“接触 first contact„
2016/2/8(月)改稿。
大きな迷路の様な屋敷を彷徨いながらも客間になんとか辿り着いた俺は客間の襖を開ける。そこにはまだ誰も見当たらなかったが綺麗に掃除、装飾されており天井に描かれた絵がどこかの文化財で見たことある様な輝きを持っていた。そして恐る恐る水篶達が座るであろう下座のあたりに座る。
部屋を見渡して数分が経つと玄関の開く音がした。そして玄関と客間の距離が近いため例の人物はすぐに現れる。そう、長門嘉月だ。そして彼の後ろには水篶の父親が見受けられ、お見合いが始まろうとしていたのだが・・・・。
「水篶さんの両親のあなた方には大変申し訳ないのだが、私はお見合いに来た訳では無いのです。この度は、水篶さんやそこに居る神代睦月くんにご迷惑をかけたので謝罪しに来たんだ。なので、悪いがこの場から立ち去ってくれないだろうか……?」
と鋭い一言を言い放ったのは来たばかりの長門嘉月だった。
あまりにもいきなり過ぎる出来事に水篶の父親は驚愕と怒りを浮かべ「なにかねそれは……ッ! 非常識というのにも訳があるだろうッ」と
告げたがそれを抑え込むかの様に母親が父親を連れてこの場を後にした。
この様子を伺うと水篶の母親はこうなることを予想出来ていたのかも知れない。
「さて、君たちにこうして会うのは初めてだったな。水篶さんに睦月くん」
「そ、そうです…」
「……あぁ」
「いきなり来たというのに突然、水篶さんのご両親を追い出して大変申し訳ない。だが私がここまでして君たちに接触を図ったのはもう、分かっているだろう? 睦月くんよ?」
「あぁ…見当は付いているさ。恐らくだが…まず俺達を事件に巻き込んだ謝罪。そして警告をしに来たんだろう? まぁ、もっとも今回起きた事件の犯人はお前の部下だったみたいだし……。勝手に事件が起きたとしても、お前は俺達を巻き込むのも狙いの一つだったんじゃないか?」
「ハハハッ、面白い。だが悪い冗談はよしてくれ、だが九十パーセントは合っていると言えよう。残りの十パーセントは君たちで考えると良い。
まずは君たちに謝罪をしなくてはいけない。この度、君たちをこの様な残酷で卑劣な殺人事件に巻き込んでしまったのは心から申し訳ないと思っている…すまなかった。希望があれば賠償金を幾らでも払う用意はある」
「バカな事を言うな、俺達高校生が大金なんて必要ないさ」
「そうか…。ならば話を続けよう。次に警告だ。今後、私の会社から今回の様な裏切者……。つまりは君たちを狙う様な輩が現れるかもしれない。
詳しく話す事は今できないのだがこれを指示しているのは私の会社、α(アルファー)の筆頭株主にしてグループ会長だと考えている。気を付けてくれ……としか今の私には言えない」
「おい、お前のとこのグループ会長が俺達を狙って来るっていうのはどういうことだ?」
俺にとってはあまり意味が分からなかった。水篶も理解しきれていなかったようで「そ、そうだよぉ」と同情してくる。
「そうだな……。正確には君たちの才能を狙っていると言った方が良いのかも知れない」
「そのお前たちが言っている、才能とやらはなんなんだ?」
「すまないが私からは言う事は出来ない。だがヒントなら伝えることが出来る」
「それで、十分だ」
「そうか、ならば話そう。その才能と言うのはな………睦月の名にあるように月の名を持つ者に与えられる様だ。私から伝えられるのはこれだけだ」
俺はこの話と自分の持つ情報を頭の中でリンクさせていく。
月の名を持つ者……か。
実際、思い当たる奴が何人かは居るな。そして俺は長門に言う。
「……そうか。まぁそれで今は十分だ。問題ないさ」
「そうか、さすがは睦月くんだな。さて伝える事も終えた。私は失礼しようとするかな。……私も色々と忙しいのでね、睦月くんやその仲間たちには今後、期待している。……では、な」
そう言い、長門は立ち去った。少し経つと遠くの方から車の音がする。
迎えの車だろうか、流石は社長だなと実感する。
俺はこの後、水篶の家で夕食を頂いた後に帰宅した。帰り際に水篶が声を掛けてきた。
「あ、あのさ。睦月くん今日日曜日だけどさ、他の高校へと編入を決めた人は二日間休みなんだけど……明日暇だったり、する?」
それは唐突の事だったのだが生憎俺には予定は入っていない。
「あぁ、暇だよ……。じゃあ明日どっか行くか?」
思いつきではあったが水篶の表情がパァツと明るくなり、
元気な「うんっ」が返ってきた。
俺は家に着いたらメールすると伝え、今日は別れる。




