かべた後、話を続けた。
「じゃあさ、睦月くん。他に遊園地に行ってくれる様な人に心当たりが無いならさ……、ここに居るじゃん。行ってくれそうな人。ね?」
錦織さんはそう言ったかと思うと自分の存在を強調するかのように背伸びをしてこちらを綺麗な瞳で見つめてくる。それもまるで遊園地に行きたいと視線で訴えながら。
全く……、どうしたものかと暫く思考が停止する。
「…またボーッとして。今日の睦月くんどこか様子がおかしいよ?」
「あ、あぁ……そうだな」
「だからさ、わたしも行きたいって言ってるじゃん。だから………連れてってよ? ……ね? 良いでしょ?」
頬を膨らまして少しふてくされたような表情で、俺に顔を近づけてそう言った。
全く…敵わないな……。俺は停止した思考を再回転させ、状況とスケジュールを脳内で整理する。そして彼女を誘う。
「分かった、行こう。今日は金曜日だから…、明後日の日曜日の十一時にファーズランドの最寄りの駅前で良いかな?」
その誘いに対して彼女の返事はもちろんOKで、更に表情を明るくして、
「……良いの!? ほ、本当に良いの? や、やったぁ…!
じゃあわたしね、楽しみにしてるね!」
とまるで無邪気な子供のようにはしゃいでいた。やれやれ……。
その後、だいぶ錦織さんと二人で話し込んでいると気づけばもう日が落ち始めていて、錦織さんが門限があるとかなんとかで。今日は別れを告げて、じゃあまた日曜日な?と挨拶を交わした。
俺は家に帰るなり、玄関からすぐにある階段を駆け上り自室に入って鍵を閉めた。そして直ちにパソコンの電源を入れる。その間に背負っていた荷物を片付けているとパソコンが完全に立ち上がったのを確認し、俺はデスクチェアに座って背もたれに体重を預けつつ、「脱出不可能 掲示板」と検索をかける。
するとブラウザの一番上に出てきたのはファーズランドのリアル型脱出ゲームである脱出不可能に挑んだ人達の体験レポートやクチコミ、そんなことを主題にしている大型掲示板のスレッドがそこにはあった。俺は迷わずダブルクリックをしてページを開いた。
「1:脱出ゲーム好きの名無し id:hduwah12
脱出不可能やって来たけどさ…皆さんはどうだった?」
「2:脱出ゲーム好きの名無し id:65fefe
無理ゲーだったよ」
「3:脱出ゲーム好きの名無し id:89dewd
3回挑んだけどもマジわからんし脱出出来んかった。もうオカネナイヨ」
「4:脱出ゲーム好きの名無し id:fewhf4
まさに脱出不可能wwwwwwwww」
「5:脱出ゲーム好きの名無し id:48ed4f
俺氏8回挑んだ件」
「6:脱出ゲーム好きの名無し id:deugwbf
オマエ金ありすぎだろ…」
「7:脱出ゲーム好きの名無し id:9514fde
その金俺にくれ」
「8:脱出ゲーム好きの名無し id:dwqdwdw
てか受付のおねーさん可愛かった」
「9:脱出ゲーム好きの名無し id:45ewfew
それな…」
「10:脱出ゲーム好きの名無し id:465ddkk
真面目にこの脱出ゲームはクリアできないよ」
「11:脱出ゲーム好きの名無し id:765suk
キレイなオネーサンキタ━(゜∀゜)━!」
「12:脱出ゲーム好きの名無し id:4fhewuh
元々クリアできない様に作られているのを疑うレベル」
などと数多くの匿名の書き込みがあった。元々クリア出来ないように作りこまれているのを疑うレベルの無理ゲー。つまりそれは初めから詰んでいる状態な訳であって。まさに脱出不可能である訳だ。
「早く……、早くやりたい」
思わず口にしたが、そんな気持ちはそっと今は胸にしまい、
今日は早めに布団に入った。