“砂漠からの脱出Ⅳ Escape from the desertⅣ„
「そんな事があっていいのかよ……」
俺は後ずさりしながら自分をのことをぶん殴ってきた奴を見やる。そいつは体の周囲に砂漠の砂を纏っていて、あたかも自在に操っているように見える。
「へぇ、それがアンタの能力か? 研究開発局の皆さんもだいぶ研究しているみたいだな、その”造られた力”をよ」
拳についた血を払いながら、少年ほどの背丈の男は微笑みながらつぶやく。
「相変わらずのその挑発的な態度は変えないんだね。……まぁ、良いよ。君はすぐにその態度を改めることになるからね」
「どういう意味だ?」
「そんなもの、簡単さ。君の思うその”造られた力”はもう君の記憶の範疇をとうに凌駕しているということさ」
そう言うとまた、姿を消した。
「姿を消すことしか能がないのか? 闇討ちが得意な能力ということか?」
「いくら問いかけたって無駄だよ……ここの土地はもう”僕のフィールド”だからね」
「んなッ……!?」
自分の足が地面にじわりじわりと飲み込まれていく。
「察しの良い君ならば、もう分かっているだろうが僕は砂だ、砂を操る力を研究開発局から得た。ここは砂漠だ、足を踏み入れている時点で君に勝ち目はないよ」
少しずつ、少しずつと地面に飲み込まれていく。抵抗しようにも足が動かない。
「どーだい、少しは態度を改める気になったかい?」
「ははっ、あんまし馬鹿にするなよ。足を飲み込んで動きを封じたくらいで俺は終わらない。僕は砂……だったっけな?」
俺はそう言うと紫月さんの力を借り受けて、突風を巻き起こす。
「砂ごときで勝っている気になってるのはお前のほうだな」
「いや、そんな簡単に勝ってる気にはなっていないさ。あくまで君を試しているのさ」
「試すって……、なんでお前だってそんな上から目線なんだよ」
「その理由は簡単なことだよ、僕にはね”実体”がないからね」
「実体がない、だと?」
「ああ、そうさ。名乗り遅れたね、僕は砂月。これが研究開発局から貰った名前だよ」
「そういうことか、今、俺が対峙しているのは人ではなくこの広大な砂漠にある”砂”ということかよ」
「無論、そうなるよ? だから君が僕に勝つことは不可能だ」
どこからともなく聞こえてくるその声と会話する。いや、待てよ……奴が自分は砂だって言うならばなぜこうやって会話ができている? どこかで砂を遠隔操作しているのか? いいや、そんな単純なものじゃないだろう。ではなぜ? 俺は頭が暑さでどうにかなりそうな中、フル回転して攻略法を模索する。