“最初の一歩 First step„
超高速潜航艇は規定ルートに入った後に、凄まじいスピードで
加速し始めた。それに伴う体への衝撃は尋常ではない。
「ッッッ_____ッ!!!」
体が壊れそうだ。息ができない。これは人間が乗るものではないと
俺は実感し、ただ耐える。体を硬くし石のごとく固まる。
「ッッッ_____ァアッ!!!」
超高速潜航艇が急速に旋回する。月夜見島は太平洋に建造された
人工島のために、東京湾を抜けて房総半島を曲がる必要があるのだ。
速度は上がるばかりで収まる気すらなく、目の前にある大型モニターには
薄暗い深海の闇が映り込むだけで変貌はない。早く光を浴びたい。
「まもなく警戒エリアに突入します………搭乗者は静粛にお願いします…」
機内にそうアナウンスが流れる。この状況で声なんて出せるはずがない。
喉に激痛が走る。体は固定されているために衝撃はモロに受ける。
「ッッッ_____!?」
今度は至る所の骨に凄まじい衝撃が、体はバキバキとミシミシと悲鳴を上げる。俺はその突き抜ける痛みを一心不乱に耐える。
「まもなく目的地に到達します………搭乗者は強い衝撃に注意して下さい」
次はそうアナウンスが流れる。今の今まで数分の出来事なのだろうが、
体内時間は、体に来る衝撃は数時間分のように感じる。
その上、これ以上に強い衝撃が来るなんて死ぬにも等しい。
「俺が…こ、んな…ところ…で、…死ぬ?」
俺は無意識に口にしていた。俺はこんなとこでこんな無様に死ぬはずが
ないんだ。死ねるはずがない。ならばこんなものなんて耐えるだけだ。
「や、って…やる…さ…」
これがしませんかせんせーの狙いなのだろうと俺は口角を上げて
うっすらとただ微笑んだ。
それと同時、超高速潜航艇はこれまで一番強い揺れが引き起こる。
「ガァッ______ッッッ!!!」
くいしばった歯が崩れそうな勢いですべての痛みという痛みは体へと
直撃する。その衝撃は今まで以上の強さを持っていた。
その時に脳内に浮かんだ最悪のイメージを避けるべく、俺は体を硬化した。
まるで新しい能力を得たかのように骨を鉄のごとく固めた。
そしてその衝撃は消えてなくなり目の前の大型モニターには月夜見島の姿が見えていた。その姿は海上に浮かぶ白い月のようなもので、見える建築物たちはすべて白く、高いビルばかり立ち並んでいた。そして中央に見える建築物は群を抜いて高く重々しいオーラを放っていた。
「あれがこの島の中央施設、月天の塔…」
この月夜見島は他の土地と違い、様々な研究・実験が活発に行われており、
人造能力者も溢れかえっている場所だ。そんな奴らを統括するために設置されている施設でもあれば、あの研究開発機関の新たな重要施設でもあるらしい。
俺は超高速潜航艇のハッチに手を付ける。
「もうここらで良いか………」
そう呟くと一瞬だけ力を込める。するとそのハッチは開錠され、空気が抜ける大きな音を吐き出しつつ重厚なドアがこじ開けられる。
「俺の能力も健在のようだな」
俺の能力である「鍵を、扉を開ける力」は物理的な鍵には有効な事は過去に理解した。そしてその力は他の才能という能力でさえこじ開ける。
俺は他の月の名の能力者と違い、能力を使うことが才能なのだ。
全ての能力を持ち合わせていると言っても過言ではない。
「………よし、行くか」
超高速潜航艇の上によじ登り、足を付けては立ち上がって再び月夜見島を眺める。ここでこれから何が起こるかは分からない。だが俺は奪われたものを全て取り返す。これはまだ序章でしかない。その為にまずは、親父に会う。
今度は手ではなく、足に全ての力を込めて無人島の時のイメージをする。
そのイメージは跳躍。俺は今から空を翔る。そこまでの距離もないために行けると願うばかりだ。着地点はしませんかせんせーに指定されていたしな。
俺は超高速潜航艇から足を離した。
この時。この島でこれから起こる騒乱について俺は知る由も無かった。