“電脳世界からの脱出Ⅷ Escape from the cyber world„
その異変とは、俺の目から見えるこの世界がまるでゲームのバグか何かの様にざらつき始め、そしてどこからか耳に入り込んでくる声がある。
「今…助け…る…よ…」と耳に入り込むこの声、どこかで聞き覚えのある声音だ。俺が今見ているこの教室の風景は徐々に崩れ始め、黒い虚無の空間へと変貌していく。周りに居たクラスメイト達もホログラムの様にバラバラに消え去っていく。
「その声…山吹さん、か…?」山吹さん、そう山吹令月さんのことだ。彼女も俺と文月の衝突以降、研究開発局に捕まっているとは聞いていたが…これは一体どういうことなのだろうか。本当に彼女なのか?俺は疑問を隠せずにいた。だがそれとは裏腹に「良いから、黙って…目を…瞑れ…」とまた、俺の耳の中へと入り込むように、テレパシーの様にそれは聞こえてくる。俺は黙ってそれに従い、目を長いこと閉じた。
「開けて、良いよ…」その声に従い目を開けやるとそこは白い金属製の壁が特徴的な牢屋で、俺の両手足は拘束されており、頭部には何かを装着させられている様だ。恐らく俺を電脳世界へと閉じ込めるための設備なのだろうが…、先ほどから聞こえて来ては俺を助けてくれた声の持ち主は見当たらない。
一体どういうことなのだろうかと腕を振るうと両手の拘束具のロックは何故か解除されており、すんなりとそれは取れる。またこれもあの声の持ち主の仕業なのだろうと両足と頭部のものもどかして、牢屋から出やるとそこの壁に寄りかかる少女の姿が。
「ほら、やっぱり君だった…山吹さん」
「…こんな、とこ…で…なに、やってる…の?」
山吹さんは昔とは違って髪の毛を更に伸ばしており、トレードマークであった眼鏡はしておらず別人の様になっていたが俺は相変わらずの片言なのを確認して思わず微笑んでしまう。
「俺か? それは決まってるだろう…皆を、仲間を助けるためにこうしてやってきた」
「…捕まってるけど、ね」
「それを言われると言い返せないが…、そういう山吹さんこそ捕まっていたんじゃないのか?」
「わ、たし…はそ、の…。雇われて、るの…才能を、買われて…研究、開発…局に無理矢理…」
「そういえば、俺は未だに山吹さんの才能という能力を…知らない」
「わ、わたし…の力…は、簡単に言う、な…ら…クラッキング…も、といハッキング」
「なるほど…だから俺を助けられたのか…、じゃああの時もお前が…」
「そ、う。わ、たし…パソコンとかも…好きでさ…だけど、助けたから…わた、し…殺され、る」
「雇われてるとか言ってたもんな…」
「もう…殺される…来るよ…」
山吹さんがそう言うとその通りの事が起きる。
「おやおやぁ? …なんでこんなところに居るのかな? しかも睦月くんと。契約違反、だよね?」
そう言い放ったのは俺を電脳世界へと誘った人物そのものだった。