“間合と居合 interval and drawing a sword„
斬ッッッ………ッ!
納めていたその刀を目にも見えない速度で引き抜くと同時に人間離れした独特のすり足でこちらに肩を下から上へと朽野望月は刀を振り上げてくる。言わずとも知れた居合斬りの基本形の一つだろう。斬りつけるというよりは突きつける、といったところだろうか。
その突きつけられた刀の切っ先を俺は錬成した紅き刀の切っ先でそれを止める。その瞬間、凄まじい突風が遅れて吹き付けてくる。それもそのはず、力強く一点集中で突きつけてきた切っ先を切っ先でこちらも受け止めたのだ。お互いにお互いの力を再確認するように再び間合いを取る。
「チッ、埒があかない…ッ」
お互い距離を取ったのは良いのだがこの距離はどう考えても居合の距離であり、相手有利の環境は変わらない。これでは決着がつかず時間が過ぎるだけだ。
「文月…お前の力も借りるぜ…」
俺はそういうと手を自らの左目に添え、その眼に装備するガジェットを月の石から錬成する。このガジェットは文月の力を具現化したものだ。つまりは相手を隅々まで分析、解析することが出来る。
「いち…にぃ…さん…と…」
朽野望月の呼吸数や心拍数など手に取るように把握できる。これがあれば居合してくるタイミングも掴めると考えたのだ。
一閃………ッッ!!
そこで再び朽野望月の距離を一瞬で詰め寄り切りかかる居合が炸裂する。だがこちらにたどり着く前に体中に傷を負っている姿が左目からはスローモーションのように見える。そして突きつけてきたその斬撃を俺は間一髪で躱す。
斬月の戦法をそのまま使わせて貰っていたのだ。あらかじめ各所に斬撃を飛ばしておくという、一つの戦い方を。
「………」
朽野望月はやはり操られているのか言葉は発しないが、血にまみれている体を見て驚いた様子でいる。
「すまない………。早く楽にしてやるよ…」
俺は後悔を浮かべつつ、朽野望月と同じように居合の構えを取る。それにつられた様に朽野望月もまた居合の構えを取る。その居合は先ほどまでのオーラとは違って、お互いに頬に流れる汗も気にならないほどの集中力で目を閉じていた。
その場は五十嵐と能登鎌月のつばぜり合いの音以外は聞こえないほど閑静で。
この一撃で決まると…確信した。
「………ッッッ!」
刀を抜いたタイミング、切りつけ合うタイミング、通り抜けたタイミング、全てお互いに一致。だが違う点がただ一つだけあった。朽野望月は俺の身体を、俺は朽野望月の持つその刀身を狙っていたのだ。俺は刀を構えた後、朽野望月に素早く近寄るまえにその手に持つ刀に向けて斬撃を飛ばしていた。
その斬撃たちは朽野望月の持つ刀でさえも紙の様に切り裂きボロボロにし、そして俺の刀の柄で急所を突いていたのだ。
朽野望月は刀がボロボロの状態では俺を切りつけることも出来ず、急所を突かれ地面に突っ伏した。だがその時の表情はうっすらと笑みを浮かべていた様に思える。その笑みが何を意味するのかは俺には分からないが。
「さてあちらさんのご様子は…っと」
朽野望月を安静な状態にさせ、俺は五十嵐の方へと目をやった。