“覚醒 the awakening„
「君は僕と契約してそうして生かしてあげてるのに、ほら…言わんこっちゃないなぁ?」
九十九宵月はそう不敵な笑みを浮かべては俺の方へと視線を動かしてくる。
「に、してもだ。君も情けないよなぁ、助けに来たと思ったらまたこうやって敵になんか捕まってさぁ。そしてその仲間に助けられるとか…ダサいと思わない? ハハハハッ、ダッサイよなぁ?」
「…黙れ」
「ほらほら、いくら睦月くんでも否定できないようだね?」
「…黙れと言っている」
「どうだったさ電脳世界。仮想世界とはいえ君の同胞…仲間を沢山殺した気分は、最悪だろう?」
「…うるさい、黙れと言っているんだ…ッ」
「フハハハ…ッ、そうだ、その顔だ…その顔が見たいがためにあんな世界まで用意してやったんだ。
楽しんで貰えたようで何よりだが、もうゲームはおしまいだ」
「…黙れ…黙れよ」
「ゲームオーバーだよ、睦月くん」
九十九宵月はポケットからリモコンの様なものを取り出しては何か、操作をする。
それにすぐに反応したのは隣に居た山吹さんだった。
「やめて…やめてェェェ…ッッ!!」
絶叫…その声はこの牢獄に響き渡る。山吹さんは頭を手で押さえては発狂し、
地べたに這って暴れまわる。こんな彼女は見た事が無い。
「フハハハッ、やはり面白いよねぇ人が狂うのは」
「…貴様、何をしたんだ…ッ」
「簡単だよ、彼女に装着されている機械で脳内にトラウマを再生しているのさ」
「…クソが…人間の屑だ貴様は…ッ」
「その屑に今からお前も成り下がるんだ、睦月くんよ。彼女を助けたければ戦え、本性を出せ」
「うるさい…黙れ…黙れ、黙れ黙れ黙れ…」
無性に俺の中に怒りという感情が溢れてくる。沸々と熱湯の様に熱くなっていた俺の気持ちはマグマのように爆発し、噴火した。
「力を、貸せ…全員分…いやそれ以上にだ…」
ボソッとそう呟いた。今まで見てきた月の名の持ち主達の力を全て開放…そしてまだ見ぬ才能という能力の引き出しを全て引き出す。…能力の全開放、俺の持つ引き出しの全てを開錠させる。俺の力は鍵を開ける力、それは物理的にも能力的にもだ。
「そうこなくてはな…ハハハハハ…ッ!」
九十九宵月は拳銃を取り出すがそんなものはすぐに木っ端微塵に蒸発させる。一部の空間のみ温度を急上昇させ拳銃の鉄溶かした…いやまだ見ぬ温度まで上昇させたために蒸発したのだ。
「…フン、原初の三日月の一人に熱を操る輩がいるとは有名だがその力でさえ開放したのか…」
「…まだだ。お前は絶対に許さない…」
俺の心は怒りのレベルを行き過ぎ、冷静の中におぞましいほどの怒りが転がっていた。無心に近いその怒りで九十九宵月と対峙する。
「喰らえェェェ…ッ!!」
手に力を込めてはまず斬月の力を具現化し創造。赤い粒子…月の石で出来た左手の力を利用して一つの、いやそれ以上の紅き刀を形成させていく。
「まだ、まだ足りない…もっと、もっとだ…ッッ!!」
更に数えきれないほどに紅き刀を形成させていく。それは目に見える景色が紅く染まるほどの量だった。
「今度は物量で攻めるというようだが…無駄だよ、僕には物理攻撃が…」
「効かない、だろう?…誰が物理攻撃と言ったさ、お前はもう終わりだ」
形成させたその無数の紅き刀たちは既に九十九宵月の方へと突き刺さっていた。
「この刀はただの刀ではない…、苦しみ…いや俺の苦しみ、憎しみを凝固させた刀だ。
物理攻撃ではないといったのはそのためだ」
「んな…なんで…この…刀は…」
「俺があの世界で何回…何万回…何千万回殺され、殺したと思っている…?」
「そんな…自らの思いを凝固させ武器とした、だと…ッ そんなことが出来る訳、が…」
「出来るんだ、それが。俺は能力が才能なんだ…貴様らの言うオリジナルとはそういうことだろう?」
「…だが、ただでは…死なんぞ…」
九十九宵月は地に膝を着き、無数の紅き苦しみ…憎しみの刀が突き刺さっていてもなお何かを取り出したがそれは無謀だった。
「…無駄だよ、貴様が何をしようが。九十九、貴様は俺に何をしたか分かっていない。その貴様の態度が…癪に障るんだ…消えろ、消えてくれ…これ以上僕を怒らせ…いや、悲しませないでくれ」
九十九宵月が取り出した別のリモコンの様なものはすぐにその手ごと凍り付いていた。
「ん、な…原初、の三日月…久我に続き…御剣の…力、まで…まさか…ここまで、とは」
「俺の苦しみを身をもって味わい…そして死ね」
そう俺が言いやると九十九宵月に刺さっていた苦しみと憎しみの紅き刀は更に奥へと突き刺さり、爆発した。
「…くっそ」
頭が尋常にないほど痛む。体にも味わったことのない痛みが走る。立っていられなくなった俺は地面へと突っ伏した。
「…山吹、さん…無事か…?」
「わたし、は大丈夫…だけどそっちが大丈夫、じゃない」
「…あぁそのようだな…すまん」
俺の意識はそこで途切れた。