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脱出不可能  作者: 風雷寺悠真
第17章戦友救出篇
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“砂漠からの脱出 Escape from the desert„

 結局あれから起こされることなく時間が経過し、気づけばヘリの駆動音も鳴り止んでいた。そして身を包んでいた熱風は無くなって、代わりに地表からの反射熱が身に襲う。

「おーい、睦月? 一応送れるのはここまでだから、降りた降りたっ」

 文月はそう言うと俺をヘリから無理やり下ろそうとする。俺も暑い所に出たくないと自然と抵抗するがそれもむなしく、熱気で輝くそのオレンジ色の砂地に足を踏み入れる。じわじわと自重で地面に足が押し込まれていくのが分かる。

「はい、あとこれな。通信機器と最低限の水、ファイアスターターも」

 文月も続いてヘリから降り、荷物を投げやってくるので迷わずそれを受け止める。

「水は……二リットルか……、んで俺このファイアスターターだか使ったことないぞ」

「あー、簡単に言えば火打石だよ。棒状の方を付属のヘラで削ってみ?」

 文月から差し出されたファイアスターターなるものはコンパクトな手のひらに収まるサイズの金属の棒とヘラで、言われた通り棒の方にヘラをすり合わせるてみると見事に火花が起きる。

「この火花で着火しろってことだな? ……火種を作って」

「そそ、なんだ睦月分かってんじゃん。まあ後は実践あるのみだな、あとその渡した通信機器だが……使うなよ?」

「渡したのに使うなって……矛盾してらっしゃるんだが?」

「まぁそこそこの大きさがあるから察してると思うが遠方とのやりとりが出来るんだ。つまりそんな電波とか発してたら研究開発局の奴らに位置情報特定されちまう。使うのは緊急時と砂漠脱出して、目的地に到達してからだ」

「あー、そういうことね……。分かった」

「てなわけで、令月っちゃんももう暑さでへばってるから俺達は引き上げるよ。斬月のこと……頼むぜ? お前なら出来るって分かってるから変に心配はしないぞ俺は?」

「まぁ、なるようになるとしか俺も思っちゃねーよ……。あと文月、引き上げる前にコクピットに掛かってるあのタオルもよこせ」

 俺はそう言うと文月が持ってきていたフェイスタオルを要求する。

「あぁ、良いけどまぁ……なんでだ?」

「なんでって、この五十度近い環境下で頭を出したままなのは自殺行為だろう? あとお前用の水で濡らしといてくれ」

「あーはいはいなるほどなぁ。なんだ睦月、もうこの環境に順応し始めてんのか」

「そりゃ生きて脱出して、斬月に会わなくちゃいけないからな」

「はいよ、タオル。んじゃぁま、頼むわ……俺らは一回しませんかせんせーのとこ戻るからよせいぜいこの脱出ゲームも楽しみな?」

「ははっ、楽しむかぁ。この地獄の様な環境に耐えて生き残ることだけで精一杯かもなぁ……お前ら二人も無事で帰れよ?」

 苦しい環境でも楽しむことを忘れない。これは確かに不可能な環境を変えていく上で重要な要素だろう、楽しむことで諦める事もないだろうから。そして熱中症になりかけている令月を見かねて文月は早々とヘリで引き返していった。


 灼熱の太陽、何も見当たらないその砂漠には煌々と蜃気楼が垣間見える。頭を濡れタオルで覆い、通信機器と水筒を背負って俺は一歩ずつ足を進めていく。方角をあらかじめ文月には聞いていたため直進を心がけるが途中に食せるものや使えるものがあれば積極的に手に入れていかねばいけない。そして砂漠を抜けるには蜃気楼とも戦わなくてはいけない。砂漠で危険な時は水分がなくなった時だろう、その時、蜃気楼は目の敵になる。緑地やオアシスが遠目に見えてもそれが本物とは限らないからだ。そして見つけたからと言って早急に向かってしまえば方角も失う。ここから脱出するには自然に順応し、自然のルールに乗っ取って生き抜く事が重要だろう。

 数十メートル進んだだけで喉の渇きも襲ってくる。これを大丈夫だからと言って我慢をすると熱中症になり歩みを止める事になるので俺は迷わず渡された水筒に口を付ける。水を飲むときにもがぶ飲みするんじゃなくて、口にゆっくり含んで飲み込む。そうすることで喉の渇きが来るペースも遅くできることが分かった。

「暑い……、今戦っている敵さ……強すぎるぜ……」

 俺が戦っている相手は自然そのものだ。油断を一つだけでもした時、その油断がカギとなりボロボロと気力は崩れていくだろう。そして何より心苦しいのがこの広い大地にただ一人と言う、孤独感。可能な限り早いスピードで砂漠を抜け出すことが先決だ。


◇◇◇


 数十キロメートルは歩いただろうか、地表にはゴロゴロと岩が転がり始め、点々と木が生えているのが確認できる。日は真上から落ちかけており、そろそろ歩みを止めてキャンプの時間だろうか……。

「あぁ……水も、これで最後か……」

 二リットルの水筒ももうからっけつで日が落ちるまでには水分・食料・シェルターを確保しなくてはならない。この辺の知識は山吹さんが何となく説明してくれたので何となく理解している。とりあえず、今目の前に見えている枝から生えた小さなアボカドの様な植物は口にしてはいけない。これを食すと体がしびれて脱水症状を引き起こすらしいからな。砂漠で植物を見かけても容易に口にしてはいけない、自然は甘くはないのだ。そうして俺は大きな木陰がある木、ナツメヤシの木を見つけるとまずは小枝を集める。

 砂漠では夜になると急激に温度が下がるので生き残るには体温維持が必要不可欠だと分かっていたので迷わずファイアスターターで火おこしを始めるが……初の体験の為そううまくもいかない。

「結局は……自分のこの力に頼ってしまうか……」

 俺は金属の棒とヘラを擦り合わせるのを止め、目を見開いて両手を出しイメージをする。集めた薪の所だけを熱する……久我暁月が持つ温度操作の力のイメージを。そしてすぐにファイアスターターで火花を起こすと、簡単に着火することが出来る。

「ははは……っ、力が無かったらここでリタイアだったなこりゃ」

 大して時間は経ってないだろうが、今日一日はとても時間が長く感じていた為に久しぶりに笑った気がする。そして火を手に入れては次に食料だと、俺はナツメヤシの木をよじ登る。目標はナツメヤシの実だ。ナツメヤシの実は発汗で失ったミネラル補給や糖分、ビタミンCを補えるのでこの環境では重宝する様なので見つけたからには取らずにはいられない。

「刃物があれば、木の一本ぐらい切り倒すんだがなぁ……」

 ふと呟いては実感する、俺は自らの能力に依存してると。この脱出は文月が俺に課した試練なんじゃないか、そういう風にも思えてきた。ただ能力を使いこなすのが上手いから敵を倒していけるのではない、自分自身の単体の力も高めていかなければぶつかる壁はこれから先あるのだろうと、俺は腹をくくる。

 そうこうして、ナツメヤシの実もゲットするがもう日も落ち始めている、急いで水も確保しなくてはならない。俺は知恵を振り絞り、ある作戦に出る事にした。

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