“電脳世界からの脱出Ⅱ Escape from the cyber world„
「水篶…ッ!」
俺は曲がり角を曲がって直ぐにある、かつてファーズランドの脱出不可能の情報の載った雑誌を読み更けていた本屋へと駆け込む。その場所には同じように雑誌を手に取っている水篶が姿がそこにはあった。
「…どうしたの? そんな焦った顔をして…。睦月くんらしくないよ?」
「でも…水篶が心配で…」
「私が心配…? どうして…?」
「だって水篶の家が…、いや、なんでもない」
この世界では水篶の家は名家では無くなっている。つまりは帰る場所が無くなっている、はずだ。だがこの世界の水篶はそれを当たり前のことだと思っている。だから俺が彼女にその事実を伝えたところで信じるはずがないのだ。
「私の家…?」
「あぁ、水篶は普段家とかで…どういう生活してるのかなって」
「私のせ、生活が気になるの…?」
水篶は頬を赤らめ、手に取っていた雑誌を勢いよく閉じた。それを見て自分の発言を見返すとそれはかなりの危なっかしい発現であったと後悔する。
「じゃあ…私の家に来る?」
だがそんな俺の内情を知らない彼女はダイレクトに受け取ってしまう。
「いや、でもそんな…いきなりなんて申し訳ないだろ?」
「睦月くんならいつでもウェルカムだよ」
「なら…お邪魔しようかな」
この世界から脱出するには俺の仲間たちの現実との違いがポイントの一つだとすれば、行っても問題はないはずだろう。だが何故だろうか、他の奴らにはまだ会えていないがこの世界の水篶は何も変わったところが見当たらず、ただ肩書きが変わっているだけだ。
「それじゃあこれも読めたしさ、行こうか?」
「あぁ…そうだな。そうしよう」
しかしまだ何も分かっちゃいない今、深く考えたところで意味はないと判断した俺は現実世界とは違う水篶の家へと向かう。
辿りついた水篶の家は赤雪高校から東斑山駅まで歩いて、そこから電車で一駅の所佐波駅で降車したところから少ししたところにある一軒家…俺の家の隣だった。
「俺の家の隣なら言ってくれれば良かったのに…」
「え、睦月くん毎朝一緒に登校してるのに忘れるなんて酷くない…?」
「えっ…あっ…そうなのか、悪いそういう訳じゃないんだ。さっきのは忘れてくれ」
ふと忘れていた、この世界と現実世界は違うと。彼女が現実世界と違いが無くとも作ってきた思い出は違うのだ。そして俺は自分の家を眺めて思う、まだ家に帰っていないと。
「悪い水篶、ちょっと忘れ物したから一回帰るわ。そのあと改めて伺うよ」
「分かった。じゃあ私の家で待ってるね?」
「あぁ、助かるよ」
お互いの家の前で別れた俺は自分の家のドアノブに手を掛けて、開く。いつもならこの時点で皐月が飛んでくるはずなのだが…その様子はない。
「お帰りなさい、おにいちゃん?」
その言葉が耳に響き、その光景を目の当たりにした俺は思わず二度見をした。
お読み頂き有難う御座います。作者の風雷寺悠真です。まだこの段階だと今後の展開のための伏線を引いている段階ですのでその伏線を予想しながら読んで頂ければと思います(唐突)
脱出不可能を読んで下さっている方ならばもう言わなくても分かっていらっしゃるとは思いますが…。
そして今回の脱出パートは長くなりそうです。ですが各キャラの見せ場は盛り沢山ご用意してますのでいつもと違う雰囲気のキャラ達の織りなす脱出不可能を引き続きお楽しみいただければと存じます。
次話も今後ともお付き合い宜しくです。