“電脳世界からの脱出Ⅵ Escape from the cyber world„
「ここが奴の言っていた半壊した刑務所か…」
いざ目にしてみたら予想以上に大きい刑務所で、所々の塀が崩れ落ち半壊している様子だ。俺は恐る恐る正面の方から中へと入っていく…その時、勢いよくシャッターが閉まった。仕組まれている出来事の様に事が進んでいくことに少し恐怖感を覚える。
「これもこの世界の文月の仕業なのか…?」
ふとしたら姿を消していた文月の事が頭によぎった矢先に暗闇の中の刑務所内に多くの人の気配を感じる…それも半壊した筈のこの刑務所の地下の方に。誰かいるのかとその方へと足を向けた。
その地下は大きく掘り起こしたのであろうか凄まじく広いスペースが形成されており、各所に眩しいほどの照明が設置されている。そしてこの鼻にツンと来る酷いにおい…腐ったにおいが漂っている。良く見ればその地表には多くの人が倒れ伏せている。考えたくはないがそういう事なのか…?
「…ッッッ!!」
その地表に冷たく足を付け、佇む少年がそこには居た。その少年の手には血にまみれた刀を携え、表情はどこか物悲しげだった。俺はこの少年を知っていた。
「…斬月か?」
その少年は俺の方へと体を向けたかと思うと、刀を構えて突進。
「………問答無用かよッ!」
返答は無いまま刀を振り下してきた斬月に間一髪で鳩尾に回し蹴りを喰らわす。それだけではない、どこからかドスン、ドスンと大きなものがこちらへと近付いてくるような衝撃音や先ほどから感じていた人の気配が強くなってくる。
「…なんだってんだよ…ここは」
良く周りを見返すとその地表に倒れ伏せているのは学校の同級生を始めとしたどこか見覚えのあるような人ばかりで、その感じていた気配は剣と剣を合わせる、もしくは対峙する仲間の姿ばかり。
そしてこちらに近づいてきていたのは文月の乗っているであろう月壊参式、月詠の姿だった。その月壊参式、月詠は斬月をその場から姿が見えなくなる程に遠くへと弾き飛ばし、そしてそこから彼の声が大きく響き渡る。
「ここは能力者が隔離され、戦わされる施設だよ…睦月。無人島が懐かしいかい?」
電脳世界の住人の一人として造られた文月は物悲しげにそう告げる。ここは電脳世界…だが拳を握るこの感覚は現実世界と何一つ変わることはない。九十九宵月を始めとした奴らの目的が分かってきたような気がする。
「あぁ…こうしてまたお前と戦う事は懐かしいし…悲しいさ」
俺にこうして多くの絶望的な光景を電脳世界のもう一つの現実として目の当たりにさせることで現実世界の俺に何か影響を及ぼそうというのが奴らの狙いなのだろう。
「悲しいか? …俺にはそうは思えない」
そう言い切った文月は自分の能力をフルに使うことが出来る月壊参式、月詠で俺に襲い掛かった。