“砂漠からの脱出Ⅲ Escape from the desertⅢ„
しばらく歩いた後、俺はようやく何もない砂漠から人工物の姿も見える集落へとたどり着く。時間にして三日いかないくらい経っただろうか。ようやく一息つけると大きくため息をついた。まずはこの集落を見回ってみることにする。
集落としての規模は大きい方なのか、少しばかり大きな建物も転々と作られていており生活感が垣間見える。だが建物と建物を行き来する人々などの姿は見ることができず、人気があまりにも少ない。井戸も作られているが底の方はカラカラに乾きあがっていて水はどこにも見当たらない。水のことを考えた矢先、そういえば喉がこの井戸のようにカラカラに乾いていたことをふと、思い出し俺は喉を抑える。気づいた時には視界がボーっとしており足を地面については、このままではまずいと灼熱の太陽の中で背中が凍り付く。
「……やっべぇ、な。このままぶっ倒れそうだ」
乾ききった声でそう呟く。サバイバルじゃ、きっと精神が崩れた時すべてが崩壊していくだろうと考えた。積み重ねて歩いてきた距離や今の今まで蓄積してきた苦労が無駄になってしまうことは避けたい。そのために意識はしっかり保つため、俺は頬を自分で引っぱたいては気を引き締める。そして地面についた重い足を立て直して、また少しばかり探索をする。奥のほうに一つだけ二階建ての建物が存在していることが気になっていたのだ。
そして重い足取りで二階建ての建物に入ると、ここだけ明らかについ最近まで“誰か”が生活していたような実感がある。火が消え切っていない薪に、水をためていたような大きな瓶。そしてどこかと通信するために置かれているような大型の電子機器、発電機。
一番気になるのは薪の横に添えられている沢山の骨たち。形からして明らかに人間の頭蓋骨も見受けられ、動物の骨というより人骨の山が出来上がっている。……俺は嫌な予感がした。
「はー、見ちゃったか。いやぁ、でもまぁベストなタイミングだよね」
背後の入り口からそう声が聞こえ、俺は思わず振り向くのだがそこにはその人物の姿は見当たらない。
「こんな砂漠のど真ん中を通過してまで仲間のことを思ってるとは、君、良いやつ過ぎないかな?」
今度はこの建物の二階から声が聞こえる。
「へー、なかなかの反応速度みたいだね。話に聞いた通りだ」
…今度の声は自分のすぐ背後に。
「お前は何者だ? 自然に透過する能力でもお持ちか?」
「透過……、こんな体感時間数秒で惜しいところまで気づくとはやるねぇ。でもそれじゃあその人骨の山はどうやって説明をつけるつもりだい?」
確かにこいつの言う通りだ。ただ透過するだけじゃこの人骨……、恐らくこの集落の人々全員を骨と化した理由が説明できない。そして異常なまでの場所と場所の異常な速さの移動時間も。
「へー、長考かい? そんな時間君に残されているのかな?」
その声と同時に、入り口から凄まじい突風と砂塵が襲ってくる。俺は建物の壁に打ち付けられて吹き飛ばされる。
「まったくー。本当に君が神代睦月くん、オリジナルかい? 弱っちいなー。」
ぶっ倒れている俺の前にターバンを巻いた少年ぐらいの背丈の男が突如として現れる。どこからか出てきたのかが全く予想がつかない。
「お前、機関の人間か?」
「んー、おまけして及第点かな。自分はフリーランスで仕事もらっただけだよ、その機関とやらに」
「フリーランス、か。ははっ、こりゃあ参ったわ……」
「笑ってる余裕あるの? 何か面白いのかな?」
「いいや。面白いわけじゃあないよ、どんなに苦しい時だって笑って精神保たなきゃ勝てない戦いに勝つことなんか……不可能を可能にすることなんかできねえってことだよ」
「ほうほう、じゃあその笑顔はここで終わらせなきゃね」
「……やってみなよ」
俺はわざとそうやって挑発をする。相手の能力がわからないために、それを知る手段を作る目的なのだが……。
「そうかー。まぁ残念だけど、君の挑発に乗るまででもないかな。やっぱり自分の能力が強いと思い込んでる奴は僕の相手にはならないよ」
「ったく、挑発に挑発で返してくるか……」
ターバンの男に向け、態勢を変えては地面を蹴りつけていきなり体当たりをかます。その瞬間に顔に巻かれたターバンに手をかけて素顔を露にさせる。
「……ッ!?」
「うっし、これで一本取ったな……」
「ははっ、面白いことするなぁまったく。でもターバン、取ったくらいで何も解決しないよ?」
ターバンをはがして見えた素顔は、虚無。何もそこには存在していないのになぜか声が聞こえてくる。
「お前は亡霊か何かか?」
「いいや、僕だってれっきとした人間だよ。ただ人形遊びをしていただけ」
「……人形?」
「あぁ、そいつはただの砂人形。僕はここだよ」
振り向いた瞬間、そいつの拳が俺の顔面のど真ん中へぶつかってまた同じように吹き飛ばされた。




