“側近 aide„
「お初にお目にかかるね?」
能天気にそう言った、どこか会ったばかりの長門嘉月と似た雰囲気を持ち合わせ、俺と同じくらいのタッパで緑髪の好青年は俺の前にニヤニヤと微笑みながら俺の足のつま先から頭の先へと舐める様に見てくる。
「お前、よくさっきの斬撃を防げたな?」
「そりゃあ、君のその技は見慣れたからね」
「…そうかよ」
俺は一歩引き下がってから刀を振り払い猛攻する。
「…無駄だって」
その一言が聞こえたかと思うと立ち塞がるソイツに向けて俺の振り払ったはずの刀は何故か空振りしていた。
「んな…ッ!?」
「ね、言ったでしょ無駄だって」
立ち塞がるソイツは自信ありげにそう言う。
「自己紹介、まだだったね? 僕は九十九宵月。月の名ってことはもう分かるね?」
名前に月を持つ者には力が与えられている、つまりはコイツも月の名の能力者であるという事だ。しかも先ほどからの戦闘能力やらを垣間見るに造られた力ではないと見える。
「…見た感じ、諫早皆月の直属といったところか?」
「…ご名答。僕は諫早くんに直接命を受けて君を倒すのではなく、捕縛しに来たという訳さ」
「…なるほどな、ご丁寧にどうも」
その言葉を聞き、俺は利用価値を見出そうとしていた。
「立ち話はあれだから、さっさと捕まってくれないか?」
「…それはごめんだ」
会話が進んでいる中俺と相手、九十九宵月は距離を取っていた。
「君が幾ら攻撃してこようがその攻撃は僕まで届かないさ」
「さぁ…どうかな?」
まずは物量を試してみる事にし、紅き二刀で斬撃の雨を降らす。
「…ふふっ」
だがその斬撃の雨は何故か、九十九宵月の肢体に掠る事さえしない。
「じゃあこんなのはどうだ?」
俺は二刀を互いに叩きつけ、一つの大剣を生成する。その大剣は自分から見ても二メートルあるかないかの大きさかつ、重厚感を持っている。そんな大剣で今度は物量ではなく、質を重視した攻撃を繰り出す。
「………ッッッァァァ!!!」
その繰り出された分厚過ぎる斬撃は周りのビルと言うビルを粉々に崩壊させるがどうにも九十九宵月には当たることがない。
「だから、無駄なんだって。なにせ僕の力は物の軌道をずらすことが出来るからね」
「軌道をずらす、だと?」
「あぁそうだよ? だから君のそのアナログな斬撃が僕に届く事は永遠にない」
「じゃあ、今の今まで斬撃自体の軌道を逸らしていたっていうのか…」
「軌道計算を行わないと出来ないがそんなものは朝飯前だ。そしてこの力にはこんな使い方だってできるんだ…さぁ………よーい、どん」
九十九宵月は運動会で良く使われるその合図を掛けると、先ほどから手に携えていた拳銃を空に向け乱射する。その弾丸は通常ならばそのまま空へと飛んでいくはずなのだが、そんなことはあり得なかった。
「…ッ!?」
弾丸の軌道は全て直角にひね曲がり、こちらへと追尾してくる。
「…君のその武器を大剣にした事が仇になったね?」
九十九宵月の言う通りだ。この剣では全身を隠せてもすべての銃弾を防ぐことも弾くことも、全て切り裂くことも出来ない。俺は一か八か、大剣を後ろへと逸らし、大きく振りかぶった。
「…それは愚かな選択だ」
九十九宵月はそう告げた。何故だろうか、気づいた頃には俺は九十九宵月を見上げていた。四肢のあちらこちらに激痛が走る。体が動かない。体が言う事を利かない。
「さぁ、遊びは終わりだ。君は甘く見過ぎだね? 目覚める頃には…ね?」
瞼が閉じようとしている…眠い? その瞼がどんどんと重くなっていく。
「君に打ち込んだ弾丸は特別製でね? 中に睡眠薬が入っているんだ。そうでもしないとオリジナルなんかに勝てないからね。でもまぁ、君が僕の事を甘く見ていたおかげで君を捕まえることが出来た。単純に僕の力を君が使っていたとしたら、勝負は見え見えだったがね」
その言葉を最後に俺の意識は途切れた。