“独壇場 Monopoly„
五十嵐と能登鎌月の戦いは一言でいうならば五十嵐の独壇場であった。
「ハハハハッ、ハハハハッ…」
五十嵐は狂ったような笑みを浮かべつつ能登鎌月を蹂躙している。それもそのはず五十嵐は相手の能力そのものを喰らい自分の物とする力を持ち合わせている。相手にしたら、というかしたことはあるがとんでもない能力だ。
「………!!」
能登鎌月の表情が少し歪む。構えていた大きな鎌が五十嵐のたった一つの拳によって粉砕されたのだ。
「フンッ…!」
そこに五十嵐の蹴りがかかさず入る。その鋭利な蹴りは鳩尾に綺麗に入り、能登鎌月は耐え切れず地から足が離れ、後ろへと吹っ飛ぶ。
「まぁ…こんなものだろうか。こんなのでは彼女はくたばらないだろうしねぇ」
狂っていたその笑みは安堵の笑みに変わっていた。
「どうやらそちらはとうに終わらしていたようだね」
「あぁ、そのようだ」
「いやぁ、私はこれでも女には手を上げないタチなのだがね…気が狂ったようだ」
「あぁ…全くだ」
そうして俺と五十嵐は無その後言のまま施設を後にし、月天の塔へと向かう。その最中、中に侵入するための輸送車も拝借して。
「さぁ、問答無用で搬入口まで突っ走るぞ…ッ」
入場ゲートを無事に通り過ぎる事に成功した瞬間、五十嵐はアクセルを一気に踏み込んだ。輸送車は徐々に加速し最高速に達する。どうやら五十嵐は輸送車ごと突っ込み侵入する様だ。
「おい、わざわざこんな侵入方法じゃなくても…ッ!」
その俺の発した言葉は五十嵐の耳には届くはずもなく、ただ衝撃に備えろというアイコンタクトが返ってくる。そして次の瞬間、俺達の乗る輸送車に鋭い衝撃が走る。
輸送車は搬入口のシャッターに突っ込み、火花を上げながら滑り込む。その間もちろん異常事態の非常ベルもあちこちから鳴り響いている。
「さぁ、侵入は無事に成功した。契約はここまでだがこれも二度とない縁だ。君に仲間の一人はこの月天の塔の地下にある監獄に幽閉されている。助けたいのならむしろ捕まった方が賢明だ…ではな」
五十嵐はそう言い残し、輸送車のドアを開け場を後にした。俺も早く立ち去らなければと思ったがもう遅かったようだ。
「侵入者を確認、貴様は何者だ…ッ」
外からその様な声が聞こえてくる。そしてこの輸送車も火を上げ、悲鳴を上げ始める。
「…仕方ないか」
俺はドアを蹴破り、その声の持ち主の前へと姿を露わにした。
外には改良されたのか知らないが色違いの月壊シリーズが勢ぞろいしている。だが形は相変わらずだ。小型のキャタピラ駆動の零式。人型でありアンドロイドとしてもパワーアーマーとしても扱える壱式。大型で自動操縦可能の二メートル以上の弐式。そしてそれを超える武装や装甲を持つ、完全乗り込み方式の参式。それに加え、武装した警備兵。流石この島の本拠地ともいえる場所だ。
「とりあえずこれを片付けなければ始まらない、か」
俺は迷わず、躊躇う事無く、直ぐに地を蹴った。