“電脳世界からの脱出Ⅳ Escape from the cyber world„
次に向かうべき所、それは水篶と立場の入れ替わっている本人である山吹さんの所だ。そこに向かうにはまず電車に乗り、一駅移動する必要があるために駅へとひた走る。その途中、ジーンズのポケットに押し込むように入れた携帯が振動する。
「…はい、もしもし?」
俺はポケットに勢いよく手を入れては直ぐに掛かってきた電話に出る。
「あー、睦月ぃ?俺なんだけども」
「なんだお前、新手のオレオレ詐欺か?」
「あーあー冗談きついぜ睦月、ほら君の大親友ちゃんだよ」
「俺に親友などいない、そんなオレオレ詐欺をするような奴はな」
「悪い悪いって、ほら霜凪文月だよ」
「ったく、要件はなんだよ」
部活終わりなのだろうか、文月は息を切らしながら電話を掛けてきていた。
「えーっとだなぁ、ほら来週には文化祭があるじゃない?」
赤雪高文化祭…あの事件が起こる文化祭か。未来から来たわけじゃないのに先の事が分かるのは少し恐ろしいものだな。にしてもこの電脳世界は再現度が高すぎる。
「あぁ、それがどうした」
「…ちょっとそこで相談があるんだわ」
その頃には駅へと走っていた俺の足はピタリと止まっていた。
「…それは電話で済む話か?」
「いいや、ちょっと長くなるかねぇ?」
「どこに行けば?」
「話が早くて助かるよ、そうだなぁ太刀川駅から少し歩いたとこの地下道で」
「了解、丁度駅に向かっていたところだ」
「じゃあ、後でな」
「あぁ、後でな」
そこで電話が切れ、それにつられて止まっていた足はまた駅へと走り出す。突然の呼び出しであったが恐らく何か重大な事があるのだろうと考える。生憎行けそうにない、山吹さんの所が気にかかるが文月の方を優先することにした理由は切らしてた息が部活終了後のものではないからだ。
電話から聞こえた荒い息遣いとともに聞こえてきたのは電車の通る音、つまりは学校に文月は居ないことになる。そして呼び出された場所は地下道と来た、これは自身の身に何かがあったに違いないはずだ。電脳世界とはいえ仲間を見殺しにすることは出来ない。
「…待ってろ、今行く」
焦る気持ちと裏腹にゆっくりと電車の中で進む時間に複雑な気持ちを抱きながらも、自分の中での最速で文月の居るであろう地下道へと向かう。
…そこで起きる一つの絶望を俺はまだ知らずに。