“刺客 assassin„
まずは目障りな大きい奴から倒さなければならないと、俺は月壊弐式に張り付きグニャリ、グニャリと粘土の如く月の石の装甲を素手で剥がし始める。これは俺にしかできない事だ。だが相手もそれを既に知り得ているためにそうはさせないと月壊弐式に張り付いているのにも関わらず援護射撃を繰り出してくる。
「バカか…味方さえも気にしないというのか…?」
俺は既に機関部が見える程度まで剥がし切っていたため、すぐにその月壊弐式の後ろへと飛び移る。そして援護射撃はその機関部へとクリーンヒットし、火花が立ち上る。
「次はお前だ…ッ」
その援護射撃をしてきた月壊参式に同じように取りつく。だが今度はうまくはいかず、月壊壱式が背部のリュックの様な形を模したジェット機構と足に取り付けられたホバー機構を生かし、空中にて介入を受ける。以前の壱式はここまでの機構を駆使しきれていなかった。俺はその壱式の肩を蹴り、地面へと着地。
「さてはその中に人が入っている…?」
確かに月壊壱式はパワードアーマーとしても使う事が可能であり、その方が高度な戦闘が行える。だがそんなもの、そのアーマーさえ壊してしまえば問題は無い。
「斬、月…ッ!」
俺は再び、左手を大きく開いては力を込める。その手には月の石から溢れ出る赤い粒子が集まり、その粒子は一つの刀を形成する。その刀は斬月の力を武器として具現化した物。
「さぁ、ここからだぜ…?」
その形成した紅き刀を俺は右腕に持ち替え、更にその左手でもう一本刀を錬成する。そして出来た二本の刀を大きく振りかぶっては迷わずそのまま振りかぶる。
一閃………とは言わず斬撃の嵐が吹き荒れる。その嵐はキャタピラ駆動で小型の月壊零式を細切れにし、そして月壊壱式のパワードアーマーのみを粉砕する。月壊壱式を装備していたその人は地面へと打ち付けられ、気を失った。
「…あとはお前だけだ」
残った月壊参式に向けてそっと呟いた。だがその月壊参式は何故か後退し、姿を消してゆく。
その時、…俺の頬に何かが掠れた気がした。俺はその頬に手をやると手には赤い血が付着している。それを確認した後、俺は次を警戒し身を翻して月壊参式と同じように今の場所から後退する。
「………ッッッ!?」
だが場所を移した直後、今度は体中に擦り傷があるのが確認できた。これは先ほどの戦闘で付いた傷ではない。これは…たった今傷つけられたものだ。確かに後退するときに風を切る音が聞こえた気がした。
再び俺は場所を移す。だがそれは体の掠り傷を増やしていく行為に変わりは無かった。だがこれで分かったことがある。それは…この傷は銃撃によるものだという事だ。そして致命傷には至っていないのは弾丸の口径がそこまで大きいものではないからだと、推測できる。そしてその弾丸の銃痕はここにある。
俺は施設の壁に出来た細かな穴を見て、その方向と正反対の位置に斬撃を振りかざす。
轟…ッとその斬撃と何かがぶつかる音がした。そしてそれに伴った足音も。
「やぁ、…君がオリジナルか」
能天気の様なその声音とオリジナルという単語に俺は嫌悪感を抱いた。