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脱出不可能  作者: 風雷寺悠真
第16章月夜見島騒乱篇
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“嵐の前 The calm before the storm„

 ドシンッドシンッ、と衝撃音と共に大きな揺れを感じた俺は気が付けば目を見開く。目を開いた先に見えたのはメカメカしい装甲の天井……そして下には何か柔らかい感触があった。

「ここは……?」

 その感触はドシンッドシンッと音を上げる無機質なこの場では感じることは無いだろう感触で戸惑いつつも見開いた瞼を閉じてその感触を確かめる。


「ご、ごほん……。あ、の……起きたなら、そのー……そこどいて、よ……」


 無機質な場で聞こえてきたのはまた、無機質な聞き覚えのある声。そう、山吹さんのボソボソっとした声音だった。そして俺が感じていた感触は山吹さんの太ももで、どうやら膝上に横になっていた様だ。

「あのー、一体ここはどこなんです? このドシンドシンッ、っていう衝撃……」

「……見て分からない? 今、逃げてる……の。……奪った月壊で」

「言われてみれば……確かにそのディスプレイと言い、その様だね……悪い、今後ろにどく」

 山吹さんの言う通り、俺が連れ込まれていたのは月壊参式のコクピットの中でその月壊参式自体は追ってくる者から逃げるべく走っているのだ。機体の後方からは爆撃だかなんだかは分からないが爆発音や衝撃音も聞こえてくる。そして俺は山吹さんの操縦の邪魔にならないよう後ろの方へ避けるが、そもそも月壊参式は基本一人しか乗り込めない。その為に避けるといっても体を寄せて邪魔にならないようにしかできないのだ。

「……邪魔」

「ご、ごめん……わざとじゃないんだけど」

「……そ、そのそこに留まられると、困る、よ……ぉ」

 後ろへずれようとするが腕が山吹さんの胸部に触れてしまい、山吹さんの顔は赤くなっていく。

「ごめん……文月のこともあるだろうし、本当に申し訳ない。……そんなつもりじゃないんだ」

「……! それは、今、関係ない……でしょ? 怪我は治った?痛み引いた、よね」

「……い、いやまだ少し」

 俺の言葉を遮り山吹さんは俺をコクピット上部へと押し込んでくる。

「良い? 君はもう、怪我、治った。……治ったの」

「……へ?」

「だーから……君、はもう治った。……後ろの敵、蹴散らして?」

 山吹さんはそう言うとニコリと微笑んでコクピットのハッチを開放させて押し込み、俺は自然とコクピットから放り出される。

「ちょっ……とッ! 山吹さん……ッ!! んな無茶な」

「追手倒してからじゃないと……入れてあげない」

「そこをなんとか……」

「やだ……睦月君、むね……触ったもん」

「いや、だからそれは不可抗力……」

「やだ、ゆるさない……女の子の、敵」


「あぁ、もう……分かったよ、追手はどちらにしろ邪魔だもんな? ……あぁ邪魔もんだもんなッ!」


 俺は自分自身にそう自己暗示して月壊参式肩部によじ登り、手に力を込めては月の石の紅き粒子を凝縮させ左手には能登鎌月が使っていた様な大鎌を錬成する。そしてその大鎌の先には鎖を施し、大型の鎖鎌を造り上げる。


「これで……どうだッ!! 所詮相手は月の石で出来てる機械仕掛けだ……ッ」


俺は大鎌を振りかぶると、山吹さんが操縦しているこの月壊参式を追いかけてきている月壊に向けてぶん投げる。するとその大鎌は一機の月壊に刃先が突き刺さり、施され手に巻き付けているその鎖はピンと一直線に張る。


「……山吹さん、少しばかり揺れるから耐えてくれよ?」

 

 俺はそのピンと張った鎖を今度は左へと振るう。すると並走して追いかけていた月壊に大鎌の刃先が刺さった月壊がぶつかり、大きな故障音とともにその足は止まる。だが所詮追いかけてきていた二、三機を破壊しただけでまだまだ追手には数がある。


「……正面にも敵影」

「あぁ、分かってるよ山吹さん。だけどこの量……流石にキツイぜ」


 山吹さんの操縦する月壊三式は月夜見島の中心にある月天の塔から少し離れ港の方に差し掛かろうとしていたがそこには敵が待ち構えていたのだ。何故逃げ道が露見しているかというとこの島の各所にある監視カメラのせいだと踏んだ。


「この島には逃げ場はないみたいだな、山吹さん……絶体絶命、四面楚歌とはこの事」

「うるさい、そん、なの分かってる。……も、うこの機体奪うのも大変、だったのに」

「さぁ、……どうしたもんか」


 山吹さんが操縦するその月壊参式は足を止めざるを得なかった。

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