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脱出不可能  作者: 風雷寺悠真
第16章月夜見島騒乱篇
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“月夜見島からの離脱 Withdraw from the Tsukiyomi Island„

 九十九宵月の狙い、それはこの地下から地上を見上げれば一目で分かる事だ。空には一面の巡回ヘリ、出口を囲うように集結している研究開発局員、大量投入されている月壊壱式で武装する人造能力者達。この状況……まさに四面楚歌というやつだろう。

「いやぁー、こいつは困ったな……」

 九十九宵月は俺との本当の決着を望んでいた、と思っていたがそれは俺の見当違いだったようで本当の目的は俺達の足止め。確かにここに入った時に違和感を感じていた。あまりにもガタが来過ぎていて崩壊しそうな立体地下駐車場。これはあくまで憶測だが何かしらの実験施設として使われていたに違いない。


『そこにいるオリジナル……いや、神代睦月並びに山吹令月に告ぐ。投降しろ……ッ、大人しくしていれば命を奪う事は無い……ッ!』


 巡回ヘリに搭載された拡声器から大音量でそれは響き渡る。それと同時に全ての武器と言う武器、銃口がこちらに向けられる。様子を見やるにヘリや月壊が駆動していることから文月のジャミングの効果はもう切れているようで逃げ場などない、脱出は困難である。

「なぁなぁ……山吹さん、投降するしかなくないか?」

「……馬鹿言わないで。またモルモットみたいに扱われるなんて……ごめん、だよ」

「だよなぁ、まさか文月の指定ポイントが敵さんに漏えいしてたなんてな」

「バイクは……?」

「そういえば、確かにバイク見てないな」

 二人して周囲を見渡すと瓦礫に埋もれるサイドカー付のバイクの姿が見えた。

「闘いに夢中で気づかなかったわ……、にしてもなんだあのバイク。サイドカーが物騒過ぎないか?」

 そのサイドカーの正面には大口径の機関砲、後部にはミサイルが搭載されている様に見える。そしてそれを走らせるためのバイクも一般的なバイクより全長何メートルか長い。タイヤも厳つく、まるで戦車の履帯の様だ。あんなゲテモノを造る人物を俺は一人だけ知っている……。

「しま、せんかせんせーが……」

「山吹さん、その通りだ。あんなもの造るのはあの人しかいないさ。だが丁度いいタイミングだ、早速使わせて貰おうか」

 山吹さんに視線で合図を送り、その瓦礫に埋もれたゲテモノバイクへひた走る。それを許すまいと銃弾の雨あられが背後から迫るが足を止めるわけにはいかない。瓦礫を素早くどけては座席に飛び込む。すると自動でエンジンが掛かり爆音が地下の空間に鳴り響く。

「準備は良いか、山吹さん……とりあえず挨拶代わりに一発かましてやれ」

「……うん」

 俺はハンドルを握り、もう陥落しつつある立体駐車場の坂道を駆け上がる。轟々としたエンジン音とともに普通のバイクではあり得ない凄まじい加速で敵を翻弄する。そしてすかさず山吹さんがサイドカーに取り付けられたキーボードの様な操作パネルを打ち込んでいる。

「睦月、君……全弾、良いかな……?」

「あぁ、構わないさ。ありったけお見舞いしてやれッ」

 俺のその言葉とともにサイドカー後部のミサイルを積んだポッドがハッチオープン。

「ターゲット、ロックオン済み……発射、っと」

 五発のミサイルが発射される。その衝撃波はこのバイクにも波打つが走行スピードは変わる様子がない。ミサイルは途中、空中で分解した後小型の榴弾となり巡回ヘリや武装した研究開発局員たちに襲い掛かる。そのタイミングを逃さず、開いた出口を通り抜ける。

「はははっ、なんだこれ……しませんかせんせーは流石でしかないな、山吹さん」

「……うん、良い意味で、気持ちを裏切ってくるよね……あのせんせーは」

 再び訪れた絶望的な状況をこんなふざけたゲテモノバイクでひっくり返すしませんかせんせーに感心しているとハンドル下部のスピーカーから通信が入る。


『あーあー、こちら霜凪文月。聞こえてるよな? 返答は聞かないがこれを聞いてるなら離脱しつつあるってことだ。さて、睦月よ次のお題だよ。そのバイクで初めに侵入してきた月夜見島のイーストゲートに向かってくれ。そこにある回収用ヘリでお前らを待つ……、もうこちらの要件は済んでいるんだ。令月っちゃんの回収に他の仲間の居場所についての情報……等々な。さぁさぁ、早くそんな雑魚達蹴散らして向かってきてくれ、長居は不要だ……んじゃな!』


 その通信から今、文月もこの島まで来ていることが分かる。そのいつもの調子の文月の声を聞いたのか山吹さんも微笑んでいる。そうだ、こちらの要件はもうこの島には無い。ならばもう早いうちに月夜見島から退散させてもらおう。俺はハンドルを全開に回してスピードを上げ、回収ポイントへひた走る。


◇◇◇


――走り続ける事数十分。途中、幾つか敵の検問があったがそれは山吹さんの操る大口径機関銃で圧倒し、突破。しつこく纏わりつく巡回ヘリは俺が能力を発現させて叩き落とし、月壊をも吹き飛ばす。一人一人を相手にしていてはここからの離脱は困難。島の端から端へ、次々と街並みが崩壊するほどの爆発音、業火、サイレン……。荒らしに荒らして回収ポイントへ到着した。


「うっし、来たな睦月……」

 回収用のステルス加工された黒いそのヘリには文月の姿が垣間見えた。

「このバイクはここで乗り捨てで良いのか……?」

「あぁ、それを乗せるにはあまりにも重すぎるもんでな」

「……そっか」

「なんだぁ? 睦月、このバイクに愛着でも沸いたのか?」

「いやぁ、ミサイルをぶちかまそうが機関砲を連射しようが走る事を止めないこのバイクは俺にとっては楽しすぎた感じも否めない。沢山コイツで敵を……人を倒した罪悪感はあるが、あくまであいつらは俺ら能力者を捕縛しモルモットにしようっていう奴らだ、今更容赦をする理由もない」

「はははっ、そうかそうか。ま、容赦なく倒して良い奴らだと俺も思うぜ? だが睦月よ、ここで残念なお話だがそのバイクには実は自爆システムも組み込まれていてだな?」

「おいおい……勘弁してくれ、そんなものに俺と山吹さんを乗せてたっていうのかよ」

「そう、怒るなって。無事なだけいいじゃないか……な、令月ちゃん?」

「……うるさい。……あと助けに来るの遅い、後で殺す、から」

「それは勘弁、でも令月ちゃんが俺は無事で嬉しいぜ?」

「うるさい、うるさいうるさい……後で……絶対、絶対に殺す……百万回殺す」


「お二人さんイチャイチャしてるのもこれまで、みたいだよ? もう敵さん俺らを逃がさないって形相でそこまで来てるよ?」


 一体この月夜見島には何体の月壊、何人の研究開発局員、何機のヘリや軍事兵器があるのかは知らないがその島の様子をこうやってヘリから見ると思い知らされる。この月夜見島は人造能力者研究開発局の拠点にして、第二の再開発地区なのだと。それを操っているのは能力者という人類史に現れた新たな脅威を抑える為に暗躍する権力者たちなのだと。


「さぁ、退散しましょうか……最後に大きな花火をぶちかましてな」


 文月の合図とともに俺達の乗るヘリは高度を一気に上げる。そこからは月夜見の全景が見える。綺麗に整列していたビル群は今や傾いていたり、崩れ落ちて廃墟と化している。そこに居たはずの造られた能力者や研究者たちが見当たらない光景には少し違和感があった。


「よし、範囲外。睦月……あのバイクともこの島ともお別れのお時間だ」

「……あぁ、やってくれ。俺達にはまだやることが沢山あるからな」

「……だな、まずは仲間を取り返さなきゃだわな」


 月夜見島に大きな爆炎が放たれる。あのバイクにはあそこまでの自爆システムが備わっていたと思うと短時間ではあったが冷や汗が止まらない。その爆炎で追尾していた巡回ヘリも墜落したり、引き返す。……どうやら離脱は成功したようだ。


「ったく、毎度毎度無茶させるよな……文月はよ」

「そんなんお互い様だろうが、俺だってわざわざここまで来る予定じゃなかったんだ」

「んなこと言って、お前……初めから山吹さんがここに囚われているって見通してんじゃねえか?」

「……それは、内緒だぜ睦月。幾ら親友とはいえ言えないことだってあるもんだ」

「……殺す、文月君、……覚悟ぉ」


 離脱したヘリの中は月夜見島での騒乱を感じさせないほど温かみがあった。そしてこの月夜見島で引き起こした騒乱で俺達、月の名を持つ異能力者の活動が世界的に注目されることになるとは知る由もなかった。

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