“決着の悲しみ Sorrow of the end„
2016/1/28(木)改稿。
俺は保健室を出て、犯人が待ち構えているであろう自分のクラスへと向かう。犯人は俺が犯人を推測できているとは予想していないだろう。俺は重々しいクラスの戸を引いた。すると当然の様にクラスメイト達が俺の方へと向いてくる。「なんだお前、今までどこに居たんだ」その様な声も多く聞こえるが、俺は自分の声でそれを遮った。
「この事件の犯人がだいたい分かった。悪いが皆……このクラスから廊下に出てくれ」
それを聞いた皆は渋々クラスから出ていく。中には「何だよ神代お前が犯人なんじゃねえの…?」と言ってくる奴も勿論居たが、そんなのは眼中に無く、その中で出て行こうとした一人の女子に俺は声を掛ける。
「悪いが、舞鶴さん……君は残ってくれると助かる」
……そう。俺が声を掛けたのは先日転校してきた瀬々良木さん以前からモデルみたいで男子から人気な舞鶴さんだ。俺に声を掛けられた彼女は長い黒髪を手で整えながら「私に何か用かな?」と言った。
それに対して俺は冷たい声音で答えた。
「単刀直入に言うさ。君が犯人だろう?
それに君は舞鶴さんじゃないよね?」
「んな訳ないじゃん。私はいつも通りだよ」
彼女は確かにいつも通りの仕草で、いつも通りの風貌で、
いつも通りの見た目で。特に不自然な点など見当たらない。
だが俺はそれを否定する。
「いや、舞鶴さんはあの時、
学習室で誰かに殺されているんだ。な、瀬々良木さん?」
俺は舞鶴さんに向かって瀬々良木さん、と聞く。
「……いつから分かってたんだ?」
舞鶴さんはその様に言った。
この発言で彼女は舞鶴さんではなく、
死んだ筈とされていた瀬々良木さんだと確定した。
「最初から分かっていた、とは流石に言わないさ。でもこの事件を最初から振り返ると何かがおかしかったんだよ。そう思わないか?」
舞鶴さん、いや、瀬々良木は狂気じみた声で言う。
「ンな筈がない。私の変装は初めから完璧だったんだよォ。何がオカシイと言うんだァッ!」
「そうだな、まずは今日の校舎の外見からさ。今日、まるで工事が始まった様な見た目だったが一般的には工事が始まる数日前には生徒に通知が来る筈なのにそれが無く、工事が始まった感じだった」
「……通知が無い時だってあるさ」
「いや、それは常識外れだよ。次に、お前が書いたであろう手紙だ。一つ目の手紙には脱出は不可能だという言葉、つまりは脱出不可能と書かれている。この単語を聞いてピンと来ないか? そう、君は俺に初対面で脱出不可能をクリアしたんだよねと声を掛けてきた。つまりは脱出不可能について良く知っている人間に絞り込まれる訳だ」
「……ッ」
死んだ筈の瀬々良木は言葉を発さなかった。
「そして二つ目の手紙には月を持つものを壊せとあった。これを考えると普通ならこの学園とこの俺との選択肢に絞れる筈だ。以上の事から君が俺を狙った理由でさえ推測できる」
俺はそう言うと瀬々良木に問い詰める。
「まず、この事件を起こしたきっかけだが。恐らく君の父親、瀬々良木和樹から命令されたんだろうな。何故なら現在大人気のゲームをクリアされて、今後もクリアされると開発チームも困るだろうからな」
つまりは水篶の忠告は正しかったという事になる。
「そしてこの事件の全貌。まずは君の父親がα(アルファ)グループの開発チームに属する建設会社に工事するための足場や防音の布など準備をさせる。この時、先生たちは不在の為、気にもすることはない。
そして何かしらの用で舞鶴さん」と落ち合ってから、殺害して彼女を自分に変装させる。その舞鶴さんに自分が変装して瀬々良木秋月という人間と舞鶴さんという人間は入れ替わる訳だ。自分には才能がある、と言っていたのを俺は忘れていない。君は恐らく、変装の才能の持ち主なんだ。
そして計画の邪魔になる担任をも殺害して父親からの命令である、神代睦月の妨害という馬鹿げた物を遂行した。つまり君は初めから入れ替わっていたんだろう?」
「そうだ、その通りだよ………ッハハハハハ」
俺の話を聞いた瀬々良木は狂気じみた顔から落ち着いた顔になる。
「何もかもお見通しだな。あぁ、そうだよ。私の目的はお前の妨害だ。
そして私の才能という能力は変装の力で、舞鶴と落ち合った理由は単に私とアイツが幼馴染でこのミッションをやるのに邪魔だからと言って父親が殺せと言った。私は逆らえなかったんだ」
この後、お互いに少し沈黙が続いたが瀬々良木が話を続けた。
「もう、私から言うことは何もない。なにせお前が全て言ってしまったからな。流石、全てを持ち合わせたような才能を持っているだけあるよ。……私の完敗だ」
そう言うと彼女はポケットから薬の様な固形物を取り出した。
「止めろ。止めてくれ。まだお前には聞いていない事が山積みだ……ッ」
「無理を言うな。初めからこのつもりだったんだ。私は私自らの手で幼馴染を殺したんだぞ? 自分の罪は自分で償わなければいけない。死では死で償うのが道理だろう。じゃないと私の気が収まらないんだ。……じゃあな、名探偵さんよ」
彼女はそう告げると薬の様な固形物を口へと放り込み、飲み込んだ。すると彼女の表情が段々と青白くなり、地面へと突っ伏した。その口からは泡の様なものが噴き出している。
この時、俺の頬には涙が零れていた。何故なら彼女は毒物を飲む前にある事を呟いていたのだ。
「ゴメンな。鶴ちゃん。ゴメン。今、鶴ちゃんのところに行くからな。ゴメンな……」
俺は悔しさを抑え、涙を拭いてはクラスの皆を保健室で見つけた地下鉄の緊急出入口に誘導し、隔離された校舎から脱出。警察へと通報して後始末をお願いした。
家へと着いたのは深夜の事で、皐月はいつもの様に迎えてくれた。さっきまであんな狂気と恐怖に満ちた場所に居たとは到底思えなかった。
俺は何もする気が起きず、次の朝を迎える。




