“騒乱の始まり The beginning of the mayhem„
「さぁ……どうしたもんか」
俺はそう言うと周りを見渡した。山吹さんが月壊参式を鹵獲して俺達はこうしてここまで逃げてきたは良いものの今となっては自動プログラム機動の月壊参式に追われ、空を見れば巡回ヘリまでこちらへと集結し始めている。そして巡回ヘリとは名ばかりで、装備している兵装が明らかに迎撃用のミサイルに加えて機関砲まで装備されている。
「なぁ、山吹さんよ。これもう無理ゲーくさいぜ?」
「そんなこと……だいぶ、前から……分かってたことでしょう?」
「……んまぁ、それもそうだがよ。仲間を取り返すとはいえ一人でここに乗り込む時点で……」
「……うるさい、ミサイル、くるよ。……宜しく」
山吹さんがそう告げると巡回ヘリのターゲットは勿論、鹵獲したこの乗ってる月壊参式に向けられるわけで。ミサイルが着火しては加速し、こちらへと迫り来る。
「……おいおいっ、宜しくって。この鹵獲したロボにはミサイル撃ち落とす武器の一つもないの?」
「あるよ……今私が話してる……人こそ、武器」
「……素直に残弾がないって言ってくれよ、ったく」
俺は呆れながらも造りだした大鎌を手放すと、もはや愛着でさえ湧いてきている長刀を月の石の紅き粒子を左手に凝縮させ生み出す。その刀を握り直し、鹵獲した月壊参式に着弾するより前に全て切り落としていく。だがその間に追って来ていた自動プログラム機動の月壊参式も装備されたミサイルを発射する。
「……間に合わねぇ……ッッッ!!」
間一髪、俺の乗るオンボロになりつつある月壊参式の背後から放たれたミサイルは空から降り注ぐ赤い火花、ヘリなどに主に搭載されているフレアにて防がれる。
「お待たせしました、令月っちゃん……生きてるぅ?」
俺達の背後に現れたのはステルス加工されたヘリよりは小型だが多くの武装がされているドローン。そのドローンからは聞き覚えのある声音と令月っちゃんという呼び方が。
「遅い、あと三十分……早く来て」
「ゴメンて令月ちゃん……こっちだって色々と苦労したんだよ。まず僕自身が現地に行くことは不可能だなと思って……ドローンの遠隔操作をだな……」
「うるさい、早く仕事して」
「分かってますって、そのためのこのドローンだ」
その声がそう言うとそのドローンからは特殊な電磁波、ジャミングが発せられる。するとどうだろう、プログラムされた機械的な動きをして、追って来ていた月壊参式達は次々に倒れては巡回しこちらをターゲットとしていたヘリたちは見事な様に動きが止まって墜落していく。
「おい、文月……どういうことだよ」
そう、その場に現れたドローンを操っていたのは霜凪文月本人だったのだ。
「どういうことって……こういうことだよ?」
「……冗談は止せ。そんな口ぶりだと元々ここに来る予定だったのか?」
「まぁそういうことだ。だがなぁ、俺は睦月とは違って武闘派じゃないからどうにもこうにも向かう手段が無くて、こういう参戦方法にしたわけだわ」
「だがお前の参戦方法のおかげで、この鹵獲したやつも動きを止めたみたいだぜ?」
俺は文月のドローンにそう言いやった。どうやらドローンが放ったジャミングは月壊参式全ての動きと止めた様で俺達の物も例外ではなかったようだ。
「すまねえが……これも想定内だ。令月ちゃんには悪いがここから少し行ったところにバイクを用意しといた。そこから睦月、お前が島に来たイーストゲートに船を手配した。あとは任せるぜ睦月」
「少しって……お前ここが島のど真ん中だってのに」
「まぁ、何とかなるだろチート級のお前がいるなら」
「チート言うな。俺だってそんなつもりじゃない……文月、お前はどうするんだ?」
「俺はまだ回収しないといけないもんがあるんでな、さっきまで君らのいたあの塔に行くぜ。んま、令月っちゃんを無事に生きて帰らせろよ、睦月。」
「あぁ、任せろ……」
そこで俺と山吹さん、文月のドローンは別れる。
「山吹さん、少し歩くが……大丈夫か?」
「しょーじき……歩きたくは、ないけど。がんばる」
「よし、じゃあ行くか……」
そして俺と山吹さんは文月が用意したバイクのある場所へと向かうが、月夜見島中心部でのこの戦いはまだ騒乱の序章でしかなかった。