“女の子らしさ womanliness„
2016/2/7(日)
水篶の家に着き、中へとお邪魔すると水篶が口を開いた。
「今、お母さんとお父さんが客間で準備してて忙しいから……わたしの部屋行こ?」
準備というのは恐らく、当日にやるのだから装飾の類だと考えられるな。
「あぁ。分かった、そうしよう」
水篶の後に黙って付いて行く。屋敷は外から見てとても大きかったのだが、
いざ中に入ってみると更に大きく感じられる。
迷路の様な通路を通っていると階段に差し掛かる。
「この上がわたしの部屋だよ?」
水篶がそう言う通り、階段を登り切るとそこにはドアがあって、俺が先に開けての良いのかとボーッとしていると水篶が「ど。どうぞ……」とそっと開けてくれた。
入った部屋はこの屋敷の純和風な雰囲気と相対して洋風な造りになっている。
床は畳ではなくフローリングで、布団ではなくベッド。そのベッドの上には少し大きめの熊のぬいぐるみが可愛く置かれていたりと一言で言うならば、女の子らしい部屋だった。
俺はフローリングの上に敷かれた赤と白のモノクロ柄の絨毯の上に座ると
水篶も俺の正面へと座った。
「んーと……どうしようか水篶。やる事、無いね」
いざ、こうしてみると二人でやる事なんて見当たらなかった。
「そうだねぇ……。何かないかなぁ……うーん」
この後、暫く沈黙が続いたのだがその沈黙を終わらせたのは水篶だった。
「……そうだっ。ねぇ、睦月くん。今日来る人、長門嘉月さんって一体どんな人なのかな」
お見合い……だから相手が気になっているのだろうか。
「水篶、お前さぁ……長門嘉月の事……」
「バッ………カ、そんな訳ないじゃんっ……だってわたしには……
その………いるもん」
ボソボソと呟く水篶が気になった俺は「私には……?」と問いかける。
「な、なんでもない……よ? ただ単に長門嘉月さんは何が目的なのかなって」
どうやらその事について水篶も気になっていた様だ。
「あぁ……そういう事か。多分、長門は自分の会社から殺人を計画した犯人が出てしまった……裏切者が出てしまい、その時の中心的な標的が俺だったからわざわざ水篶の家にコンタクトを取ってまで、何かを伝えに来るんだと俺は踏んでるけど」
これを聞いた水篶は驚いた表情で
「ふーん……。それが目的なら色々と楽なんだけどねぇ。でも睦月くんは何でそんな事がササッと分かるんだろうなぁ。……ファーズランドも弓張月学園の時もいつも……いつもカッコいいなぁ……」
だがそれを聞いて俺は否定しようとする。
「そ、そんな事は無いよ。俺はただ、皆を助けようとしただけで……」
「だから、それがカッコいいなぁって言ってるんだよ? でもさ、睦月くん。無茶は絶対にしちゃ、ダメだよ……?」
カッコいい……か。そんなつもりは決してないのだが……だって。
「俺はカッコ良くなんか決してない。俺の前で死んでしまった奴が居る。これは俺が助けられなかったんだ、俺が何も出来なかったんだ。だから俺はカッコ良くなんかない。むしろ俺は弱い。だが……その分、今後の人生に生かそうと思う。くじけてはいられないんだ。死んでしまった者達の意思を継いでな」
それに対して水篶はうんうんとただただ頷いていた。そして水篶は時計を見ると表情が変わる。
「あっ! もうこんな時間……。わたし、もうそろそろ下に行くね。長門さんを迎えに行くから睦月くんは下の客間に居てね? じゃあ行ってくる、睦月くん」
そう告げられると水篶は風の様に部屋から退室した。俺もそれを追う様な形で客間へと向かう。




