“能力の誕生 The birth of the ability 's„
「俺が親父に聞きたいことはだな…」
そう言って、俺は始めから本題を切り出す。
「俺たち月の名の持ち主は一体何者なんだ?」
そう、俺は過去の記憶との決着を着けてからというものこのことが頭から離れることは無かった。俺たちの持つこの力は何処から生まれ、誕生したのか。そしてこの力の持つ意味とは何なのか。そして旧世代と呼ばれる親父たちは何者なのか。
俺はこれらの事を詳しくは知り得ていなかったのだ。
「ハハハハ…ッ、なんだそんな事か」
親父はあっけなく笑ってみせる。
「俺たち月の名の持ち主はある研究に巻き込まれた一族のことさ。
その研究のプロジェクト名が………脱出不可能」
「んな……ッ!?」
親父が最後に口にした言葉に俺は言葉を失った。
「まぁ、そう驚くなや。このプロジェクト:脱出不可能は脱出が不可能な状態の密室に何人かの人間を監禁し、閉じ込めることで極限状態の心理に陥れさせ、疑心暗鬼から生存本能を呼び起こす研究だ。この研究を強制された人物のことを旧世代と呼んでいる…呼ばれている訳なのだが」
「それを親父が…?」
「あぁ、だが俺たち旧世代はこの研究を滅茶苦茶にした。つまりは脱出を可能にさせ、脱走したのだ。だから俺は今もここに居る」
「そういうことか…、だが親父」
俺の言葉を無視し、話が続く。
「あぁ、分かっている。何故研究を強制させられたか、それはこの研究より能力が発現したのが先だったからだ。それを解くカギは月の石にある」
そう言うと親父は何故か上着を脱ぎ始め、肩を露出させる。その肩は普通の人間のものではない、普通の人間にあるはずのないものが見えていた。
「親父…その肩は…月の石か?」
そう、親父の肩は白く白く、純白に変色し凝固しているように見えたのだ。
「あぁ、そうだ。月の石が街々の建材などに侵食し始めたのは実は、お前が引き起こした大崩壊以降でそれ以前は街々に月の石が使われたりだとかそんなものは無かったのだ。むしろこの月の石は俺たち旧世代にとっては脅威でしかなかった代物だ。そしてこの月の石が無ければ月の名の持ち主など生まれていない」
その言葉が指す意味を俺はなんとなくだが理解する。
「月の石とは確かにお前から生まれた物体だ。では何故月の名の持ち主と呼ばれる超能力者が誕生したのか…それは月の石の元とも言える未知のウイルスが付着した小隕石群が落下し、その場に居合わせた人物が居るからだ」
「…それが旧世代の月の名の持ち主」
「そういうことになる。当時の月の石はウイルスであったのだ。それも能力者として覚醒させるウイルスでもあれば、能力者となった者を死へと誘うウイルスであった。能力を暴走させると俺の肩の様に体を純白に石化、侵食する、通称白銀病を引き起こすのだ。俺の仲間も大勢犠牲になった」
親父は視線を落としつつも話を続けた。
「ま、話を要約するとだな。未知のウイルスに感染し能力を発現したのが旧世代と呼ばれる俺たち、月の名の持ち主という超能力者で、その俺たちは捕らえられプロジェクト:脱出不可能という研究を強制させられるが脱出。その際研究施設に立ち向かうが白銀病や戦闘により多くの犠牲を出したため、生き延びている旧世代も数少ないというわけさ」
そして足りない部分を理解した俺が補足を入れる。
「その後、親父たち生き残りの旧世代から生まれた奴らが今の俺たちであり、月の石は親父から生まれた俺があの日、大崩壊を引き起こしてからそのウイルスが物質にも侵食し生まれたというわけか」
「そういうことだな。つまりは旧世代の時代では病であった月の石のウイルスのコントロールを可能としたのがお前、睦月だ。だからお前だけが月の石を自在に操れる。お前自身が月の石の生みの親なのだからな…」
俺が月の石の生みの親か…。これだけ話を聞いたがまだ俺には何か引っかかるものがあった。
「なぁ、親父。…じゃあ今ある脱出不可能って一体何なんだ? あと俺以外の今いる月の名の持ち主たちは白銀病になり得るということなんだな?」
こんな機会はもう二度とないかもしれない。俺はまだ、聞くべきことがそこには存在していた。