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脱出不可能  作者: 風雷寺悠真
第15章原初の三日月篇
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“紛い物 imitation„

 あの斬月ざんげつの力を模倣した能力者だけあって強いポテンシャルを少年は持っていた。現に姿が見えないほどの速さをも兼ね備えている。だが速いだけでは俺には勝てない。


 「そこか……ッ!」


 俺の周りを動き回る少年の姿が見えなかろうと、この辺りは草むらが広がっているために風に揺れる草に着目すれば少年の姿など手に取る様に分かる。俺は少年が止まったと思われる場所、丁度俺の背後に勢いよく回し蹴りを入れる。


 斬ッッッ______ッ!


 回し蹴りを加えた方向と正反対の方から凄まじい風を切る音が聞こえたと思った矢先、激痛が身に走る。そしてそれだけではなく草むらが芝刈り機で刈った様に綺麗に切り取られ、土壌が露出する。


 「フフフ、そんなに甘くないよ」


 そう少年に囁かれる。姿はまだ見えない。


 「あぁ、どうやらその様だな…」


 俺は全身に切り傷が入り、血が垂れて来ていた。


 「そんなボロボロの体で何が出来る? 

この先には決して行かせないさ、いや行けないよ」


 そう言われたかと思うとシュン、シュンとまた風を切るそんな音が聞こえてくる。その中には小さな素早い足音も聞こえてきている。


 「チッ………」


 この場にただ止まって様子を伺うだけでは埒が明かないと俺は川へと走り込む。


 「バカな人だね…」


 そう言われたと同時、また体中に切り傷が続々と入っていき、

血が少しずつ流出していく。何故だ、まるで俺を追尾しているかの如く斬撃を喰らう。


 「これなら…ッ」


 俺は再び川へと飛び込んだ。川の中に入れば少年が俺の行方を追い切れずに斬撃を喰らう事もないと考えたためだ。


 「だから、何回言わせるのさ。神代睦月こうじろむつき、君はそこまでなの?」


 川の中へと入ろうと俺の体にはまた、切り傷が増えていく。


 「ッッッ_____ッ!」


声にならない激痛がまた、体中をまさぐる様に走る。

このままの状況だと多量の出血で意識が持たない。だが…第一の目的は

達成した。俺はなんの考えもなしに川へと飛び込んでいた訳ではない。

先ほど二ヶ領上河原堰にかりょうかみがわらぜきを突破する際まで使っていたゴムボートが陸地に流れ着いており、これを使う事で俺を追尾するかのように喰らっている斬撃の謎が完全に解けると考えたためだ。


 また、川まで走ってくるときに俺は大きく腕を振るい、

腕の切り傷から垂れてきている血をわざと撒き散らしていた。


 「そこに居るんだろう?」


 俺は陸地に流れ着いていた、もう空気も抜けかけているゴムボートを

少年が居るであろうその場所へ投げやる。


 「フフフッ」


 笑い声は聞こえたが投げたゴムボートは何故か空中で破裂した。


 「やはりそういう事か、これでお前の力がはっきり分かった。やっと対等に戦える」


 俺はそう呟くと、使わずに携えていたもの、斬月ざんげつが研究開発局に捕まる前に残したとされている刀を構える。


 「ほら、行くぞ___ッッッ!」


 地面を蹴り上げ、宙へと翔る。そして俺は再び腕からの出血を振り払ってからあるもの目掛けて異常なスピードで刀振り続け、その後少年が居ると予測できた場所へと斬月ざんげつの能力の如く斬撃をお見舞いする。


 「んな___ッ!?」


 少年は驚きの声を上げ、片足を地面につけた状態でやっと姿を現した。


 「やっと姿を現したな、斬月ざんげつの紛いもの。もうお前の力は俺に通用しない」


 俺はそう言い切る。俺の前に立ちはだかった斬月ざんげつの力を模造したと思われるその少年の力は斬撃を飛ばす様な芸当は出来ないものだと考えられた。だから俺は攻撃をお見舞い出来たのだ。


 「何故…僕のこの力が…分かったんだ」


 少年は顔を見上げ、そう言う。


 「俺はおかしいと思ったんだ。初めは斬撃が俺を追尾してきているのだと推測した。だがそれは違った。何故なら俺の行動すべてを先読みしていたからな」


そう、俺が行く先すべてに斬撃はあったのだ。それはつまり用意された斬撃であること。少年の持つ力は空中で斬撃を止めておけるのだ。でなければ辻褄は合いそうにないからな。だから俺はその斬撃を斬撃で相殺したという事になる。


 「俺はまず、お前の移動速度を考える事にした。その為勢いよく走ったんだ。結果としては俺の位置から足音が小さかった点を見ると、そこまで実は早くはない事が分かった。次に、俺は走っていく際に自らの血わざと撒き散らして罠が張られていないか調べる事に。だがその時、どこか違和感があった」


 「違和感、だと?」


 「あぁ、空中で俺の血の飛び方が異常におかしい軌道を描いたんだ。どうやらお前の斬撃は斬月ざんげつと同じで万物を切り捨てる様だな。そして最後に最終確認をあのゴミと化したゴムボートでやった訳だ。ゴムボートは見事に破裂四散した」


 「くッ…」


 少年は黙り込み、地面を殴った。


 「俺もお前がこの後追ってこないようにしとかなきゃいけないな…

能力者が悪というイメージが付いてしまったこのご時世だ。悪いが、くたばれ」


 俺はそう言うと地に着いた少年に向かって、斬月ざんげつの魂が入った刀を振り落とした。


 少年は力尽きた声音で、「峰打ち…君は甘すぎるよ」とそう言い残す。だが峰打ちのままでは止めなかった。俺はこの後ゴムボート等を加工し少年を拘束する。


 「くっ、…あぁぁ」


 言わずもがな、止血・消毒をする。一応の応急処置用具などもしませんかせんせーに持たされていた甲斐があった。


 応急処置を終えた俺は、すぐに移動し目的地である東京湾を目指す。

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