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脱出不可能  作者: 風雷寺悠真
第3章月の名を持つ者篇
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“意外な一本の電話 One surprising telephone„

2016/2/04(木)改稿。

 甲高い目覚ましの単調な音が、鋭く耳へと届いてくるのを実感した俺は目を擦りながらすぐに目覚まし時計を止めにかかる。


 今日は日曜日だ。それだというのに目覚まし時計をかけたのには深い訳がある。


 その深い訳である目的を果たすために俺は少し荒々しく階段を下りてリビングに行く。リビングにはまだ皐月さつきの姿が見えないのでどうやらまだ寝ているのだろう。


 そんな事を考えつつ、ソファーに座ってテレビを付ける。


 そう、俺が休日に目覚ましをかけた理由は昨日起きてしまった最悪の事件の事後を知るためだ。テレビのチャンネルをニュース番組に変える。やはりその番組は最悪の事件を取り上げていた。


 「昨日、所佐波ところざわ市弓張月学園ゆみはりづきがくえん高等学校にて連続殺人事件が発生しました。死亡者は五名。


 犯人はアミューズメント総合開発会社α(アルファー)の開発チームの主任責任者である瀬々良木和樹せせらぎかずきの娘である瀬々良木秋月せせらぎしゅうづきですが当人は自殺。


 ですが娘に殺人を指示した人物が埼玉県警さいたまけんけいの取り調べによると父である瀬々良木和樹せせらぎかずき本人である事が判明しました。瀬々良木和樹せせらぎかずきはこの後、書類送検され、刑事裁判に掛けられる模様です。


 そして殺人事件が起きてしまった学校長によると心理的、物理的被害を受けた生徒は希望があれば編入先を用意するとのこと。


 この殺人事件について、瀬々良木和樹せせらぎかずきの勤務していたアミューズメント総合開発会社α(アルファー)の社長である長門嘉月ながとかげつ氏が緊急記者会見を開きました……」


 するとテレビの画面には長門嘉月ながとかげつが記者たちの前で頭を下げている光景が見えた。


 俺達が校舎から脱した後、クラスメイトが警察に通報したことでこの様になったのだろう。俺の脳裏にはあの時、俺を庇った学級委員の顔が思い浮かぶ。


 そうか。俺は死ぬ事になってしまった奴らの思いを継いで今後生活していくのか。ならば無駄な一日を過ごさず有意義に生活したい。


 改めて、決心をした。


 皐月さつきがまだ起きて来ないので俺は珍しく自ら朝食を用意した。そしてパンを手にした時、電話の呼び出し音が大きく部屋に鳴り響いた。俺は急いで子機を手に取った。


 「もしもし?」


 「もしもし? お世話になっております、弓張月学園ゆみはりづきがくえんで同じクラスに在籍している、錦織水篶にしきおりみすずと言います。睦月むつきくんいらっしゃいますか?」


 掛けてきたのは丁寧な受け答えをする少女、水篶みすずの様だ。


「あぁ、俺だけど?」

「あっ、む、睦月むつきくん? ニュース、見た?」

「あぁ、今さっき見たばっかだよ?」

「えーとじゃあ、なら単刀直入に言うね? 睦月むつきくんは他の高校に編入するの?」

「そうだなぁ。編入しようとは思ってる」

「そ、そうか……。じゃあわたしもしようかなぁ……」

水篶みすずは何で編入しようと思ってるんだ? 別に俺に付いて来なくても良いんだぞ?」


 水篶みすずは黙り込んだ。どうやら何かを悩んでいる様だが。


「ナ、ナイショ……」

「なんだよ内緒って」

「………」


 このまま黙られていたら時間が勿体無いので話題を転換する。


「んで、実は他に聞きたいことがあって電話してきたんじゃないの……?」


 どうやら図星の様だ。水篶みすずが電話越しに咳払いをしているのが伺えた。


「う、うん……。あのさ。実はお見合いの誘いがうちに来ててさ……」

「お、お相手は?」

「え? あ、あぁ。その………睦月むつきくんが良く知っていると思うんだけど……長門嘉月ながとかげつさん、なんだけど……」


「おいおい……。嘘だろ」

俺は驚きを隠せなかった。いくらお家柄の良い、おしとやかで美しい少女とはいえ。あの長門嘉月ながとかげつが誘いをかけるとは。


「それが……本当なの。そ、それで、わ、わたし心配で。

……睦月むつきくん来て貰えないかなぁって」


 これにも驚きを隠せない。


「良いのか……? 俺なんか行ってさ」

「うん。両親には話を通してあるからさ」

「そうか……。分かった、いつ頃行けば良いんだ?」

「早速、今日なんだけど。今日の夕方五時からわたしの家で行われる事になってる」

「……そうか、いきなり過ぎるな」


 このタイミングで水篶みすずにお見合いを申し込む。

これは何か別の意味があるのかも知れないな。


「分かった。じゃあそうさせてもらうよ」

「来てくれるなら……どうせならお昼頃からうちに来る?」

「うーん……、お言葉に甘えようかな」

「……やったぁ。じゃあ十二時半にわたしの家に来てね!」

「じゃあ、後でな」


 そう言うと電話はプッツリと切れる。


 俺なんか部外者であるというのに突然のお見合いに行くこととなった。相手はあの長門嘉月ながとかげつだ……。気を引き締めよう。俺は朝食の後片付けをして、十二時まで脱出ゲームをして時間を潰した。

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