“父と子 Fathers and Sons„
その後、俺は人の目につかぬように意識しつつ歩いて目的地である古びた廃墟のようなアパートへとたどり着く。生活音は聞こえてない為、もう住人は居ないのだろう。
「えっと…五○五号室だったっけか…」
階段を上りながらそう呟く。この指定されたアパートは五階建てでエレベーターがあったのだが故障していて使い物にならなかったのだ。
「さて…ここのはずだが」
ドアの前に手を出し、それを拳にしてから二回ほど叩いた。そして暫くするとガチャリと内側から鍵が開けられるのを確認できる。そしてドアを開けたその先にいた人物は…。
「やあ、愛しの俺の息子。元気にしてたか? 直接会うのは何年ぶりだ? ん?」
そう、俺の親父でありしませんかせんせーから聞く話だと旧世代と呼ばれる月の名の持ち主達の中心的人物でもあった、神代海月だ。
「あぁ、元気にしてたよ皐月もな。直接会うのは…そうだな、四~五年ぶりぐらいじゃないのか?」
「そうか、もうそんなに経っていたのか…」
親父はそう言うとどこか悲しげな表情を浮かべたが、話題を転換しようと続けて口を開く。
「さて、お前が俺に聞きたいことは山ほどあるんだろうが、俺もまずお前に聞かにゃいけないことがある」
「…何さ?」
「ここまで無事たどり着いたのは良いが、追手が居ては困る。それの心配なんだけども………この月夜見島までどういう風に来たんだ?」
「しませんかせんせーに聞いてはいなかったのか。この島まではそのしませんかせんせーお手製の超高速潜航艇とかいう狂気じみたやつで…」
俺がそう言いかけるとうんうん、と頷く。
「お前も災難だったな、あんなやつのそんなものに乗らされるとは。まぁそんな狂気じみた乗り物で来たというのなら追手の心配は無いか。じゃあ早速お前の話を聞こうじゃない、父と子二人でな…。まぁともかく座れ座れ」
親父も過去にしませんかせんせーに何かされたのか問おうと思ったのだがお茶を濁されたような口ぶりで俺を部屋に入ってすぐのところにあった埃の酷いソファーに座るよう催促する。
そして俺は渋々座った後に親父も俺の正面に座り込んでは部屋を見渡した。
「さてと、こんな部屋しか用意できずに申し訳ない。そして大体予想ぐらいはついているんだが一応聞こうか、お前が俺に聞きたいこととは何だ? 」
親父が真剣に俺の目を見てきたので俺もそれに応えるかのように視線を鋭く返した。親父は見たこともない真面目な表情で、電話の時のようなふざけている様子もなく、ただ一心に俺の方を見ている。
そんな顔をされたならばこちらとしても聞きたいことを全て答えてもらうしかない、答えてもらうんだと俺も心に決めて重々しい口を開く。
「俺が親父に聞きたいことはだな…」
この時、部屋の窓から見える空は薄暗く、そして夕日のオレンジが射していて綺麗なグラデーションをまだ描いていた。